ただいま需要拡大中!伝統のハッカの香り、ベトナム農業に切り込む

今回は涼やかな薄荷(はっか)の香り漂う鈴木薄荷株式会社(神戸市)の工場見学に参りました。スース—と清涼感が溢れ、ガムや湿布、歯磨き粉など私たちの生活にもお馴染みのハッカ(「ミント」と言うと、より聞き覚えがありますね!)。このハッカが今、日本のみならず世界中で需要を拡大しています。この需要増に対応すべく、鈴木薄荷は昨年12月に新工場へ移転、そしてベトナムでハッカ栽培に挑んでいます。

今回は、最新の製造現場の裏側、そしてJICA中小企業海外展開支援事業を活用したベトナムでの活動についてお伺いしました。ご案内いただきましたのは、常務取締役・高畑新一さんです!

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高畑新一さん

日本一の大商店の源流 脈々と受け継ぐ

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15名で訪問。記念撮影を伝統の「カネ辰」暖簾の前にて

鈴木薄荷は、1874年創業の総合商社「鈴木商店」のハッカ事業を継承した老舗企業です。かつては日本一の総合商社として三井・三菱とともに日本経済を支えた鈴木商店の「鈴木」の名称と「辰」印のカネタツの屋号を引き継いでいるのは、鈴木薄荷だけだそうです。
大商店の事業を悠々と受け継ぐ鈴木薄荷のハッカの特徴は、今も昔も国内外から高い評価を得続ける「高純度・高品質の天然ハッカ」。品質試験は機器分析だけではなく、熟練の専門の方が香り・味の検査を行なっており、この検査工程は新工場へ移転した今も変わらないとのことです。まさに「職人の技」ですね。

そもそも「ハッカ」ってなんだろう?

ハッカはシソ科ハッカ属の多年草の栽培植物です。薄荷葉を乾燥させてから、水蒸気蒸留をすることで薄荷油を抽出できます。さらに薄荷油を冷却して再結晶すると、複合結晶「薄荷脳(L-メントール)」が出来上がります。この薄荷脳と薄荷油が各メーカーに納められ、皆さんの身の回りに溢れる日用品に姿を変えるんですね。

近年、ハッカの清涼感を活かした男性用化粧品や冷感商品、食品の需要が急上昇しています。製造・販売の国内シェア4割を誇る鈴木薄荷は、旧工場での生産量が需要に追いつかなくなり、国登録有形文化財にも指定されている工場を離れ、ポートアイランド(神戸市)に新工場を据えました。さらなる需要増に対応すべく、新工場の薄荷脳生産能力は旧工場の1.5倍となる400トンまで可能になりました。

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薄荷の語源は「葉から油を採ると、運ぶ荷が薄(軽)くなる」ことに由来する

インドからやってきた!薄荷葉が結晶になるまで

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いざ工場見学へ!JICAスタッフもクリーンルーム仕様に

実はハッカ栽培の主要国はインドで、世界の生産量の9割を占めており、鈴木薄荷もインドから原材料を輸入しています。90日間育成されて刈り取られた薄荷葉は、現地で1-2日天日干しされた後に水蒸気蒸留により採油されて日本に届けられます。品質試験に合格した油はまず、薄荷脳を精製するために最適な成分組成となるよう調合してから、冷却分離します。

次は薄荷油を結晶化するため結晶缶へ移して、大きな冷凍庫のような「結晶槽」に入れます。約2週間かけて槽内でマイナス15℃までじっくりと冷やすことでできる美しい結晶たち。鈴木薄荷の社員は「ウチの子」と呼んで愛情たっぷりに毎日成長を見守るそうです。
新工場では、結晶槽の中に設置できる缶数が旧工場の60本から90本に増量され、生産量が1.5倍となりました。需要増に伴い、現在10槽ある結晶槽を今後増やしていくことも考えているとのことです。

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傘立ての様な缶の中で2週間かけて冷却されることで油が結晶化する

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旧工場にはなかった混合機。あえて乾燥と混合を別々の機械で行うことが肝

晶析工程で結晶にならなかった油を缶から取り出した後、破砕機で結晶を解体していくのですが、ここが鈴木薄荷のコア技術!狭い空間の中で破砕して綺麗な状態で結晶を取り出す工程は、非常に技術的難易度が高く、他社では手作業で行われていることが多いらしいです 。
その後、24~35℃・湿度25%以下の空気が循環する750kgタンクで乾燥させたら、製品を均一にするため3つのタンクを大きな混合機で混ぜます。最後に、検品機能を兼ねるふるい機で結晶を分別した後、サンプリング試験を合格した結晶が梱包され、各メーカーの元へ届きます。

世界へ拡がれ ベトナム産ハッカ

国内での製造・販売量を順調に伸ばしている鈴木薄荷がベトナムへの海外展開を決意された理由。ズバリそれは、原料の調達をインド一国に依存している現状の打破です。世界のハッカ需要が年間7%伸びる中、生産国を一国に絞っていては、価格変動に悩まされるだけではなく、万が一災害などで調達できなくなった時の大損害は避けられません。
そこで、2013年度JICA中小企業海外展開支援事業に応募し、第2の調達ルートを確立するための調査を2014年1月から2015年1月に実施しました。調査対象国としてベトナムを選んだのは、1995年から2005年にかけてハッカ栽培技術を指導した経緯があったため、生産効率の高い改良種を導入し、現地で薄荷脳・薄荷油を製造できる土壌があるのではと睨んだからだそうです。

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ベトナム栽培の写真

もちろん、ハッカ栽培はベトナムにとっても多くの恩恵があります。目を見張る経済成長を遂げているベトナムの主な農地は、人口密度が高いため、世帯当たりの農地面積が極めて狭くなっています。また、農道の整備が追い付いていないことや、農業機械の導入が遅れているといった課題が各地で散見されています。
これらの課題に対してハッカ栽培は、①0.1ha程の農地でも栽培可能、②高度な栽培技術が不要、③重労働がなく、女性や高齢者だけでも栽培可能、④その上でトウモロコシやコメと比較して高い収入をもたらします。小規模農家でも新たに参入しやすいハッカは、契約栽培で生産していけば市場に左右されない安定した収入確保につながり、農家の所得向上に貢献すると言えます。

現在はハッカをベトナムの土で定量的に収穫する栽培方法を模索したり、収穫した薄荷葉から高品質の粗油を抽出する技術を指導したりと、一歩ずつ現地での栽培・製造の歩みを進めています。ゆくゆくは栽培規模を10,000haへ拡大、大型蒸留設備などの製造機器を設置して、ベトナムからアジア諸国へ製品を販売することを目指しているとのことです。
ベトナム政府の全面的サポートを受けて、3~5年以内にハッカ栽培から製品製造までの到達を目指す鈴木薄荷。ベトナム生まれのハッカ入りの製品が皆様の手に届く日は、もう間近です。

編集後記

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薄荷油(左)と薄荷脳(右)

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JICA関西は企業ともにSDGs達成に貢献します!

「新工場になり機械は新しくなりましたが、製造方法は変えません。」と工場見学の道中で何度となくお話下さった高畑さん。サンプリング試験は勿論、薄荷油の結晶缶への投入、ふるい機への移し替えも1つ1つ社員さんの手で行われています。理由は、お客様へ変わらぬ製造方法で製品をお届けするため。しかも、社員数30名で国内シェアの4割を担いながら、世界のお客様へ最高品質のハッカを届けているので驚きです。受け継がれる情熱を携えた高品質ハッカでベトナム農業、そして経済を支える一片となる挑戦の真っ只中である鈴木薄荷の今後に目が離せません。
今回、新工場を隅々まで楽しくご案内いただきました鈴木薄荷の皆様、誠にありがとうございました!

JICAコラボデスク(大阪市)またはJICA関西(神戸市)にて、企業の皆様の海外進出のご相談にお応えしています!ぜひお気軽にお問い合せください。

(企業連携課 中井光佐)