JICA食と農の協働プラットフォーム(JiPFA)第2回フォーラム(2020年7月28日開催)議事要旨

要約

コロナ禍の現状では、サプライチェーンに携わる各業界の連続的・横断的な結び付きを強化し、圃場から最終消費者まで食料が確実に届くための体制の構築支援を通じ、食の質(栄養など)・量、安全・安心を強化するための中長期的な取り組みが重要であることが確認された。

開会挨拶

冒頭、理事の萱島より、民間企業をはじめ途上国の食と農の問題に関心をもつ様々な関係者が、情報交換やネットワークづくりをすることをねらいに、昨年4月に発足したJiPFA(ジプファ)の過去1年間の活動(19回の分科会を開催し延べ1340人が参加)について報告した。2回目となる今回のフォーラムでは、新型コロナウイルス感染症の流行により、途上国への支援について抜本的に考え直さなければならない状況となったこと、コロナ禍における途上国の感染症対策への支援に加えて、栄養、食料、雇用等への対応も人間の安全保障の担保のためかかせないことを強調した。

内容

1.JICAからの報告

(1)経済開発部

  • 食料自体は十分にあり国際価格は低価格で推移している。しかし、物流の整備水準が低い途上国では農産物流通が滞り、食料価格が上昇しているケースもあり留意が必要である。
  • コロナ禍の影響は脆弱層が最も大きいと懸念される。脆弱層への負の影響に注視していく必要がある。
  • 支援策として、短期的には生産資材の緊急投入があるが、重要なのは中・長期的支援の設定である。サプライチェーン再構築に関するFood System Transformation(色々な技術、イノベーションの活用)やレジリエンス強化の重要性が高まるはずである。そのためには民間企業と連携して支援を進めていきたい。

(2)ベトナム事務所

  • コロナ禍へのベトナム政府の対策の一つとして、食料安全保障の観点からコメ輸出を禁止した。影響として、中国向け農産物の輸出が止まり、輸出は大きく減少、現在は再開したものの、輸出先の多様化、食品加工産業の振興の必要性がベトナム政府により強く意識されている。
  • JICAプロジェクトによる現場調査により、売上高が減少した農民組合と、逆に売上高が増加した農民組合があることが分かった。減少の理由としては販路先が取り扱いを縮小したこと、増加の理由としては国産品が減少した輸入農産物を代替したことなどがある。
  • 中期的な影響としては、葉物類から保存がきく根菜類にシフトする作付計画や販売の変化が見られる。今後、ベトナム政府とともにコロナ禍によるフードバリューチェーンの変化に係る調査を行っていく。

(3)マダガスカル事務所

  • コロナ禍に対応するため、既存の技プロへの追加予算を通し、NGOへの業務委託を通したパンデミック対策と、JICA事務所とプロジェクトのカウンターパートの協力により、栄養摂取を通じた免疫力を高める料理メニューをラジオ番組で広く啓発する活動を行っている。
  • 紹介するメニューは、1)既存の料理に一工夫するだけなど調理に係る負担が少なくて済むこと、2)動物性たんぱく質の代替として現地で入手できる豆類から栄養を摂取できることなど、労力的・経済的に生活に取り入れられやすく、かつ持続可能性を有することにも配慮している。

2.パネルディスカッション

パネルディスカッションの冒頭に、モデレーターを務めた経済開発部部長の牧野より、西アフリカで流行したエボラへの対応として国際社会の支援が医療に集中する中、感染症からの復興には農業支援が不可欠であることを知った体験が語られた。
続いて牧野より、本ディスカッションの趣旨は、1)コロナにより農業分野がどのように影響を受けているのかについての各パネリストの分析や見解の共有、2)それらの影響を抑えるために取るべき行動についての提案の共有であることの説明がなされた。

(1)パネリストの分析・見解、提案

1)飯山氏
分析・見解
  • JIRCASでは長期的視点からポストコロナ研究を行っている。気候変動や感染症への強靭性を高めることに資する農業・農村開発のあり方を見つけるために、1)持続的な生産性の向上、2)気候変動への適応・3)緩和、の三本柱で定義される、クライメート・スマート・アグリカルチャー概念を中心に技術開発の方向性を模索している。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響により、商品作物(果物、花卉などの園芸作物)のロックダウンをしたEUへの輸出は停滞した時期があった。しかし、報道による二次情報であるが、EUでの健康志向などの高まりにより現在、一部の農産物の輸出は増加に転じている。顕著な例として、ケニアのアボカドの輸出額は記録的な更新をした。また、各国の航空会社も財政難の中、大型旅客機を貨物便に振り替えるなど、輸出需要への対応を図っている。
  • アフリカは土地生産性が上がらない原因の1つにアフリカの生態系が多様であることが挙げられる。場所が変われば土壌条件や水資源へのアクセスが異なるため、栽培作物が異なる、あるいは同じ作物でも栽培方法が異なる。作物栽培が困難な地域では遊牧などの畜産が行われている。このため「緑の革命」のような標準化された育種・栽培技術の広域な普及が非常に困難である。小農も生活体系も複雑であり、複数の圃場・作物・農業だけでなく出稼ぎなどを含む生業、という多様化戦略の中で意外に複雑な意思決定を行っている。このような複雑な状況では、提案される技術がパズルのピースのように既存の体系にはまればよいが、土地や労働が競合する場合は新しい技術の導入が困難である。もう1つの原因として貧弱なインフラが挙げられる。輸送の困難さが流通コストの上昇につながり、ある研究によると都市での農産物価格の8割は輸送費が占めると言われている。結果、輸入品とくらべ競争力がないことも競争力向上を阻害している。
  • アフリカでは人口が急増しており、21世紀末には世界人口の1/3を占めるという予測もある。人口増加に伴う輸入増加や、国内生産では森林や草原を農業用に開墾することにより、環境破壊やヒトと野生動物の接触による人畜共有感染症の発生といった課題があり、持続的な農業生産性改善は必須である。
提案
  • 一部の商品作物の輸出が盛り返している。これは、一旦インフラや物流体制が整備され、コストの制約を克服すれば農業が経済の起爆剤となる可能性を秘めている。農業はピンチをチャンスに変えるポテンシャルを有している。
  • スマート農業は、バリューチェーン関係者にとって様々なコストを削減する可能性を秘めており、限られたインプットで最大のアウトプットを出す手段となる。ただしスマート農業も、最適な育種・栽培体系の研究を含む情報や、道路などハード及び情報インフラの整備とセットで進めなければならない。
  • JIRCASは土壌や水条件に応じた適切な育種・栽培システムを実現するための研究を行っている。研究的な視点から、民間企業の皆様の開発途上国への展開に対し、農地の条件に適した栽培方法など、ビジネスチャンスに結びつくような助言をしていく所存である。
2)深津氏
分析・見解
  • 生鮮青果物の流通システムを提供している。バナナを中心に中間業者を対象としたサプライチェーンのシステム構築に携わってきた。経済成長著しいASEANをターゲットにし、2012年からJICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、フィリピンにおいて「農産物流通IT」を実施した。フィリピン農業省が進めていた卸売市場近代化プログラムの開発課題と合致したことが上述の調査に結びついた。地方の集荷市場に弊社が開発したシステムが導入され取引管理が行われている。また日本のような農協制度のないインドネシア、ベトナムでも使える農産物流通システムの開発を行い、インドネシアではJICAのプロジェクトで採用されている。
  • フィリピンにおける食と農におけるコロナの影響として、商業施設や外食産業が時間による営業規制が行われた。
  • 青果物流通については、ロックダウン下においても生鮮生産物が産地から都市に確実に届くよう、陸路輸送について政府が迅速にドライバーの通行証の発行やドライバーの感染確認を行うなどの施策を採った。ただし、これらの施策の実行は地方自治体に管理がまかされており、結果、自治体ごとに規制ルールが異なるなど円滑な流通に支障が見られることもある。
  • 2019年4月より農業省主導による官民連携による新たな流通構築を目指し、民間企業が青果物を農家から直接買い付け、ミドルマン(中間仲介者)を介さずにマニラ首都圏など都市部の消費者にリーズナブルな価格で販売するプログラムが実施されている。インターネットによる個人宅配販売等が市場での売買で発生する密の回避になる等、コロナ禍対応につながっている。
提案
  • 農業省とサプライチェーンの強化について話し合いをしている。そのために、日本が貢献できる分野として、1)収穫後の品質維持、2)小分け配送のノウハウ、3)決済機能の整備が挙げられる。
  • コロナ禍によりフィリピンにおいても量販から個販に移行するなど商習慣・流通形態の変化がみられる。この変化(個配)への対応に求められるものとして鮮度を維持する包装資材、貯蔵施設などの確立、社会インフラの整備などが挙げられる。作ったものをどこに持っていけば一番売れるのかという農村流通に注目・チャレンジしている。
3)増田氏
分析・見解
  • 企業経営戦略の研究を行っている。所属しているイオングループは小売業であり、フードバリューチェーンの最下流、すなわち消費者の手前に位置している。コロナ禍においてチェーンの上流部に位置する取引先と協力し、1)安定供給、2)適正価格で消費者に供給する社会的責任を担っている。
  • 短期的影響として、萱島理事が開会挨拶でも述べられた、技能実習生が日本に入国できないことによる労働力不足の問題がASEANでも起きていることが挙げられる。労働力不足による食品加工分野の事業継続や、生産資材が生産者まで届くかについて若干懸念している。
  • 一番の懸念は中長期的視点が求められる食品安全の確保である。イオンマレーシアが国際連合工業開発機関(UNIDO)と連携して世界食品安全イニシアティブ(GFSI)の認証制度を設定し、アジア各国で導入が始まっている。各国の品質基準を統一することで安全・安心であるから売れる。このほかグローバルギャップ(GGAP)の導入も重要である。
提案
  • 農林水産省、経済産業省による二国間対話で企業と政府の連携を強め、各企業の経営強化を推進すべき。
  • JICAへの期待として、食品安全プログラムを発展させるような取り組みを挙げる。

(2)各パネリストの情報に基づく、コロナ禍・アフターコロナにおける食と農への取り組み方向性の総括

各パネリストはコロナ禍・アフターコロナに対応する中長期的な視点(気候変動への対応、流通の改革・改善、食品安全)を持つことの重要性を共通項として挙げた。中長期的な取り組みの具体的手段として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用を取り上げ、パネリスト間でディスカッションを行った。
増田:宅配・個配への変化に対応するためにDXの役割は重要である。しかし途上国ではWet Market(魚介類、肉、果物、野菜などの生鮮食品を売っているため、床がいつも濡れているという意味)が主流でありDXをどう導入するかについて深津部長のご意見を伺いたい。
深津:Wet Marketにおいても、安全、栽培履歴、農薬管理などの生鮮物管理が重要であることに変わりはなく、IT化、コード化が必要である。同マーケットを管理する自治体などにDXを通じてそれらの導入を支援する必要がある。
飯山:ミシガン州立大学の研究者によると、西アフリカは8割が中小規模Wet Market、残りがスーパーマーケットである。ASEANと異なりアフリカで安全性をどこまで見ることができるかを確認する必要がある。Wet Market以外でのDX導入に関し東アフリカ共同体を例に挙げると、内陸国のウガンダ、ルワンダは空輸が止まってしまうと陸路運送しか残っていない。新型コロナ感染をしたトラックドライバーの入国を防ぐために、タクシードライバーやトラックドライバーのトレーサビリティ(e-システムの導入)が議論になっている。すなわちドライバーの検疫においてDXのニーズがあり、ニーズのあるところに商機がある。

3.全体意見交換

本セッションでは、参加者様からの質問へのJICAまたはパネリストの方々の回答を通じ、取り組みに向けた具体的な情報・意見交換や提案の発信がなされた。
最初にJICAからの報告及びパネルディスカッションに関するフォーラム参加者からの質問に対する個別回答、つぎにそれらの質疑応答を踏まえ、我が国の取るべき対応に係る意見や提案を交わした。

(1)JICAからの報告及びパネルディスカッションに関する質疑応答

Q1:
JICA経済開発部のプレゼンにおいて、サプライチェーンの混乱と言及があったが、具体的にはどのような混乱があるのか?混乱していない状態のアフリカのサプライチェーンの実体はどのようなものなのかについて教えてほしい。(総合商社)
A1:
サプライチェーンは空運、海運、陸運がある。空運については飯山様からの報告にあったようにコロナによる休航、輸出先の需要が止まる等がある。海運については比較的安定しているものの、労働力不足によりインドでコメの輸出が滞る事態が発生した。陸運は国境におけるトラックドライバーの検疫による大渋滞が問題となった。また、国内でも、一般的に食料品や農業資機材はエッセンシャルコモディティとしてロックダウンの適用外であるものの、実際には国によっては末端まで行き届かず物流が停滞する事態も発生した。(JICA経済開発部 天目石)
Q2:
牧野部長よりエボラ感染症が流布している環境下で農業が大事であると実感したという話があったが具体的にどのような現実を見たからなのか、そのご経験を教えていただきたい。(総合商社)
A2:
エボラ感染症流行国(シエラレオネ、リベリア)で目にしたのは、各機関による援助の9割は感染症対策、医療・保健分野に集中しており、農業分野が極めて深刻な状況に陥っていることであった。ロックダウン下で耕すために圃場に出ることさえ同じ村民たちから非難される、飢えをしのぐために種籾を食べてしまい、次の雨季に作付けができない、現金を得るために農地を手放すなど、そのダメージは数年にも及んだ。世界的に流行している新型コロナウイルス感染症の影響はエボラ感染症よりも影響が大きい。同じ轍を踏まず農業分野を支援しなければならない。(JICA経済開発部 牧野)
Q3:
飯山先生の「アフリカの農業は生産性を上げれば輸出産業になりえる」のお話について確認させていただきたい。アフリカ農業の課題は今後大きく伸びることが予測される域内・国内の食料需要を満たせないことによる、輸入依存が大きな問題と思われる。(総合商社)
A3:
輸出用園芸農産物と主食作物について比較優位の観点から分けて説明する。東アフリカを例にすると、輸出用園芸農産物は自然条件や人件費などからEUなどに対して競争力があり需要も高いことから成長産業になり得る。一方、主食作物については人口増から国内での生産増は重要であり、潜在的な市場もあるが、輸入農産物の方が安価であるため輸入に依存している状況となっている。例として、東アフリカの農業生産の大部分を担う小規模農家はメイズを自給用に栽培し、余剰を売るが、消費地である都市部までの輸送費が上乗せされることにより、大規模生産され、かつサプライチェーンも整備されている輸入農産物に対して価格で対抗できないという状況がある。(飯山室長)
アフリカの食と農業を考えるときは、国・域内での主食の自給率をどう上げていくかが優先課題であることを理解した。(質問者)
Q4:
新型コロナウイルス感染症への農業分野の対応は良いテーマであるが、現時点ではまだデータが足りず、客観性を持った議論ができないと思われる。今後、データが蓄積された時点で改めて議論する場を設けることを提案する。(大学関係者)
A4:
実態を把握するためFAO、WFPとの連携としてマクロな情報入手に努めている。また、JICA独自で現地調査を展開しており、既に情報収集を開始しているアフリカだけでなく、他の地域でも調査を展開する準備を進めている。これらのデータに基づきJICAの取り組むべき方針を定める。(JICA経済開発部 天目石)

(2)質疑応答を踏まえた我が国の取るべき対応に係る意見交換、提案発信

1)アフリカ農業の生産性向上に係る意見交換

増田:飯山氏のご発言にあった、アフリカで土地生産性が上がらない2つの要因としてインフラ整備水準の低さと生態系が多様であることによる栽培体系の標準化ができないことを挙げられた。2つ目の要因に関し、日本も多様な生態系を有する中、地域の特徴に合わせた栽培体系が各地で確立された。食と農に関する安全管理の標準化はアフリカでも不可欠な課題であるが、狭隘な農地でマイクロな栽培システムを発展させてきた日本の農業の知見をアフリカ農業の生産性向上に貢献することができるのではないかと考える(*フォーラム参加者より、「日本の農業(特に園芸作物)は気象、土壌条件を踏まえて、緻密な栽培技術を組み立て、産地を形成した経験を有しており、増田氏の考えに同意する」とのコメントあり)。
飯山:生態系の多様性に起因するアフリカ農業の生産性の低さを改善するために日本の経験を応用するには工夫が必要である。一般的に小規模農業を指す面積はアフリカ各国の方が日本よりもはるかに広い。また、モンスーン気候下での水稲作が中心の日本と乾燥・半乾燥気候下での半農半牧を行っているアフリカでは技術や文化の違いがあり、それらを考慮しなければならないことが工夫を求められる理由である。もう一つの要因であるインフラ整備についても触れる。インドで緑の革命が成功したのは英国統治下時代に整備された鉄道網の存在を理由の一つとする説がある。中国がアフリカの鉄道に投資しているのは、消費者人口の増加により大きな市場となることが見込まれることによりリスクをとれるのではないかと考える。

2)コロナ禍によるフードバリューチェーンの留意点に係る提案

深津:生産者、中間流通業者、消費者で構成されるフードバリューチェーンについてはチェーンの末端に位置する消費者のコロナ禍による生活変化を見極める必要がある。生産者、中間流通業者もこの変化がどのようなものであるかを踏まえ、網羅的にフードバリューチェーンを考えていかねばならない。

最後にJICA上級審議役の佐藤による、食と農の分野におけるコロナ禍への対応として流通のあり方の検討が不可欠であるが、それらはグローバルレベルのみならず、各国内レベルの強化に係る取り組みも同様に重要であることを強調するコメントをもって、フォーラムを閉じた。