さらなる飛躍に向けて:JICA筑波、40年目の挑戦(前編)

2021年3月15日

刻々と変化する地球・世界・途上国の状況と課題。このような状況下、40周年を迎えたJICA筑波は、途上国の課題・SDGs(持続可能な開発目標)に貢献するため、どのような役割を果たすことが求められているのでしょうか。

JICA筑波では、新しい農業技術と国際協力、日本の企業と開発途上国を結び付け、様々なアクターと共に、イノベーションで開発途上国の農業分野の課題解決に取り組む活動「農業共創ハブ」(末尾リンク参照)を2020年度から開始するなど、新たな国際協力の姿を模索しています。

日ごろからJICA筑波の事業に関わっているお3方に、それぞれの立場からお考えを伺いました。

山口浩司(やまぐち こうじ)さん

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山口浩司さん

NPO法人国際農民参加型ネットワーク(IFPaT)所属。青年海外協力隊(現:JICA海外協力隊)として中米・コスタリカで活動後、1990年から約30年にわたりJICA筑波の農業機械分野研修で研修員の指導に従事。この間、JICA技術協力プロジェクトの専門家としてアジア、アフリカ、中南米地域に派遣され活動。

荒川英孝(あらかわ ふさたか)さん

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荒川英孝さん

株式会社三祐コンサルタンツ海外事業本部技術第1部長。開発コンサルタントとして国内外の農業・農村開発事業、特にケニア、ルワンダ、東ティモールなどの灌漑計画・水管理指導に20年余従事。新型コロナの影響で海外渡航が制限された2020年、「何か国内でもチャレンジできることはないか」と考え、JICA筑波が推進する「農業共創ハブ」(末尾リンク参照)との協働を開始(JICA筑波圃場に農業ICT機器を設置した実証実験、JICA専門家向けブラッシュアップ研修の企画・実施共催など)。

野口伸一(のぐち しんいち)課長

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野口伸一課長

JICA本部・経済開発部で農業・農村開発分野事業を担当し、JICA筑波で実施される研修事業の本部での統括を担う。20年前、職員として「国際協力事業団筑波国際センター(現:JICA筑波)」に配属され、研修企画・運営管理、来日した研修員のトラブル対応などを経験。当時のJICAのスローガン「人づくり・国づくり・心のふれあい」を、国際協力の前線としてのJICA筑波で実感。

Q1「民間連携」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」…国際協力の世界では、新しい取組みが次々に進み、著しい変化が起こっていますが、このような変化をどのようにとらえていますか?

山口:
研修事業のことを英語で、知識を共に創り出すという意味で「Knowledge Co-Creation Program(KCCP)」と呼んでいますが、まさに「Knowledge Co-Creation」が日々起こっている、という印象です。例えば、「収穫作業」という研修のひとコマの中で、途上国の研修員と日本人講師(企業・研究者・研修指導者)は対等にディスカッションを行います。研修員の出身国が異なる場合、社会・習慣・技術も異なるので、互いの相違点を共有し、意見を出し合うことで、今までは考えもしなかった新しい解決策が見つかることがあります。最近では、日本の農機メーカーにも意見交換に参加してもらっています。日本の様々なアクターが、途上国を「技術・知識を与える・指導する相手」としてではなく、「ビジネスのパートナー」として認識することが多くなったということでしょう。

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JICA筑波圃場に設置された配水ゲート。水位に合わせて自動で開閉します

荒川:
この十数年で大きく変化した事の一つは、携帯電話の普及です。私がプロジェクトでかかわっているアフリカ・ケニアでも、携帯電話を通じた買い物や電子マネーでの送金は日常になっています。また、「トラクターシェアリング」と呼ばれる、小規模農家とトラクター所有者を繋ぐネット上のプラットフォームを通じて、安価で効率的な耕起サービスを利用・提供できる仕組みもあります。このように、ICT(情報通信技術)やデジタル技術を使って農業をサポートする「アグリテック」(農業=Agricultureとテクノロジー=Technologyの組み合わせ)が急速に広がっていると感じています。
野口:
2000年以降、国際協力や途上国への開発に、民間企業が参画することへの期待が高まってきていると感じています。日本政府が国連や世界銀行と共同で開催するアフリカ開発会議(TICAD:ティカッド)を例にとると、1993年の第1回では、アフリカ諸国の良い統治(グッドガバナンス)の必要性が注目され、先進国による「与える」支援の性格が強かったと言えます。ところが、2019年に開催された第7回では、アフリカの「質の高い成長」を推進、「官民一体となったアフリカ開発」がテーマになりました。さらには、アフリカ諸国からは「援助」はいらない、「投資」をしてほしい、という声も聞かれるようになりました。それに応えるように、日本の民間企業・団体も、投資や企業進出を通じてアフリカの開発を進めることを表明し始めました。

後編では、変化する途上国の状況と課題を踏まえて、今後どのような国際協力にチャレンジしてみたいのか、また、イノベーションで開発途上国の農業分野の課題解決に取り組む「農業共創ハブ」を推進するJICA筑波への期待などについて、お3方の考えを深堀りしていきます!