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株式会社SPEC_講演スライド説明、会場質疑応答

1.発表

(1)取り組みの背景紹介

久保様
我が社が扱っていますのは、約50年前、1975年に日本で開発された土を固める素材です。当時の日本ではまだ道路の整備状況が悪い地域もあり、そのような地域の住民の生活を下支えするために道路改善用に全国で広く使用されていた素材です。その後、日本の道路の整備水準も向上し国内での需要は限定的になりました。
2004年に本素材は開発した松村綜合科学研究所と打ち合わせ、開発途上国には人や自動車が容易に移動できる道路にするための需要があるという話が出ました。実際に途上国を訪問すると幹線道路は整備されているものの、農村部で見た光景は集荷トラックまで収穫した稲束を転びそうになりながら悪路を歩いている農家の人々でした。
この状況を見て、我が社で扱っている素材は道路を固めることにより、生活や農業生産性の向上に貢献できる可能性があるとの思いに至りました。JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、カンボジアで案件化調査、実証事業・普及化調査を行い、土壌を固める素材を用いてカンボジアの人々と共に生活を良くしていけると実感しました。カンボジアで得た経験を基に現在、ケニアにおいてモイ大学と共同で通常土木工事には使用できない特殊土壌を硬化し農村道路の整備に関する研究を行っています。
本日は「土を固める」ことがどのように食品ロス削減に貢献するのかについてお話します。

(2)スライドに基づく発表

上林様

  • 会社概要、及び発表内容の紹介(スライド1~2枚目)
  • 本素材の商品名STEIN(ステイン)とは「岩、硬い」を意味するドイツ語です。粘土質、砂質を問わず、土壌に約10%添加することにより大型トラックも通行可能な強度を持たせることができます。これにより短期間で道路、水路、ため池の施工を可能にします。構造物の材料の90%は現場の土壌であるため、外部から材料を購入する必要がなく、大幅にコストを抑えることができます。(スライド3枚目)
  • 硬化のメカニズムは、①STEINによりプラスマイナスに帯電している土壌粒子同士を強固に引き付ける、②水を加えセメントの水和反応により更に強度が上がるものです。この2つの効果により土をブロックにように固めます。材料の9.5%を占めるセメントも工事を行う国で生産されたものを使用するため、外部から持ち込むのはSTEIN元素のみ、すなわち材料の99.5%を現地調達で対応できることのメリットは大きいです。材料の表層を硬化させ構造物をつくるのに用います。強度は施工後2週間で30kg/cm2以上になり、徐々に強度は増し、一ヶ月以降に最大で80~90 kg/cm2となります。大型トラックであっても道路に対する荷重は7kg/cm2程度であることから問題ありません。(スライド4枚目)
  • 施工の状況です。最初に最も経済的かつ高い強度を出すSTEIN、水の配合割合を決定するために土質試験を行います。道路の場合は硬化する層にSTEIN、水を混合します。写真では混合にバックホーを使用していますが、現地で調達しやすいその他の重機を用いる等で作業を行います。水分調整完了後、ロードローラー等で転圧し、道路表面に散水して養生します。水路やため池に用いる場合は事前にミキサーを用いて混合済みの土壌を準備します。型枠等で表層を成形後、転圧を行い、散水、養生を行います。道路、水路・ため池ともに、施行後3~7日間で実用できる硬さを出すことができます。(スライド5枚目)
  • 日本の施工例を紹介します。日本でもSTEINが道路建設等に用いられてきました。北海道の美瑛町に1975年に施行され、現在も農道や春の融雪期に一時的に雪解け水を流す水路が現存します。48年が経過した現在もメンテナンスフリーで利用されています。このほか、ため池の多い西日本では豪雨の時に決壊しないようにしたり、洪水吐にコンクリートを用いる代わりに土壌を固めたりするのにSTEINを用いる事例があります。これらのため池関連の施設は共同研究により耐久年数を10年にする水分の配合割合を算出しました。最近は校庭や運動施設の防塵施工、公共施設・個人宅・工場における防草施工の受注が増えています。(スライド6枚目)
  • STEINの環境性能について説明します。1つ目が脱炭素への貢献です。現場の土を用いるため、生産時に温暖化ガス(以下GHG)を発生する資材を用いないこと(100㎡施行あたりのCO2排出量はコンクリートを用いる場合と比較し92%削減)、外部から材料を搬入する際のGHG発生抑制に貢献します。将来的にはSTEIN施工により削減した炭素の排出権取引により、施工主にクレジット売却による利益が得られるシステム確立を目指しています。2つ目がヒートアイランド対策への貢献です。表層の土壌粒子間に保持される水が気化することによりアスファルトやコンクリートと比較し、どの程度表層の温度上昇を抑制できるか、2024年の夏季に実験をする予定です。(スライド7枚目)
  • サハラ以南アフリカを事例とし、同地域で生産量の多い農産物がフードサプライチェーンの各段階での損失を確認しました(FAO 2011年)。生産段階での損失が多いことは水の不足によるものも一因であると捉えました。また果実・野菜は流通段階での損失が目立つ。これは道路状況の悪さによる振動による荷傷みによるものであり2~3割がこの段階で失われるという報告もあります。STEINを用いて、これらの損失の削減を実現する方法について述べます。(スライド8枚目)
  • インフラ整備の予算が限られる結果、雨季には水たまりや轍が発生し、生産地から市場や物流の中継地までの運搬に支障が出る、農道や圃場の状況が悪いことにより農業機械を投入できず農業生産性向上を果たせない、灌漑効率の悪い・保水力のない土水路やため池による水資源の無駄等の問題が起きています。建設材料の9割を現場の土を使って硬化させるSTEINにより、資材・輸送・施工コストを抑えされること、日射による熱の影響(変形・亀裂の発生)がなくメンテナンスコストも抑えられることにより限られた予算での改善が可能です。農道や圃場の整備は農業機械化による生産性向上及び生産物の運搬時の損失削減に貢献します。ため池や水路の整備は水資源を有効活用に貢献します。またケニアではSTEINを用いたため池で魚の養殖をした実績もあります。魚は比較的高い値段で売れるため、養殖に係る農家の新たな収入手段となりました。近年ケニアでは雨季・乾季が定まらないことが多く、天水農業も不安定になっています。しっかりとした貯水機能を持つため池や効率的な灌漑の実現により、気候変動にも強い農業に寄与していきたいと考えています。(スライド9枚目)
  • 近年の国外におけるSTEINを活用したプロジェクトを紹介します。
  • カンボジア:同国製のセメントとSTEINを混合する装置を用いて灌漑、あるいは農道を管轄している省庁と連携し、農道の施工実験を行いました。今後はカンボジア政府の予算に合わせた試験、実装を行っていきます。また、同国では人口の急速な増加に伴い住居の需要増が見込まれており、建物の基礎部分以外を安価に固めたいというニーズに応えていきたいと思います。
  • フィリピン:セブ島では農業機械や出荷のために農産物を搭載した自動車が利用する道路整備にSTEINを用いました。
  • スリランカ:稲作が非常に盛んですが、大きなため池から水田までを水を引く小規模水路の整備水準が低いという問題がありました。この問題に対応するために同国の灌漑省、地域の住民・農家グループに対し施工方法を伝授しました。これにより、施工業者に外注することなく、彼ら自身で水路を施工できるようになりました。
  • ケニア:現在、調査を実施しています。JICA海外協力隊員の時には同国でNGOに所属し、小規模農家の生計向上に携わっており、灌漑水路や農道の状況を把握していましたので、それらインフラの改善を実現するためにSTEINを用いた試験を行っているところです。現地の代理店を通じて色々な営業活動を行っています。ため池の施工実績が多く、同国内で10か所以上のため池で農業用水や魚の養殖に利用されています。また現在、MOI大学と共同でブラックコットンソイルという水分を含むと膨張し、粘度が高くなる問題土壌をSTEINで硬化させることにより圃場整備を行う実験をしています。同土壌はケニアの特定の地域に広く分布していますので、それらの地域では原料を容易に現地調達できます。現在、国内の3か所から試験用のサンプルを採取し、強度試験、大学構内での小規模ため池と道路整備の試験を実施中です。強度試験の結果を基にブラックコットンソイルに悩まされている州政府や建設会社等にこの問題土壌をインフラの原料に変える解決策として提供を考えています。(スライド10枚目)
  • コストの比較です。カンボジアの工場で生産したSTEINを用いた場合、1㎡あたりで人件費、資材費、重機、輸送費込みでアスファルト舗装と比較し20%、鉄筋コンクリートと比較し60%のコスト削減を実現しました。広大な国土を有するアフリカ諸国での施工を考えた場合、日本からの海上輸送、国内輸送費が資材費の何倍もかかりますので、カンボジアのコスト削減の事例をアフリカにおいても展開したいと考えています。(スライド11枚目)
  • 今後のビジネスモデルです。日本国内においてはJICA、JETRO、道路や灌漑施設整備を所管する省庁、建設会社、開発コンサルタント、自治体や公共施設を管理する団体にSTEINを周知します。国外においては、STEINの元素のみ輸出し、STEINの製造は現地で生産する体制を構築します。具体的には生産しているもののムラやバラツキがあるセメントの品質、混合する機械のチェックを現地のパートナーと共同で行い、品質を保証できた材料を政府、現地の建設企業、国連機関、国際NGO、大規模小規模農場の経営者を潜在的顧客として、STEINを利用することの利点について理解を深めてもらうために連携を持つことを予定しています。(スライド12枚目)
  • 「土を固める」機能を持つSTEINを利用することによる価値(施工コストの抑制、使用して施工した設備の耐用年数の長さや維持管理の容易さ、アジアやアフリカの課題解決への貢献、現地生産による雇用創出の可能性)を列挙したものです。本日の発表の所期の目的は、STEINの機能とそれが生み出す価値の概要を把握いただくことですので、ご記憶いただけますと幸いです。(スライド13枚目)

久保様
「土を固める」ことの価値をご理解いただければ幸いです。
我が社のような中小企業が良いものを作って要望に応えることはできるのですが、その一方、一番苦手としていることは、「製品や技術を知ってもらう」ということです。良い製品を作っていれば商社等に自然に情報が届くだろうといった甘い考えを持っていました。しかし自分たちで知ってもらう機会を積極的に作っていかなければ知れ渡ることはない、ということをJICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業の活用やメディアの登場を通じて分かったことです。知ってもらうことに注力して今後も事業を行っていきます。
実際、「土を固める」ことがフードロス削減にどのように貢献するかを紹介しましたが、より多くの地域に赴くことにより、それぞれの地域の課題解決の下支えとなる、より多様な価値を提供できる可能性があると考えます。私たちの製品は材料の99.5%を現地調達・現地生産するものです。地域の住民が主体性を持って課題解決をする手段を習得することが重要なのです。「誰々のために」ではなく、「誰々と共に」という形でなければ、これまで外部の支援に依存してきた人々の考えを変え、下支えという立場で協力することはできません。必ずしも最新技術ではなく、日本で50年前に開発、使用されていた製品が現在のケニアの課題解決の手段としてニーズがあるように、我が国では古いとされる技術でも、世界の市場を見れば、貢献する機会は多くあります。

2.会場質疑応答

質問1
コストが安く済むというお話がありました。また耐用年数が長く、メンテナンスも容易とのことですが、ライフサイクルコストの観点から他の製品や技術との比較はされているでしょうか。
回答1
久保様
北海道の美瑛に1975年にSTEINを用いて整備した道路が50年近くたった現在も活用されています。日本ではアスファルト舗装の場合7~8年、鉄筋コンクリートの場合10~15年、カンボジアの場合であると20~30年と言われていますが、それらと比較するととても長く使われています。我が社では10年間メンテナンスフリーという基準で施工を考えていますので(実際は状況にメンテナンスを行う事例も多少あり)、他の製品と比較しますとライフサイクルコストは安いと言えます。しかし、実績はあるものの定量的評価は行っていないため、コンサルタント会社に評価等の下支えを相談することを考えています。
導入時は道路が安いか高いかよりも生活を便利することが求められるので、固められなかった材料(地域資源)を固めることができるという機能を評価して採用していただいています。
ただし今後、学術的に定量的評価をきちんと行うことは必要と考えております。
上林様
ライフサイクルコストにつきまして、JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業を利用したカンボジアの事業で算出しております。STEIN、アスファルト舗装、コンクリート舗装の耐用年数、年単位の補修コストを算出、比較しております。その結果、STEINが最も低コストになるという結果が出ております。
※以下の報告書で「ライフサイクルコスト」で検索いただくとP51に「表 3.20 ライフサイクルコスト試算結果」が掲載されています。

質問2
リベリア、マラウイで事業をしていますが、それらの国ではアスファルト舗装の道路に大きな穴がある状態です。そうした穴を埋めるといった補修にも使えますか。
回答2 (久保様)
STEINは土を固めてコンクリートのような強度を出すことができるので、そのような補修にも使えます。
質問2 に関する質問者のコメント
材料の95%を現地調達し、材料の輸送コストが抑えられるということが他の穴埋めをする資材と比較し、STEINの強みと感じました。
コメントへの補足回答(久保様)
ありがとうございます。補足するとセメント5%を混ぜる必要があり、そのための設備投資は必要になりますが、それを差し引いてもメリットがあると思います。