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- 日産スチール工業株式会社_講演スライド説明、会場質疑応答
1.スライドに基づく発表
- 弊社の青果物の流通過程におけるフードロス削減取り組みの紹介、及び開発途上国に事業展開をする時の留意点(弊社が苦労した点の共有)の2つについてお話させていただきます。(スライド1~2枚目)
- 流通過程でのエチレンガスやカビの発生について説明します。冬の浴室と更衣の場所で急激な温度の変化によるヒートショックへの注意喚起を耳にします。青果物の流通において先進国では収穫地から集荷場、青果市場、輸出する場合は港湾に至るまで運搬時に冷蔵しますが、各段階で冷蔵コンテナから荷卸しをする際、急激に高い温度に青果物はさらされます。青果物もヒートショックを起こすのです。温度差が5℃以上になると青果物はエチレンガスを大量に発生し劣化します。このため農家の方々の食味や糖度を上げる努力により収穫時に美味であったのに消費者に届く時には味の低下が著しいということが多々あります。また多くの開発途上国の現場を訪問しましたが、収穫した青果物の4~5割は腐って廃棄されています。スライド下段の写真は途上国の様子です。荷台には日光を遮断する屋根や幌は備え付けられていません。道路はガタガタで運搬中に青果物同士が振動でぶつかり合います。市場では投げて運びます。弊社の包装材の使用云々の前に流通過程に関わる人々の教育が必要な状況です。このため弊社では流通過程に関わる人々の教育から出口戦略までをセットにして取り組んでいます。(スライド3枚目)
- 中央の写真はインドの市場で撮影したメロンです。World Food Indiaに弊社が出展した時に、メロン農家の方が3日間続けてブースに来て、1日1万ケース出荷いるが、その5割は廃棄していると嘆いて話しました。それを確かめるために実際に市場を視察した時に本当に5割が腐っていました。インドの農産物市場では腐るという概念が希薄なため、腐っているものも含めてバルクで取引されます。メロンを目の前にして、包装材の利用だけでなく人々の教育までを含むトータルソリューションが必要だと考えそのためのチームを結成しました(後述)。(スライド4枚目)
- ブラジルとラオスのビエンチャンでの写真です。腐って廃棄されています。開発途上国では当たり前の風景です。しかしインドのように世界一の人口を抱えている国において、生産された食料の半分が食べられずに廃棄せざるを得ない状況というのは死活問題なのです。(スライド5枚目)
- 弊社の包装材Freshmamaの紹介です。プラスチックフィルムです。このフィルムがエチレンガスを水と二酸化炭素に分解します。左上のグラフはFreshmamaを置くだけ・敷くだけで8時間後には80%、24時間後にはほぼ全てのエチレンガスが分解されたことを示したものです。エチレンガスは植物の成長ホルモンであり、エネルギーを消費するため、エチレンガスを放出するほど食味が低下していきます。カビの胞子は空気中であればどこにでも漂っています。胞子は水分に含まれるミネラルを吸収して菌糸を伸ばすのですが、Freshmamaによってエチレンが分解されて生じた水は全くミネラルを含んでいない純水です。青果物の表面に付着しているカビの胞子が純水に触れても発芽できないというメカニズムです。右下の図は1956年の東京大学の柳田教授の論文を引用したものです。赤字に示している数値のとおり、シャーレに純水をいれた場合、カビの胞子が100%変化しない状態(Non swelling)、すなわち培養できないというメカニズムが科学的に証明されています。右下の図はカビ(Mold)抑制に関するFreshmamaの機能を示したグラフです。2時間後、対照群ではカビのコロニー数は変わっていませんが、Freshmamaを使用した場合、コロニー数の大きさが半減しています。(スライド6枚目)
- この写真はシャインマスカットを5℃で100日間冷蔵した3つの写真です。野菜市場にある大型保冷庫で10日毎に取り出して状態の推移を撮影したものです。保冷庫から常温に取り出すことはその温度差異によってヒートショックを起こし、エチレンガスが大量に発生します。左側のFreshmamaを使ったシャインマスカットは手前の一粒がなくなっていますがこれは私が食べたからなのですが、鮮やかな緑色をした軸が見えているのが分かりますね。食べた粒はパリッとして美味しかったです。果物の美味しさの基準は糖度だけではありません。糖度は腐る寸前にものすごく上昇します。糖度、酸度、硬度の3つが非常に重要です。この糖・酸・硬の3つをバランスよく保持できるのがFreshmamaの特長です。他の中央、右側の2枚の写真は他社様のMA包装(ガス置換包装)です。生産地から消費者まで一気通貫で保冷した状況で運ぶのであれば問題ないのですが、輸送の過程でヒートショックが起きざるを得ません。例えば輸出する場合、検疫の時に常温にさらされます。この過程でカビにやられてしまいます。このことを覚えておいていただければと思います。(スライド7枚目)
- ハワイ島産のパパイヤの成功事例を紹介します。展示会で出会ったパパイヤ農家の方が輸出時の損失率が3割にのぼることに苦しんでいました。Freshmamaの使用をお勧めし、その農家の方が導入したところ損失率は1割に低下しました。そこで、空輸のみならず海運輸出をした結果、損失率は1割未満(5%程度)に抑えられました。海運はコストが安く済み、かつパパイヤの品質は維持されるのでコストパフォーマンスの向上に貢献し、農家の方からお喜びの声をいただきました。(スライド8枚目)
- カルフォルニアのノンケミカルマンダリンの事例です。ノンケミカルの場合、カビの発生が多いのですが、写真は収穫後、箱に入れたマンダリンの上にFreshmamaを置いて45日後の状況を写したものです。本当にただ置いて密閉するだけです。右下の写真は45日目のマンダリンを半分にカットして実の中を写したものです。新鮮でジューシーな状況が保たれていました。(スライド9枚目)
- 開発途上国ではリーファーコンテナの使用はほとんどないですが。この写真はそのような状況の中でのインドの成功事例を写したものです。幌もついていない荷台にライチを入れた箱を積み、風通しを良くした状態を保つよう指示し、Freshmamaを使用した場合と何もしない対照群を72時間走行させ、その結果を比較する試験です。なお、走行中の気温は36~40℃(瞬間の最高温度は50℃)でしたが、Freshmamaを使用した方が損失0ということでライチの関係者に喜ばれた事例です。(スライド10枚目)
- ここからは開発途上国におけるマーケティング手法や留意点についてお話させていただきます。遵守すべき4Wの法則です。我が社はこれを守って事業を行ってきました。(スライド11枚目)
- 他社と差別化できる製品であることも非常に重要です。オンリーワンの製品です。先に発表された株式会社SPEC様のSTEINはそれを体現する素晴らしい製品の事例ですね。開発途上国ではすぐに模倣されます。製品市場も荒らされます。価格破壊が起こり、価格競争に巻き込まれます。特に模倣が酷い国もあります。このため世界にうって出るには国際特許出願や特許取得が必須条件です。海外の企業と秘密保持契約(NDA)を締結する時は文言の解釈が異なる場合があるので、国際弁護士に依頼し、多義的でなく一意的となるようにすることが、後の揉め事の発生防止のために非常に重要です。弊社も国際弁護士と契約し、NDAを締結する際は必ず確認してもらうようにしています。(スライド12枚目)
- 「段取り9割」が非常に重要です。これは建設現場でも料理人にも共通するものです。行動をする前に死ぬほど考え、シミュレーションを何度も繰り返します。そして決断したら、逆算して工程を定めます。このやり方が成功するための最短の方法です。実際に弊社はこのやり方を実践してきました。(スライド13枚目)
- 相手の利益を最優先に考えなければなりません。開発途上国では6~7割が農業に従事していますが、その大部分は貧困に苦しんでいます。そのため農業分野でも事業を展開しています。相手が困っており解決したいと考えているの情報を収集し事業の方向を定めます。取り組みの方向性を間違えてはいけません。また、市場の規模の大きさのみに着目し事業をするのはよく見られる失敗です。下調べに時間をかけて実現可能な目標(一攫千金を狙うのは愚)を設定し、さらに時間を区切ってサブ目標を設定することが重要です。弊社の場合、5年後、10年後、15年後というマイルストーンを定めて事業を進めています。不十分な調査・情報や、誤った目標設定により、海外に展開したものの撤退した企業を多く見てきました。(スライド14枚目)
- 国際展示会への出展は非常に有効です。現地政府や企業等のパートナーを得る有効な手段になります。弊社の事例で恐縮ですが、2017年にワールドインディアに出展してから1年後の2018年にはインド中央政府、食品加工工業省と連携協力覚書(MOU)を締結しました。同年、モディ首相訪日の際、首相官邸の晩餐会に招待され、青果物流通過程における損失削減に関する弊社の今後の展望を同首相に説明しました。海外展示会への出展に加え、オンライン商談会をフルに活用することをお勧めします。理由として、①現地代理店を探すのに最も有効であること、②これにより渡航コスト削減や展開国の文化を知る代理店の対応による売上確保の容易化が挙げられます。これにより弊社では各国に製品の展開を実現しています。(スライド15枚目)
- 政府機関とコネクションを持つことも海外展開の有効な手段です。開発途上国にある日本大使館にはおおむね農林水産省からのアタッシェの方がいます。アタッシェの方を通じて日本大使館から現地政府に働きかけ、製品のメリットに関するプレゼンテーションをすることも非常に効果的です。弊社の経験では、特に商工会議所と接触する機会を得ることは、多くの企業が同会議所に加盟していることや会議所を通じて企業と知り合うことができるため、商機を合理的に生み出すだけでなく、友好的に話をできるという利点がありました。一方、開発途上国における事業展開の留意点として法律や規制の変更頻度が高いということです。常に政府機関に関する情報収集をしておかねばなりません。弊社でもインド、ケニア、タンザニアでプラスチック規制がかかり、Freshmamaの事業展開の話が頓挫した苦い経験があります。特にインドでは生産工場を決めて原料も送り込み、生産に関する研修も実施し、MOUも締結しているにもかかわらず、規制により停滞している状況です。(スライド16枚目)
- 弊社はJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、ラオスでニーズ調査を実施中です。日本大使館を通じ、同国副首相兼外相、商工業大臣、駐日ラオス大使と面談の機会があり、製品や事業展開について意見交換を行いました。ラオスの農業は非常にポテンシャルが高いのですが、一方で、収穫した農産物の多くを腐らせてしまい廃棄しています。私は現地調査でこれら廃棄農産物は利益に変えられるダイヤモンドの原石であると感じました。来週(2024年1月29日の週)から各省の大臣と本件について協議をする予定です。(スライド17枚目)
- 海外での事業展開に関し、開発途上国の農業を対象にしたチームJAPANというものを編成しました。本チームは日本の各企業様で構成されており、私がチームのリーダーを務めています。一企業で海外事業を行うことはリスキーな事が多いですが、チームで対応することにより強靭な体制を構築しています。チームを食料チェーンの川上(土壌改良等)、川中、川下の3段階に分け、現地企業は関心のある段階を担当している日本企業にコンタクトし、オンライン会議、NDA、契約、そして現地での販売に繋がるようにしているものです。各企業単位での契約・販売のように思われるかもしれませんが、チームで対応しているため、情報等は構成企業全体で共有される仕組みとなっています。スライドの左下の図はラオスのチームJAPANの構成企業を示したものですが、他諸国でも同様の体制を敷いております。(スライド18枚目)
- 弊社のFreshmamaの展開実績国です。各国に横展開した事例もあれば、在日大使と打ち合わせたレベルの国も掲載しています。治安の問題や価格面で折り合いがなかなかつかない等は開発途上国ではよくあることです。一歩ずつ状況を打開して事業を進めています。(スライド19枚目)
- 最後のスライドです。この図は関係するアクター全てが円満になるための体制構想を表したものです。構想を実現するためにチームJAPANでステップ・バイ・ステップにて取り組んでおります。ラオスをパイロット国として成功させラオスモデルを作り、農家のためにビジネスモデルを世界各国に展開していきたいと考えております。(スライド20枚目)
2.会場質疑応答
質問1
Freshmamaの使用方法に関する質問です。果実や野菜を1個ずつ包装しなくても、例えば段ボール箱に1枚覆うだけで効果はあるのでしょうか。
回答1
おっしゃられるとおりです。段ボールの中に1枚置いて、閉じるだけで効果があります。
質問2
1回の使い切りでしょうか。あるいは何度も再利用できるのでしょうか。何度が使用すると吸着したエチレンガスでFreshmamaが飽和して使えなくなる等はあるでしょうか。
回答2
Freshmamaの宣伝にもなる良いご質問ありがとうございます。何度もリサイクルできます。輸出に用いると回収はできませんが、回収が出来れば理論的には半永久的に使用できます。衛生面の観点からは、リサイクルする際は一度水洗いし、乾燥させてから使うようという説明をしております。日本では長期保存のために用い、出荷時期を調整し、市場価格が高い時期に出す販売戦略実現の手段に使われていることが多いですね。
質問3
開発途上国の国内市場向けであれば運送業者から回収して何度も使い回しできるということですね。
回答3
可能ですが、株式会社SPEC様のご発表にあった道路の整備水準の向上も必要ですし、コールドチェーンも必要です。インドの事例のようにヒートショックで腐らせないようにするための関係者の教育も大切です。そういった組み合わせを前提に、何回も使いまわせるFreshmamaが青果物の品質維持に貢献できると言えます。
質問4
ご発表の中にもありました知的財産の保護が重要と考えており、質問させていただきます。製品のコピー、あるいは劣化コピーが市場に出回り、市場を混乱させるということは非常に深刻な問題です。知的財産の保護について、どのようにしているか、どの程度のコストをかけているのか、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。
回答4
弊社の場合、国際特許を出願しています。具体的には特許権で守るために抑えておかねばならないと判断した13ヵ国です。それらの国のほとんどには現地代理店があり、類似品が出るとすぐに情報を上げ、迅速に対応する体制となっています。またFreshmamaの商標もとっており、ある国では現地語で商品名を付ける等、2パターンの類似品が出回ったことがあるのですが、その国の契約をしている弁理士に状況を監視してもらい、2年間かけて最終的に抑え込みました。Freshmamaを含む弊社の製品は内在特性特許を取得しており、外部から分かりづらいようにしています。類似品を認めない姿勢に対し、クレームがあったら押し返すようにしています。現在、日本、韓国、インドネシアで正式に特許を取得済みです。また各国における類似品の出回り等がないかに常に目を光らせ情報収集することも重要と考えています。
質問4(追加)
類似品が出ているかの監視については、各国に代理店を通じて、また専門の機関と連携をしているということでしょうか。
回答4(追加)
どちらかと言えば、代理店等の民間との連携が多いです。鮮度保持をキーワードに事業を行っていますので、逆に特許に抵触する可能性はないか、類似品により侵害されているのではないか、との問い合わせ等を通じた情報が世界中の企業やFreshmamaの使用者から寄せられます。Freshmamaは大阪大学産業科学研究所と共同開発していますので、製品の科学的根拠を丸裸にしています。類似品と思われる製品の材料に同じ成分を使用していることが分かれば、その企業を叩きます。現時点では成分まで同じというタイプの特許権侵害を受けたことはありません。似たような製品はありますが、Freshmamaの特許の範囲と全く同じでなければ差し止めを求めた等の事例はございません。
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