JICAとUN Tourismの連携について

観光プロジェクトのための指標ツールキット(TIPs)

UN Tourismとの連携の取組として、プロジェクト研究「SDGsの達成に資する観光開発支援のあり方に係る調査」を実施した結果、観光開発はすべてのSDGs達成に向けて十分に貢献できることが認められ、横断的な効果をもたらすことが分かりました。

しかし、同調査では、個別の観光開発プロジェクトがSDGsゴールにどの程度貢献しているのか、客観的かつ整合性をもって評価するための指標はこれまで策定されたことがなく、観光セクターにおけるサプライチェーンの多様性・複雑性も相まって、観光開発がSDGsに与える影響を明示的に説明できないという課題が存在することも明確になりました。

そのため、2020年から新たに実施した「SDGsの達成に資する観光開発支援に係る情報収集・確認調査」を通じて、JICAはUN Tourismと共に、観光プロジェクトのための指標ツールキット「Achieving the Sustainable Development Goals through Tourism – Toolkit of Indicators for Projects (通称TIPs:ティップス)」(英語版)の策定をすすめ、2023年7月に共同出版され、2024年1月に日本語の翻訳版が完成しました。今後、スペイン語版の出版が計画されています。

第25回UN Tourism年次会合会でもTIPsがUN Tourism加盟国各国観光関係者に紹介され、観光事業の持続可能性とSDGsへの貢献度を評価することができる指標集が初めて開発されたこと、環境問題等に関わらず、幅広い課題を観光に連結することが出来るツールキットである点について、国際機関、民間事業者、各国観光省等幅広い観光セクター関係者から評価を受けました。

TIPsの意義と活用するメリット

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誰が、いつ、TIPsを使えるの?

観光に関連するあらゆる関係者がTIPsを活用して、実施するプロジェクトの持続可能性およびSDGsへの貢献度を計測することが可能です。具体的な対象者として、官民学産の観光プロジェクト(ビジネスや事業を含む)の計画者、実行者、チームメンバー、監査人、研究者等が想定されており、TIPsは、プロジェクトの各段階で指標を効果的に活用するための、ガイドの役割を果たします。また、観光がSDGsに与える影響がゴールごとに分かりやすく説明されているため、教育関係者の方々に活用されることも想定されています。

また、TIPsはどのタイミングでも利用可能ですが、特にプロジェクトの開発段階と実施段階で活用されることが想定されています。プロジェクトチームは指標を用いて、進捗状況やSDGsのゴール・ターゲットへの貢献度をモニタリングし、必要であれば目標値に基づきPDCAを改善したり軌道修正をすることが可能です。

UN Tourismが運営する、持続可能な観光プラットフォームについて

持続可能な観光プラットフォーム(Tourism4sdgs.com)は、持続可能な観光開発の共創プラットフォームで、あらゆる観光セクターの関係者が参画可能です。
公的機関、国際機関、ドナー、旅行者、企業、学界、NGO・NPO等が実施する研究、教育事例、研修実績、イベント、イニシアティブ、政策文書、企業のCSRやストーリーなどが1つのスペースに集約されています。

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近年、観光関連産業は世界の雇用の約1割を占めるなど(2019年のGDP比率は10.3%)、経済社会開発に大きく貢献することが期待される分野ですが、2019年末に始まった新型コロナウイルス感染症の流行により、観光産業が本来持つ脆弱性を各国が実感し、観光産業を持続可能でレジリエントに再生・復興させることが喫緊の課題となっています。
本ツールキットは、JICAや国際協力関係者関係者のみならず、世界の観光産業に携わる官民すべての方のヒントになってほしいとの願いから、TIPs(ティップス)と名付けられました。TIPsが、観光産業の持続可能性を高める一助となることを期待しています。

JICA経済開発部
佐藤知美