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強みを生かして農業系企業で研究職に就職(2025年4月)

未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト(通称アフガンPEACE)は、未来のアフガニスタンの国造りを担う人材育成のため、アフガニスタンの行政官と大学教員を研修員として受け入れる技術協力プロジェクトとして2011年に開始されました。
PEACE生は来日後、本邦大学の修士課程・博士課程に在籍し、アフガニスタンの国造りに必要とされた工学、農学、教育、保健分野などの専門分野の研究に励んでいます。
しかし、2021年8月に発生したアフガニスタンの政変以降、前政権の行政官だった研修員は帰国困難となり、多くのPEACE生が再びアフガニスタンへ戻れるようになるまでの間日本に残ることを希望し、新たな挑戦をすることとなりました。
本シリーズでは、慣れない日本での就職活動を経て外国人材として日本で就労しているPEACE修了生と受け入れ先企業・団体へのインタビューをお届けします。
活躍の様子はもちろん、現在の悩みや今後の展望など、十人十色のJICA研修の「その後」を語ってくれました。

未来への架け橋・中核人材育成プロジェクトフェーズ2 | ODA見える化サイト

強みを生かして農業系企業で研究職に就職

日本で夢に挑み続ける一人のアフガニスタン人の若者、セイアール・モハンマド・フセインさん。2023年3月に筑波大学の生命地球科学研究群修士課程を修了し、同年10月農業系企業「株式会社マイファーム」(以下、マイファーム)に研究職として入社しました。セイアールさんにご自身の成功とそれを支えた努力についてお聞きしました。

就職活動の困難と挑戦

セイアールさんは、修士課程修了後、進路について博士課程への進学か就職かで悩んでいました。最終的に、日本でのキャリア構築を選び、就職活動に挑戦しましたが、日本語の壁や文化の違いに直面し、苦労の連続でした。
特に、日本語での履歴書や職務経歴書の作成は大きな課題でした。「日本語を話すことはもちろん、専門的な内容を適切に表現することが難しかった」と彼は語ります。それでも諦めず、求人サイトで見つけたマイファームへの応募を決意。何度も面接練習を繰り返し、最終的に内定を勝ち取りました。「苦労した分だけ内定をもらったときの喜びは大きかったです」と振り返ります。

マイファームを選んだ理由

マイファームは、「自産自消」という理念を軸に、農地貸し出しサービスや農業教育を提供しています。「自産自消」という言葉はマイファームの創業者であり現在も代表を務める西辻氏が考案した造語で、「自分で生産した食べ物を自分で消費すること」を意味します[1]。同社は、「自産自消」が拡がれば様々な農業に関連する問題を解決できるかもしれないとの発想からまず耕作放棄地を活用するため貸し農園(体験農園)を事業としてスタートさせました。その他にも、自治体とも連携して運営する農業学校では、これまでに2,500人以上の卒業生を輩出。さらに、海外ではマレーシア、インドネシア、モンゴル、タイ、ベトナムなどで農業関連プロジェクトを展開しており、近年は薬草栽培事業に注力し薬草の国内における生産拡大を目指しています。
セイアールさんがマイファームに魅力を感じた理由は、同社の研究開発環境と社長はじめ社員皆さんの農業に対する熱意です。彼の専門である土壌科学と農業灌漑の知識を、同社の事業に活用できることも大きな要因でした。「このチームで研究することで、社会に貢献できると確信しました」と語るセイアールさん。その熱意が採用担当者も伝わり、採用へとつながったのです。
さらに、マイファームの経営陣やスタッフが彼と類似分野での学位を持ち、高い研究能力を備えている点にも魅力を感じたと言います。「優れたチームで働くことで、自分自身のスキルも成長すると感じました」と彼は語ります。


[1] マイファームHPより引用。https://myfarm.co.jp/times/jj-clumn_1/

セイアールさんの採用理由と期待

取締役の石原氏によれば、同社は2010年代から外国人の雇用をスタートさせ、現在ではベトナム、ネパール、インドなど多国籍の社員15名程度が在籍しています。特定技能制度などを使用し、外国人社員の受け入れ体制を整備。住居手配や日本語サポートに関する課題には、社内全体で支援を行っています。
そのような中、セイアールさんの農学と研究のバックグラウンド、高いリサーチ能力が採用の決め手となったとのこと。採用後、セイアールさんは茨城県神栖市にある会社寮で多国籍の社員と共同生活を送りながら、良好な関係を構築しています。石原氏は、「日本語力向上が課題であるものの、業務遂行能力や取り組み姿勢を高く評価している。例えばアカデミックなトレーニングを受けているので、論文から業務に必要な情報を的確に摘出する能力がある。さらにその情報をどう使うのが効果的なのか伝える力にも光るものがある。」と話し、将来的には海外案件も幅広く担当できるアグロノミストとして成長することを期待しているとのことです。

日本企業での働き方に驚き

日本で初めて働くセイアールさんにとって、働き方や企業文化の違いは新鮮でした。毎朝、始業前に朝礼があり社内規則や業務の確認をすることや、時間に対する日本の厳密な考え方など、アフガニスタンとは異なる企業文化に驚いたといいます。一方で、こうした経験を通じて「日本で働く上での効率性や時間管理の重要性を学びました」と振り返ります。
また、仕事を通じて日本の農業技術にも感銘を受けたと言います。例えば、ビニールハウス栽培の技術や高品質な農業機器の利用方法など、母国では見られない手法を学ぶ機会が増えました。「これらの技術を活用することで、より多くの課題を解決できると感じています。例えば露路栽培のみ行っている母国は農産物の安定供給ができませんが、ビニールハウスで灌漑システムを導入すれば、天候に左右されず乾燥地域にも利用でき、生産量は格段に上がります。」と語ります。

多岐にわたる研究・業務内容

セイアールさんが携わる研究・業務は多岐にわたります。例えば、土壌水分測定器を使ってピーマンの生育促進に関する研究や、耐性のあるコメの品種の研究、さらには薬草「当帰(とうき)」の栽培プロジェクトなどを担当しています。彼はこれまでに7つのプロジェクトに関わり、「どの研究も今後の農業に大きく貢献できるものばかり」と自信を持っています。
特に、薬草「当帰」の研究には情熱を注いでいます。この薬草は日本で自生する一方で栽培が難しく、輸入に頼る現状があります。「国内での安定供給を目指し、企業と連携して解決策を模索しています」と彼は説明します。

また、モンゴルの牧草、マレーシアのドリアンやジャトロファ(南洋油桐)の研究も手掛けており、それぞれのプロジェクトが持つ可能性に胸を膨らませています。「農業の未来を切り開く一助となれることが何よりの喜びです」と熱く語ります。

ピーマンの生育調査をするセイアールさん

未来への展望

マイファームに入社する前は、日本で培った知識を使い日本や母国に貢献したいと考えていました。グローバルに展開しているマイファームに入社し、多くのプロジェクトに参加。日本や世界の農業を知りひたむきに取り組んできた結果、セイアールさんは農業の奥深さに魅了されました。この経験を通じて、セイアールさんはさらに多くの海外プロジェクトに挑戦したいと考えています。異文化理解と語学力という自身の強みを活かし、日本と世界をつなぐ架け橋になることが目標です。「海外での経験を通じて、グローバルな視点を持つ研究者として成長したい」と意気込みを語ります。

セイアールさんは、アフガニスタンや他の発展途上国での農業改善にも関心を寄せています。「これまで学んだ技術や知識を活かし、母国や他の地域での農業改革にも貢献したい」と夢を語りました。

同じく日本でのキャリア形成を夢見る後輩PEACE研修員へ

最後に、セイアールさんは同じく日本でのキャリア形成を夢見る研修員に向けてアドバイスをくださいました。「日本語を学ぶことが成功の鍵です。日々の生活や仕事で日本語は欠かせません。私もまだ学習中ですが、挑戦し続けることで成長を感じています。」
また、就職活動中の困難を乗り越えるためには、諦めずに努力を続けることの大切さも強調しました。


【あとがき】
筆者は2020年からセイアールさんを担当しましたが物静かで、実直で、穏やかな性格は変わらず、マイファームで研究者として着実に歩まれている印象を持ちました。就職活動は彼にとって、非常にストレスフルなものでしたが、1度もいやな顔をせず、にこやかに真摯に向き合って履歴書作成、面接練習に取り組まれていました。これからも日本語学習に力を入れ会社の期待に応えアグロノミストとして活躍していただきたいと思います。

マイファーム東京オフィスにて