トレーサビリティに関する勉強会を実施しました
2024.07.12
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概要
日時:2024年7月12日(金)15:00-16:30
開催形式:オンライン(Zoom)
登壇者(敬称略)
地球環境戦略研究機関 (IGES) 藤崎様
国際緑化推進センター(JIFPRO)高原様、山本様
株式会社シンメイ 鹿山様
株式会社立花商店 石本様
内容
1.持続可能なカカオのバリューチェーン構築にむけたトレーサビリティの重要性:ガーナの事例(地球環境戦略研究機関 (IGES) 藤崎様)
- ガーナのカカオ生産における課題とトレーサビリティの必要性
- カカオ生産に関する課題は低生産性と近年の不作、農家の貧困、森林減少、児童労働など多岐にわたる。
- 現状、LBC(Licensed buying companies, 現地買い取り業者)のレベルまで指定した調達は全体の3割程度だが、自然資本への負荷、社会的リスクの評価やカカオ農家の課題把握のためには、トレーサビリティの確保が必要である。
- トレーサビリティ強化と維持には、農家から買い付けを行うPC(Purchasing Clerk)、PCを介して農家からカカオを買い付けるLBCといった現地サプライヤーとの連携が必要不可欠である。
- カカオ農家に対する調査プロジェクト
- 森林炭素保全プログラム(Ghana Cocoa Forest REDD+ )の対象地域であり、認証を使った企業のサプライチェーンマネージメントが実施されている2村落で2024年1月に調査を実施。
- 認証農家であっても、販売したカカオ袋すべてにプレミアムが付くわけでなく、カカオ販売収入のうち認証による価格プレミアムによる農家への生計支援効果は限定的。
- 気候変化や病虫害被害、また農薬などの不足により生産性が低下しているなかで、農家が認識する課題と、農家が実際にNGO、政府機関、民間企業などから受けている支援にはギャップがある。
- 今後の提案
- リスクの把握、軽減のためだけでなく、生産地の課題解決とサステイナビリティのため、トレーサビリティ強化とモニタリングを実施し農家のニーズを把握して効果的な対策を行うことが重要。
- 本プラットフォームが掲げる目的の支援のためにも、トレーサビリティについての共通認識の醸成や課題の共有をしていくことが重要である。
2.トレーサビリティの先にある施策(カーボンクレジットや森林認証制度について)(国際緑化推進センター(JIFPRO)高原様)
- 森林カーボンクレジットとサステイナブルカカオ
- 森林関連クレジットとして、REDD+と呼ばれる森林減少・劣化に由来する二酸化炭素排出の抑制、プラス森林保全のためのメカニズムが提唱されている。排出削減のための対策が取られない場合のシナリオである「参照排出レベル」と実際にモニタリングされた排出量の差を「排出削減量(カーボンクレジット)」としている。
- 近年では植林による地球温暖化防止(クレジット)も注目されている。企業が植林に関与する場合、カーボンニュートラル達成には「サプライチェーン外の植林」が重要である。
- クレジット発行期間から実際に認証をもらうためにはかなりの手間がかかる。世銀FCPFのカーボンファンドにより準国レベルのGhana Cocoa Forest REDD+プログラムが実施され、クレジットを生み出すのではなく成果支払いを行うといった取り組みも行われている。また、VCS/CCBSによるボランタリー・カーボンクレジットの植林の事例もあり、草地にカカオとシェードツリーを植栽し、シェードツリーによる炭素蓄積効果をクレジット化する30年間のプロジェクトも実施されている。
- トレーサビリティと森林認証制度(PEFC森林認証)
- 森林管理(FM)認証は森林の持続的管理そのものの認証。環境、社会、経済の3つの柱から認証機関を作り、審査を行っている。
- PEFC森林認証はISOに準拠しており、規格制定、認定機関、認証機関の3つがそれぞれ独立して、全体の透明性を担保している。
- COC認証は認証森林に由来する製品であることを担保する。COC認証を取得した供給者からの認証製品であることを示した正式な文書をバトンのように受け渡していくことでトレーサビリティを担保。何か問題があれば、サプライチェーンをさかのぼることで認証林を特定することが可能である。
- 森林認証制度への課題と対応
- 森林認証自体にはプレミアム価格等の仕組みがないため、認証のコストをどうカバーするかが課題。カカオの場合には、小規模森林所有者がまとまって一つの認証を取得するグループ森林管理認証が導入されている。また持続可能性をめぐるEUDR等への対応については、COC認証を取ればEUDRに準拠できるように認証の仕組みを改善している。
3.エクアドル国カカオ高付加価値化のためのトレーサビリティプリンティングシステム普及・実証・ビジネス化事業(株式会社シンメイ 鹿山様)
※内容は会員のみの公開
4.ガーナ産カカオ⾖の袋単位でのトレーサビリティについて(株式会社立花商店 石本様/JIFPRO 山本様)
- ガーナ産カカオ豆の袋単位でのトレーサビリティについて
- ガーナのカカオの買い付け価格はCOCOBODが公示するが、世界的な相場上昇分がそこまで反映されておらず、農家が生活に必要な収入を得られていなかった。
- ChiePro(Challenge to Innovative Eco-life Promotion)プロジェクトでは、カカオ生産における森林破壊と生産者の低収入という課題に対し、QRコードによるトレーサビリティを確保したうえで、畑マッピング、ポストハーベスト工程の改善、苗木の配布とプレミアムの支払いを実施。
- カカオの麻袋にQRタグを取り付け、それを読み込むと、集荷・輸送情報、生産者情報、Google map上に示されたポリゴンの生産地情報などを閲覧可能。今回EUDRには対応していないが、今後デューデリジェンス実施のための話し合いも行っている。
- プレミアムを活用して、カカオ畑に必要なシェードツリーを配布したほか、今回生産したチョコレートを「GHANA 森を守るチョコ」としてバレンタインシーズンに各種イベントにて販売。専用ウェブサイトではカカオ生産者が抱える課題や生産地の位置情報等の確認が可能。
- トレーサビリティ実現が目指すべきもの
- トレーサビリティは持続可能な調達のための第一歩である。
- カカオ生産者の高齢化や若者の他産業への流出の課題がある。特に金の違法採掘が多い地域ではその傾向が顕著。日本企業が調達する地域ではまだ問題になっていないが、ガーナ国内では金の違法採掘が問題になっており、そこに若い労働力が流れることや、採掘によるカカオ農園の破壊、水源の汚染等のリスクがある。
- 気候変動の影響、生産性、労働力不足により品質の良いカカオの調達が当たり前でなくなる可能性がある。トレーサビリティ実現で生産者とつながり、適切な支援(シェードツリーの植樹やバイオ炭による気候変動対策型農業、カーボンクレジットの創出、土壌の改善など)をしていくことが持続的な調達のために重要である。
- ChiePro実証のグッドプラクティス
- 流通ライン~メーカー向けにはカカオ豆が森林保護区内で生産されていないことをQRコード使ってトレースできる仕組みを創出。また消費者向けには、製品に掲載されたQRコードを読み取りWebサイトを見ることで、原料の豆がどこで作られたか分かり、森林破壊が行われていないことが分かる仕組みづくりを行う。最後に、農家への指導やプレミアムの還元などにより、カカオ農家向けに森林転用抑制のインセンティブが働く仕掛けの仕組みも実現した。
- EUDRへの対応も以下の通り実施:①測位情報の取得=ポリゴン情報を収集済み、②すべての対象品目の生産プロットまでトレースバックが必要=QRタグにインプットされたデータで対応可能、③対象品目を市場に持ち込む全オペレーターへの適用=本実証により整備が進む
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