「よりよい栄養のために水産物の果たす役割」(JICA-JIRCAS-国際農業機関(CG)勉強会)

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)とJICAでは、農業分野における各種研究を実装につなげることを目指す基礎的な合同勉強会を実施してします。

今回の内容はJiPFAの水産分科会、またJICAが重点を置いている栄養改善とも深く関係するため、JiPFA会員様も対象にしたオープン開催となりました。

第12回JICA-JIRCAS-国際農業機関(CG)勉強会「よりよい栄養のために水産物の果たす役割」

日時

2023年1月13日(金)15:00~16:30(日本時間)

開催方法

オンライン(Microsoft Teams)で開催しました。

講演者

杉山 俊士(独立行政法人国際協力機構 国際協力専門員)

講演資料

本ページの下にリンクを掲載。全47スライド。

概要

1.水産物の基礎知識(水産物の栄養的価値)スライド2枚目~

  • 良質なタンパク質(消化吸収が良く、必須アミノ酸を含んでいる)と脂質(妊産婦が不飽和脂肪酸を摂取することにより胎児の脳・神経発達障害のリスクを低下させる効果)を摂取できる。
  • 見えない飢餓(微量栄養素の欠乏)にも貢献する。魚を食することにより、欠乏しがちな微量栄養素の貴重な摂取できる。亜鉛や鉄分などは植物性食料からの摂取は難しい。
  • 小魚が栄養に重要な役割を果たす。大型魚種は、通常、頭部や内臓を可食部として扱わないが、小魚は微量栄養素を含む頭部、内臓、骨を含み、丸ごと食べることによる。このため、食料資源として利用される小魚をNutrient Rich Small Fish(NRSF)と呼ぶこともある。
  • 個体の標準体重が他の家畜と比較し、極めて小さいという特長により、食材としての処理、購入、家庭内での分配が容易(例:肉類の場合、家父長的な文化のある国、地域では男性への分配が優先される場合がる)である。これらの特長により、摂取頻度も高くなることから、子どもの成長に必要な栄養を毎日摂取し易いという利点がある。
  • 養殖の場合、収獲時期を計画的に調整できる、すなわち生産の柔軟性がある。農産物は雨期、乾期等の気候により収穫時期が制約されるが、そうした農作物の収穫端境期に養殖魚を生産できるようにすると、魚からの栄養摂取、あるいは養殖魚の販売利益での食品購入により、通年で良い栄養状態を保つことができる。
  • 水域が気候の変化に対して緩衝作用を持つため、水産物の生産は自然災害の影響を受けにくい。2000年代初頭、「アフリカの角」地域にあるエリトリアを大干ばつが襲った際、農畜産物が壊滅的な被害を受けた一方で、水産資源の被害は皆無であった。同国政府は食料難への緊急措置として、輸出用水産物を統制価格で国内に流通させた結果、内陸高地にある首都アスマラで魚食が定着した。大洋州にあるバヌアツでは台風による被害で農産物が大打撃を受けた時に、特に食糧支援に時間を要する離島では、JICAが協力した「豊かな前浜プロジェクト」で管理していた水産資源を緊急食料に回すことで食糧難を回避した。豊かな前浜は天然のフードバンクとしての機能を持つことを示した。
  • 国際場裏でも水産物の栄養改善への貢献の議論が活発化している。水産物の栄養貢献に特化した国際会議として注目されたのが、2017年にカンボジアで開催された国際ワークショップ「栄養に配慮した水産・農業・食料システム」である。同ワークショップでは、1)栄養改善のみの取り組みでは効果の発現には必ずしも繋がらず、女性教育、安全な水の確保や衛生状態の改善等、包括的取り組みが不可欠であること、2)主食食料の価格が上昇すると非主食食料の購入が減り、栄養状態が悪化することから(魚を含む)非主食食料にも配慮が必要であること、3)食事の多様性(Dietary Diversity)確保は栄養改善における重要な取り組みであり、「魚か野菜か」といった選択をするのではなく、「魚も野菜も」とするのが望ましいこと、などの提言がなされた。

2.開発途上国における水産物の位置づけとその動向(アフリカの場合)スライド17枚目~

  • 水産物は安価な動物タンパク源(Rich food for poor)。
  • 東部アフリカと西部アフリカで魚に対する嗜好が異なる。東部アフリカでは「煮干し」が最も安価な庶民の食材であり、地域的な商材(コモディティ)として広範に流通している。西部アフリカでは「燻製・塩干魚」が好まれる。
  • このように重要な食料である水産物が乱獲によりアフリカ諸国では水揚げ量の減少が顕著であり、かつての漁業国が「水産物輸入国」に転落。アフリカの魚市場の一角はどこも輸入冷凍魚売り場となっている(講演資料22枚目の写真はタンザニアの魚市場の様子)。
  • 世界銀行の2030年の水産物消費量予測は養殖業の振興もあり、世界全体では増加するが、アフリカに限ってみると減少すると見られている。水産物の供給減は人々の健康を脅かす。Nature誌に2016年6月に発表された論文によれば、水産資源への依存度が高い中西部アフリカでは漁獲量の減少幅が大きいと推測され、微量栄養素・脂質不足のリスクが高くなると見られている。

3.よりよい栄養のために水産物の貢献を高めるためには(栄養改善に向けた効果的な介入を行うためのヒント)スライド26枚目~

  • 「栄養価の高い小魚」の生産に注目する。小魚は食物連鎖では下位に位置しており、比較的資源量が多い。乱獲の影響を受けやすいのは食物連鎖の上位に位置する大型魚種。小魚消費の普及を図る一つのアイデアは、裏庭養殖でティラピア等販売用魚種を生産する際に一緒に小魚を養殖する手法(ポリカルチャー)。この方法では小魚生産に余分な手間がかからず、養殖魚販売で現金収入を得る一方で、小魚を家庭内消費に回すことができる。また、この小魚を加工して販売すると女性が独自に管理可能な現金収入の機会となり、女性の地位向上にも繋がる。
  • 近年、水揚げ場や魚市場で手動ミンチ機が急速に普及し、「魚ミンチ」が手軽に入手できるようになった。この取り組みは女性による現金収入機会の創出を目的としているが、派生的な効果として、魚の骨を気にすることなく「食べやすくなる」効果があり、特に子どもの栄養摂取に貢献する可能性がある。
  • 養殖魚の(生物学的)栄養強化に取り組む。給餌の工夫のみで可能であるため、育種や遺伝子操作を必要とする農作物よりはるかに容易に実行できる。
  • 他の援助機関は、魚粉(フィッシュパウダー)を料理に混ぜる取り組みをしている。UNICEFはカンボジアにおいて、重度の急性栄養不良を患う子ども向けに、同国の子どもの味覚に合わせた魚、米、豆を用いた栄養治療食を開発した。同製品は、ミルクを主原料とする輸入栄養治療食より安価で微量栄養素に富む。

4.開発途上国で水産物を取り扱う上での留意事項(魚を食べることの栄養的便益 VS. 健康被害のリスク)スライド33枚目~

  • 魚は鮮度劣化の極めて速い食品である。また、青魚にはアレルギーを引き起こすヒスタミンの前駆体のヒスチジンが高濃度に含まれている。細菌増殖による劣化によりヒスタミンに変換されるが、ヒスタミンは調理・加工しても分解されない。
  • 途上国では下水道の整備が不十分であるため、汚染された生活排水等が魚市場のある海岸部に流れ込む。このため魚市場は不衛生な環境で魚を取り扱っている。
  • 一部の途上国では魚の鮮度保持のために、毒性の極めて高いホルマリン溶液に漬けて販売している。また、煮干し加工時に魚をプラスチック容器(ポリバケツ等)に入れ茹でているケースもある。耐熱性の低いプラスチック容器を何度も使い、茹でるための水も数回再利用している。このような状況で加工された魚を自分の子どもや妊産中の妻に食べさせられるのか?加工、販売の改善も技術協力の重要な要素である。

5.「食習慣」への配慮 スライド38枚目~

  • 食の多様化による栄養状況の改善を求める上で、魚食の習慣がない地域の住民に、魚食を勧めることの是非について。人は一般的に食に関して保守的と言われており、例えば東北タイの出身者は海産物が豊富なバンコクにおいても慣れ親しんだ淡水魚を求める、モロッコの人々は特に鮮魚を好み、水産加工品には関心を示さない等。その一方で、食習慣に顕著な変化が見られた興味深い事例も複数あり、この「変化」の理由を考察することにより、魚食を通じた栄養改善に関する効果的な介入のヒントが得られると考える。「変化」の考察を幾つか紹介する。
  • ペルー:アンデス山脈を抱えるペルーの山岳部は相対的に貧困層が多く、生活のために海岸部に出稼ぎに行き、男性は漁船に乗り、女性は水産加工場で働き、そうした生活の中でおのずと魚食に馴染むようになった。彼ら出稼ぎ民は、地元に戻っても海産魚を求めたため、山岳部にも鮮魚が流通するようになった。またペルー政府も政策的に魚食振興を進め、貧困層への現金給付制度と連携した水産物の提供、あるいは学校や刑務所の給食においてタンパク質の1割以上を魚由来のものにするといった政策を実施した。現在では政府の介入なしに市場原理で山岳部でも海産魚が食されている。
  • エリトリア:アフリカの角の大干ばつ時に政府が輸出用魚類を国内消費に回す対応を行ったと話したが、EU輸出用の品質の良い、すなわち美味しい魚がフィレ(おろし身)に加工されたものが出回ったため、最初の印象が非常に良く、内陸部でも魚食が定着したと考えられる。
  • 以上を考察すると、食習慣を変化させる要因として、「出稼ぎ等による人の移動により働く場所の食文化が労働者の故郷に普及したこと」、「危機的状況を回避するための食料供給支援がきっかけとなりうること(健康的な伝統食文化を損なう負の可能性もある)」、「ファーストコンタクトで質の良いものを食べ、美味しさを体験すること」が挙げられる。

質疑応答

Q1:東部アフリカは煮干し、西部アフリカは燻製が主流となっているとの説明がありましたが、この経緯についてお教えください。
A1:どちらも最初は、劣化の速い魚の保存性を高める目的がきっかけであったと思います。それが、たまたま東部では煮干し、西部では燻製という加工方法であったと推察しますが、詳しい原因はわかっていません。しかし、そうした加工品が一般的に入手できるようになり、人々がその味に親しむようになったことで、嗜好性が強くなり、その後時間を経て食文化として定着したのではと考えられます。

Q2:東部アフリカは魚の消費量が少ないですが、これは保存技術の低さ等による不味さや食中毒の危険性が原因となっているのでしょうか。あるいは近年は保存や物流の改善により、消費量の増加がみられるといった傾向はあるでしょうか。
A2:東部アフリカの沿岸部は、理由は明らかでないものの、水産開発の面からは取り残された地域となっています。モザンビーク、ケニア等の零細漁村では今でも手漕ぎ船や帆船が見受けられ、水産インフラ整備も遅れています。これは漁業が盛んな西部アフリカで、零細漁民でも動力船を用いて活発に漁業を行い、水産物流通もダイナミックであるのとは対照的です。。このような状況によりもともとの水産物の供給量も少なく、また流通している魚の鮮度管理にも問題が多いことが、消費量が少ないことの一因と考えられます。

Q3:水産物の消費が広がるためには鮮度管理が重要とのお話を伺いました。鮮度管理の改善、強化のため、フードバリューチェーンの改善、食品廃棄率の削減、日本の技術導入等の観点から、日本のコールドチェーン設備を売り込むことでできるのではないかという話が時々出てきます。日本の過去の協力では漁港に製氷機を設置する等は行われてきましたが、漁港と消費者をつなぐ流通を実現するためのコールドチェーンの協力事例は少ないと理解しています。コールドチェーンの整備となると民間セクターが主流になると思われますが、ODAとしてはどのような支援が可能とお考えでしょうか。もし何らかのアイデアがありましたらお教え願います。
A3:生ものの流通にはコールドチェーンが必要、すなわち、流通拠点(ハブ)に冷蔵保管施設をつくり、漁港、流通拠点、消費者を保冷車でつなぐことが必須というある種の固定観念があるかと思います。しかし、実際にアフリカの現場では、コールドチェーンも確立されていない内陸部でびっくりするような品質の良い冷凍魚を見かけることがあります。これはリーファーコンテナと呼ばれる冷蔵装置のついたコンテナの普及に負うところが大きいと観察されます。リーファーコンテナは、いわば移動式の冷凍・冷蔵倉庫で、トラックから降ろし電源につなげば、そこが水産物の保蔵施設になるのです。現場では水産物だけではなく、鶏肉等、他の冷凍が必要な食品も混載して取り扱っていることが流通網確立の鍵であるようです。リーファーコンテナを運ぶトラックと充電装置の設置を組み合わせることでコールドチェーンが完結するのです。セネガルの首都ダカール近郊の卸売市場の裏に回るとリーファーコンテナだらけでした。このような流通革命が見られるので、従来の発想によるコールドチェーンシステムへの投資は必ずしも必要ではないのです。いわゆるリープフロッグ的な動きではないかと思います。固定の冷凍施設を設置すると、水産物、その冷凍食品は流通量の変動がありますので、流通量が少ない場合、稼働率が悪くなるリスクがあります。そのようなリスクの低減が図られないまま、ODAを投入するのはJICAとしても難しいです。ちなみに、聞いたところによると日本で美味しい輸入ワインが飲めるようになったのはリーファーコンテナを使うようになってからと言われています。それまではヨーロッパ等のワインが海運で日本に届くには赤道を2回またぐ必要があり、高温で品質が劣化し、美味しいものが飲めなかったものがリーファーコンテナにより状況が変わったということです。そのような商機は民間セクターが敏感ですので、民間セクターの動きをしっかりと追い、民と官の連携をしていくことだと思います。日本では磁場を発生させることにより防腐機能を備えたリーファーコンテナ等の開発なども行っていますので、日本の技術が流通に貢献するチャンスはあります。潜在的な魚食市場を開拓することもできると考えます。煮干しや燻製だけでなく、鮮魚の人気も高く、クリスマス等の家族が集まる行事に需要が増加するため、それらの時期に出荷できるようにしている養殖業者もいます。

Q4:食生活を変えるのは難しいですが、移動などの要因とは別に、介入プロジェクトとして成功した印象的なケースを教えていただければ幸いです。
A4:これまでは水産プロジェクトで明示的に栄養改善を目標の一つとしたプロジェクトは残念ながらありませんでしたが、今後は食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)との連携強化も視野に入れ、水産や畜産を通じた栄養改善が進められていくと考えます。

Q5:ケニアでの生活が長ったのですが、帰国前の頃、同国で流通・消費しているティラピアは中国からの輸入に頼っているとのことを聞きました。東部アフリカ諸国は自国生産よりも中国の輸出戦略の傘下に入っているのかな、という印象を持ちました。ケニアでの思い出をコメントさせていただきました。
A5:輸入冷凍魚に関し、中国産のティラピアは、ものすごく効率よく生産され、価格競争力もあるので、JICAがアフリカで協力している養殖事業は、生産コストでは太刀打ちできない状況です。ただし、中国産のティラピアについては安全性に関する懸念が度々ケニアでニュースになっています。ネット検索いただければ、見つかると思います。養殖工程がどのようなものか分からないため、警鐘を鳴らしている人はいます。また、この1~2年は食料を輸入に頼りすぎるのは食料安全保障の観点から自国生産が重視されるようになっています。養殖は地方の村落部で行いますので、そこで生産を行い、国民が国産養殖魚を利用することが栄養改善だけでなく、農村地域の所得向上にも貢献します。

Q6:質問が2つあります。1つはアフリカ地域で漁獲量が減少している原因は乱獲が原因でしょうか。または気候変動によるものなのか、或いは別の原因によるものでしょうか。2つ目は水産業の栄養面での貢献に関する議論は2017年頃以前にはあまりなかったという理解で良いのでしょうか。
A6:アフリカ地域で漁獲量が減少している原因は乱獲の要素が非常に高いと思います。アフリカにおいては、漁業は生計の困った人々が最後にいきつく業種です。水産物に所有権がなく、農畜産業のように土地も必要としません。日々の朝、船頭が海岸で、漁船に乗る人を募って、また乗った人は日払いで収入を得ることができるので、貧困層が集まってくる状況です。国の貧困の最前線の現場でもあるのです。そうなると、多すぎる漁民が資源量に限界のある魚を捕り続けることになることが起きるのです。これに加え、エボラ出血熱やCOVID-19が流行すると、漁業の監視能力が低下します。そのような国の近海はアジアの漁船による違法漁業の草刈り場になります。たとえ合法的に入漁したとしても、監視能力がないので、アジアの漁船は10隻の枠に対して、20隻、30隻を投入して魚を捕るため、結果的に乱獲が進みます。現場を見ても、特定魚種のサイズ組成がどんどん小さい方にシフトしています。他方、気候変動の要因は、なかなか判断が難しく、研究論文等を参照する必要があります。水産業の栄養面での貢献に関する議論が2017年以前に全くなかったわけではなく、USAIDやNGOが関与していたが、国際的な関心を喚起するような旗振り役がいなかったです。Word FishのDr. Shakuntala Thilstedが多くの援助機関、NGOを巻き込み、水産物による栄養貢献の重要性を訴えました。国際場裏でこのことが取り上げられるようになったのは、彼女の貢献が大きかったと個人的に理解しています。

Q7:アフリカの内水面漁業による漁獲高や摂取量はどうなっていますか?
A7:アフリカの内水面漁業については信頼できる統計がありません。実態を把握するのは非常に難しいですが、漁獲量が増える状況はおそらく全く期待できないでしょう。資源管理がほとんど行われていませんので、天然水系からの漁獲量は現状維持ができれば御の字という状況です。一方で人口が増加すれば一人当たりの供給量は減ることになりますから、これからは養殖が重要になってくると考えます。2018年に、消費の割合が天然魚と養殖魚で逆転し、同年以降は養殖魚の消費が5割以上を占めています。この傾向はますます広がると思います。養殖生産はアジアに集中しており、同生産に占めるアフリカの割合は1割に満たないはずです。今後、アフリカにおける養殖生産は飛躍的に伸びることは間違いないと予測されるので、内水面養殖と栄養改善や食料安全保障をうまく結びつけることができれば良いのではないかと考えます。

Q8:魚の加工残差や内臓などによる環境汚染も場所によっては重大な問題となっていると思います。これに対する日本での対策と途上国での対策の現状と課題はどのようなものがあるでしょうか。事例があればご説明をお願いします。
A8:途上国は加工残渣や内臓を海に投棄しています。このため漁港は浅くなる、水質が悪化し、悪臭がする等が問題になっています。さきほど養殖魚の消費量が天然魚を上回ったことをお話しましたが、養殖が持続可能なものであるこというと疑問があります。なぜかというと、飼料に天然魚由来の魚粉が入っています。日本での肉食魚の養殖には、1キログラム生産するのに15キログラムの小魚を与えるに相当するものもあります。養殖が盛んになれば魚粉(天然魚)の需要も高まります。日本全般で残渣や内臓を魚粉加工しているかどうかは定かではありませんが、沖縄で養殖されているハタの飼料にはマグロの加工残渣も使われています。このように日本では循環経済的なことをやろうとしていますが、途上国では、まだそのような動きがないために環境汚染につながっています。途上国の漁獲後のロスはFAOの少し古いデータでは3割にのぼると報告されています。今後、天然魚の漁獲高を3割増やすことはほぼ不可能ですが、漁獲後ロスを減らすことはできると思います。そうなると流通する魚の量を増やすことができますから、重要な取り組みとなります。途上国の家族経営の魚の加工場でのロスも深刻な問題です。このような加工場の改善をすることも流通量の増加につながります。ただし、残渣を有効利用するためには、ある程度まとまった量を効率的に得られるような規模の加工場でないと難しいこと、途上国政府の残渣の再利用に関する政策の優先順位が高くないことから、FAO等の国際機関が、その重要性を訴えかけることにより、途上国政府の意識も高まると考えます。

Q9:ティラピアと一緒に養殖池で小魚を育てるというのは養殖家にとっても負担が少なくやりやすいように感じました。小魚流通は東アフリカが主流とのことですが、西アフリカの簡単に導入できそうですか?
A9:この件に関しては、先ほど紹介したDr. Shakuntala Thilstedと小魚のポリカルチャーをアフリカのどこかでしたいという話をし、IFNA発足のタイミングに合わせて、World Fishの方から、マラウイで小魚とティラピアのポリカルチャーや魚による栄養改善に関する調査実施のプロポーザルをあげてもらったが、その時は色々な事情により採択には至りませんでした。しかし、技術的には難しい話ではないですし、ティラピアを収獲した後、養殖池に残った稚魚は全て回収しなければならないので、それを食べることにより、栄養改善につながる可能性があります。今後取り組むべき課題ですが、実施自体はそれほど困難ではないと思います。養殖の専門家とお話いただければと思います。介入の可能性のある分野です。

養殖飼料の今後についての話

コートジボワールで現地の農民がアメリカミズアブの幼虫をタンパク質飼料として使用しているのを確認しました。このほか、SATREPSで有用物質を生成する微細藻類の大量培養の研究が行われており、今後タンパク質を生成する微細藻類の特定と培養の研究が含まれてくる可能性もあります。こうした微細藻類にはアスタキサンチン(発表の中で、養殖サケに身を赤身付けするため人工飼料の添加物として紹介した)やバイオ燃料を生産する種類もあります。今後は、タンパク質を生産する微細藻類は飼料として有望だと考えています。

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質疑応答に応える杉山専門員

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