スポーツで世界を、日本を、盛り上げたい! -JICA海外協力隊×スポーツ- 第3回前編:松井義美さん(トンガ・陸上競技)

2021年9月28日

「スポーツで世界を、日本を、盛り上げたい!」
JICAでは、海外協力隊事業など、1960年代からスポーツを通じた国際協力を様々な国で実施してきました。スポーツには、楽しさや熱狂、感動をもたらし、多くの人々を惹きつける力があります。そして、対象とする人・地域やその目的に応じて多様な取組が可能となるスポーツは、様々な力を持ち合わせています。シニア海外協力隊としてトンガ(2016年~2018年)、ペルー(2019年~2020年)での活動経験がある松井さんに、現地でどのような活動を行っていたのか語っていただきました。第3回前編は、シニア海外協力隊として初めて派遣されたトンガでのお話をお送りします!

トンガパラリンピック委員長(左)と松井さん

第3回:松井義美(マツイヨシミ)さん(トンガ・陸上競技)

【隊員データ】
隊員区分:シニア海外協力隊
派遣国:トンガ 職種:陸上競技
活動期間:2016年7月~2018年7月
配属先:トンガパラリンピック委員会

トンガでの生活

市場で売られているトンガの主食「マニオバ」やバナナ、スイカ

タオバラ(民族衣装)を巻いてパレードをする現地の人たち

 南太平洋にある島国、トンガ王国。ヤシの木やマンゴー、パパイヤ等が豊富に茂る雑木林の中で、生活していた松井さん。主食は「マニオケ(=キャッサバ)」(イモ類)。それに、豚肉、鶏肉、魚等をバナナの葉で包んで石焼きにする調理法「ウム」が一般的だそうです。他にも、インスタントラーメンやピザ、アイスクリームなど、カロリーが高いものが好きで、体格の大きな人が多く圧倒されますが、人懐こくユーモアがあり優しいトンガの人々。
 週末はリゾートホテルのビーチに行き、ハンバーガーを食べながら海を眺める時間が松井さんのお気に入り。ある時、友人と海を眺めていたらクジラの親子が潮を吹いている瞬間を間近で見ることができたそうです。島国ならではの体験、うらやましいですね!
 日本の中古車が多く使われているトンガでは、車のフロントガラスが粉々に割れていることも。なぜだか皆さん分かりますか?なんと、ヤシの実が落下してきて車に衝突。それを直さず乗り続けているそうです。その他にも、タオバラという伝統衣装やパレードの多さ、日曜日には全員教会へ行くこと等、見るものが驚きの連続だったそうです。

トンガでの活動

 中学校で体育の先生をしていた松井さんは、トンガで初めて障害のある方に指導するということで、派遣前に障害者スポーツ指導員の資格を取得。そうして、2016年にトンガパラリンピック委員会に配属された松井さんは、リオデジャネイロパラリンピックに向けて、視覚障害の砲丸投げ選手と肢体不自由(片腕)のやり投げ選手の指導に携わりました。本番に向けて、月~金曜日の朝5時30分から7時までのウェイトトレーニングと、週3回14時から2時間の陸上競技の技術指導を行いました。
 活動の目的は「障害者の生活とスポーツ活動を支援し、パラリンピック活動を推進する」ことであったので、大会後も週に3回、障害のある方に無料で指導していました。障害のある方がスポーツをする際の課題の一つが、競技場に来る手段がないことでした。家族からの支援も望めない状況であったため、パラリンピック委員長や松井さんが送迎することもあったそうです。二つ目の課題は、場所・物がほとんどないことで、必要な用具を調整することも松井さんの役目であったそうです。技術指導以前の段階で、参加者も初めて触れるため、持ち方や投げ方、力加減からの指導となりました。

【画像】車いすに乗ったやり投げ選手に指導する松井さん

 赴任されて1年経つと、陸上競技場が工事のため使えなくなり、陸上競技の練習は週1回(高校のグラウンドを使用)、その他参加者の養育施設となっている教会で、週2回ボッチャやシッティングバレーボールなどの障害者スポーツを行う場を設けました。長椅子を端に寄せてコートからつくり、得点板や判定用メジャーも手作りで整えたそうです。

【画像】シッティングバレーの様子。審判をしているのが松井さん。

ドバイ障害者国際陸上大会に出場した選手との写真

 そんな中、2017年3月からドバイ障害者国際陸上大会に向けての練習が始まり、監督として帯同することになりました。大会では、障害者選手のクラス分けで選手の状態を正確に伝えることや、監督会議に出席し、大会の注意事項を把握することに言語的苦労があったそうですが、選手が無事に大会に参加し、公認記録を残して終えることができ、監督としての責務を果たすことができたそうです。

トンガのスポーツ事情

 トンガといえば、何といってもラグビー!日本のラグビーチームの中にもトンガ出身の選手がいるように、体格の大きさを活かしたラグビーは人気があり、強豪国としても有名です。ラグビーで生計を立てている人も多く、ニュージーランドやオーストラリアなど海外でプレーする人もいるようです。
 その他にもバレーボールは男女問わず人気のスポーツ。女性にはネットボール(バスケットボールに似た、ドリブルがなくパス回しのみでゴールをねらうスポーツ)を楽しむ人も多くいるそうです。卓球、アーチェリー、水泳などを行う人もいますが、スポーツ環境が整っていないので、原っぱなどで娯楽として楽しみながらするもの、とお話いただきました。
 一方で、松井さんが携わっていた障害者スポーツについて、一般の人は関心がなく、ほとんど関わらない状態。しかし、糖尿病を発症しやすいトンガでは、手足を切断している人が比較的多く、障害者の生活は理解されています。だからこそ、国際協力としてトンガの障害者スポーツを支援する必要性を強く感じ、活動していたそうです。

【画像】トンガパラリンピック選手団との集合写真(左から2番目が松井さん)
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トンガでは、障害のある方々にスポーツをする場を創り出し、障害者スポーツを普及してきた松井さん。シニア海外協力隊として2回目に派遣されたペルーでは、異なる言語、環境でまた新たな活動を開始しました。後半では、日本、トンガ、ペルーと3か国でスポーツ指導に携わった松井さんが考える「スポーツの力」を熱く語っていただきました!ぜひお楽しみに!

JICA横浜では、企画展「スポーツのチカラ」を開催中。JICA横浜全体もリニューアルし、2021年6月から「楽しみながら知る」、「寛(くつろ)ぎながら見る」ことができる空間に生まれ変わりました。ぜひみなさんも足を運んでみてください!(文責:JICA横浜 仁木)

*インタビューは2021年9月9日にオンライン上で実施しました。