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フォーラムのテーマに関するコメント・助言
まずは国連の農業関係の諸組織について紹介させていただきます。国連世界食糧計画(WFP)という組織について耳にされた方もいると思いますが、こちらは人道支援として非常に危機的な状況にある地域に対し、食糧の緊急支援を行う組織です。それに対して国連食糧農業機関(FAO)は食糧支援を行うことはせず、危機的な状況下にあっても、如何にして食料生産をするか、流通を維持するのか、あるいは復興していくためにはどうすれば良いかを中心に支援をしております。平時は技術的な支援をしています。
注:これに加え、ローマを本部とする国際食料農業機関として、開発途上国の小規模農家に低金利融資や補助金を通じて生計向上を支援する国際農業開発基金(IFAD)もあり、これら3つの機関はRome Based Agencies(RBA)として緊密に連携を取っている。
本日のフォーラムでのJICAの発表、そして民間企業から非常に興味深いお話を聞くことができ、大変参考になりました。というのもFAOの現事務局長はまさに、イノベーション、様々な技術革新、世界にある様々な新しいテクノロジーが食料問題の解決に貢献する、と声高に主張しているのですね。現在色々なソリューションが出てきているのですが、実際のソリューションのお話を伺うことができました。それ以外に民間企業や公的機関から色々な新しい技術やサービスが誕生していると認識しています。
本日のテーマは「食品ロス削減」を通じた食料安全保障であったのですが、FAOでは「食料のロスと廃棄」に分けて表現しています。「サプライチェーンの上流に位置する生産から加工、運送を含め、小売りの手前までに失われるもの」を食料のロスとしています。「小売、外食産業も含めた消費者の段階で無駄になったもの」を食料の廃棄としています。Food loss & wasteとして分けています。分けている背景には、ほぼどこの国においても食料のロスと食料の廃棄で管轄官庁が異なることによります。日本の場合、生産から小売りの段階は農林水産省、食品加工や流通等に関連する省庁が関わっていますが、廃棄の段階については環境省がモニタリングする等主要な役割を担っています。
このような世界の状況を踏まえて国連の中でも持続可能な開発目標(SDGs)においても食料ロスの指標はFAOが、国連環境計画(UNEP)が廃棄の方を担当する形となっています。概数ですが世界全体で見ると、生産から小売りの手前までの損失率は13%、小売りから消費者の段階における廃棄率は17%です。ただし先ほど西本様のご発表にあったように、この状況は場所によって異なります。またこの数値の算出は非常に難しいのです。日本では国連の定義の「食品ロス」の数値の算出した事例はほとんどないと思います。日本では廃棄の方に注目が集まっているおり、国際的な比較ができないこと、食料ロス・廃棄のモニタリングは非常に困難であることをお伝えいたします。
本日のテーマは食品ロス削減を通じた食料安全保障への貢献でしたので、ご登壇された株式会社SPEC様、日産スチール工業株式会社様はテーマに沿った現場の具体的事例についてご講演されました。しかし食料安全保障の現状は、農業・食料システムという非常に幅広い概念で捉えるようになっています。この捉え方が従来のサプライチェーンと何が違うかと申しますと、サプライチェーンは生産、加工、流通、販売というリニア(線形)な捉え方ですが、農業・食料システムはサプライチェーンの各段階を取り巻く様々な要因全てを包括した、非常に複雑で重い概念なのです。例えば生産段階においても、ただ生産資材を投入した、生産資材のコストがいくらか、というだけでなく、そもそも、生産するための農地を得るためにどれくらい森林伐採を行ったのか、あるいは生産にどれくらいの水を使用したのか、水資源を枯渇させていないかという観点から水に由来する人権、ジェンダー問題、貧困までも考えなければなりません。
JICA食料安全保障イニシアティブについての説明の中で、食料のAvailability(十分な量が存在している)、Access(入手できる)、Utilization(食べることができる)、Stability(安定的に入手できる)の4つが示されましたが、この中に特に重要なものがAccessです。最終消費者が食料に手が届くか、ということですね。Accessの中で最も重要なのが経済的アクセスです。目の前に食料があっても購入できないという概念です。これは単に食料価格が高いという話ではありません。どんなに良い品質のものが安価で販売されるようになったとしても、貧困層が多ければ、その人たちは食料にアクセスできないのです。そもそも食料安全保障や世界の飢餓の改善は、根本的な貧困や不平等を改善しないと解消できません。
株式会社SPEC様のご講演は、道路や灌漑施設の整備水準の向上が食品ロスの改善に貢献するというお話でした。確かにインフラの改善が食料ロス・廃棄に限らずコミュニティ全体の改善に貢献します。例えば保健医療分野では、道路の状況が良くなれば、妊産婦が病院にアクセスしやすくなり、その結果、妊産婦の死亡率を下げることができる、あるいは教育の分野では、子どもが学校に通いやすくなる、水の分野では、女性が安全に水源にアクセスできる、という多面的な価値があるわけです。ただ、「道路を整備すれば生活改善に貢献する」というリニア(単線的)なロジックを超えて留意すべきことがあります。例えば、水路や灌漑施設を整備することにより生産性が上がる、というのは良いロジックですが、一方で、様々な複雑な背景を見落とす危険もあります。一例として、今、世界で非常に大きな問題になっているのが、水の利権をめぐる争いです。ある地域に効率的な取水施設を設置したがために、別のところに水が届かなくなり飢餓が発生した、あるいは地下水など水資源の枯渇に繋がった、というようなことがどんどん現れています。我々FAOも、水資源をどうやって平和裏に調整していくのか、各国に取り上げていただくのかについて真剣に取り組んでいます。これは非常に難しい話なのです。水の問題が国境を越える場合は、紛争の一因にもなります。国際機関として中立的な立場にたち、利害関係者の話し合いの場の設定を心掛けています。水資源は一つの例にすぎませんが、ある目的のために良いことであっても、他のところでリスクになる場合があり、複雑な背景についても総合的に考慮することの重要性を感じました。
先ほどのお話にあった、皆さんに知ってもらう努力、どうやったら広く知ってもらうか、もっと多くの最終消費者、あるいは政府、ビジネスパートナーにも知ってもらうかについては、そのとおりであると同意します。知ってもらうために2つの方法があると考えます。
一つは既に活発に実施されている本邦企業と現地企業との提携、あるいは現地政府に後ろ盾をしてもらい、民間セクターとして事業を拡大していくという伝統的な方法があります。
もう一つ重要な方法が、容易ではありませんが、公的プログラムにどうやって組み込んでもらうかということです。例えば緑の気候基金(Green Climate Fund)によりまとまった資金がある国に拠出された時に、資金使途の中に、フードロス削減により温室効果ガスの排出量を減らそうという項目が入っているかもしれないのですね。
フードロス削減に貢献するフィルム等、「このような良い製品がありますよ」ということをアピールする等、その潮流に上手く乗ることによって、規模の大きい公的資金と結びつくことができます。ただし、そのためには、その国の自然条件・社会条件、政策の動き、連携を実現させるタイミング等の詳細な情報を、常に把握、理解しておくことが不可欠です。本日ご登壇された民間企業の方々は、現地の情報収集を行っていますが、気候変動関連の基金(注:関連する基金の一例のリンクを文末に掲載)に限らず、様々な基金に関する情報について、国連、世界銀行、あるいはアフリカ開発銀行等の輪に入り、各国がそれら国際機関の基金を活用してプログラムを形成する段階から、ターゲットとする政府と接触し、プログラムの目的達成の手段として製品を組み込むという仕掛けをする等があります。
先ほど西本様より5年先、10年先を考えて事業を考えられておられるというご紹介がありましたが、各国政府の中長期的なプログラムと結びつけることが知ってもらう、使ってもらうことの大きな可能性になるのでは、と感じました。要約すると個々の製品そのものの周知ではなく、プログラムの中にそれらの製品をどのように組み込めるかということです。
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