損得ではなく善悪で儲けよ 滋賀企業の浄化槽維持管理

「1日でも早く来てください!!」- 日本から4400km離れた海の向こう、ミャンマー国ヤンゴン市からのラブコールが止まない企業が滋賀県・草津市にあります。さて、ヤンゴン市は誰を待っているのでしょう?

インタビューにご協力いただきましたのは、大五産業株式会社の権田五雄社長、そして大五産業グループの守山環整株式会社・堀井厚美社長。大五産業株式会社はJICA中小企業海外展開支援事業を活用して、ミャンマーで浄化槽の設置・維持管理を行い、水環境改善に挑んでいます。
今回は、海外展開に至るまでの経緯や成功のカギ、そして事業への想いをお二人で一緒にお話しいただきました。

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堀井社長(左)・権田社長(右)

海外展開のきっかけは、技術者の活躍の場の発掘!?

創業は1959年、当初は家庭ごみなどの一般廃棄物の処理事業を行っていた会社でした。浄化槽事業に乗り出したきっかけは、1972年から25年かけて実施された国家プロジェクト「琵琶湖総合開発事業」。“琵琶湖の水環境を改善しよう!”という大きな目標に向かい、多くの事業者が琵琶湖の環境改善に必要な技術を勉強していた時代で、我々は浄化槽の維持管理業務を開始し、普及に努めました。滋賀県には多くの浄化槽技術者が誕生し、県外へその高い技術を指導しに行っていました。
しかし、1970年代後半より下水道の設置が流行り始めて、浄化槽は次第に下火になって来たのです。滋賀県の下水道普及率は80%を超える状況の中で、浄化槽の技術者たちの仕事は減っていきました。
滋賀県での仕事は減っている。県外にも既に技術者は揃っている。それなら海外で活路を見出そうじゃないか!と思い立ったのが海外展開のきっかけでした。

ヤンゴン市との出会い

ちょうど海外展開を考えていた時のことです。日本ミャンマー文化経済交流協会の会長が滋賀県在住の方で、お話しする機会がありました。浄化槽について話したところ「一度ミャンマーに行って、調査をしてみませんか?」とお声掛けいただき、協会を通じて水質浄化の現地調査をすることができたのです。調査の結果、現地に浄化槽の類は全くなく、生活排水処理ができておらず、池も汚染されていることが分かりました。
さらに、幸運にもヤンゴン市長にお会いする機会に恵まれたのですが、市長は駐日大使を歴任された方で「日本の浄化槽はすごいですね!」とおっしゃいました。また、「浄化槽は素晴らしい技術です。何とか我が国にも導入できないかと思っています。」とおっしゃられてミャンマー進出を決意しました。

いくつかの偶然が重なりミャンマーを進出国に選んだ後、2014年に中小企業海外展開支援事業【案件化調査】、2015年に同【普及・実証事業】へ応募・採択に至りましたが、費用面もバックアップしてくれるJICAの存在も大きかったです。海外展開に挑むにあたり背中を押してくれました。また、実際に事業を開始すると、現地機関との複雑なやり取りが増えてきますが、JICA事業という看板があるのとないのとでは行政機関との交渉に至るまでのスピードが違ってきますよ。

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JICA事業での小型浄化槽の設置

成功のカギは「条例づくり」

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現地パートナー企業との合弁会社設立の調印式

ミャンマーでの事業が成功に繋がった1番のポイントは、条例づくりですね。浄化槽が普及していない国では当然、浄化槽に関する法制度も未整備です。ヤンゴン市と共同で制定した条例の内容は、「3階建て以上の建物には浄化槽を設置すること」、「キレイな水を排水すること」といったものです。条例を施行するには、この“キレイ”の基準を設定する数値、そして数値を測定する機関が必要です。つまり、浄化槽の維持管理業者が不可欠になるので、このポジションに大五産業は位置することができたのです。

条例に違反する者に罰則を科する権限を持つのはヤンゴン市。条例を有効なものにするため同市は、我々に対し一日も早く維持管理業務を実施するよう要請しており、我々も現地企業と合弁の製造販売会社や維持管理を担う100%出資子会社を設立するなど、鋭意準備をしているところです。

併せて、ミャンマーでの浄化槽管理士の育成にも力を入れていきますよ。教育訓練機関を設置して、課程を修了した方に管理士の証となる修了証を授与することで雇用創出に繋がります。教育機関の運営とテキスト作成・販売は将来大きな収益の柱になることを見込んでいます。

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維持管理試験を実施。合格すれば修了証が交付されます。

浄化槽を「魔法の箱」にしてはならない

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適切な維持管理をミャンマーで拡げます。

浄化槽の海外展開において皆様にお伝えしていることは「海外に浄化槽を売る際は、同時に維持管理の方法を伝えなければならない」ということです。メーカーは、現地に浄化槽を置いてくるだけの“売りぬき”をしてはいけません。残念ながら、大手メーカーの浄化槽が設置された後、適切な維持管理が行われておらず、浄化に必要な微生物が死んでしまっている浄化槽をいくつか目の当たりにしました。小さな維持管理業者が浄化槽普及の“縁の下の力持ち”であること、そして浄化槽メーカーと維持管理業者の協働は不可欠であることを伝えていくことも重要な務めだと思っています。

今、我々は大手メーカーが関心を示さない領域で新たなビジネスを見出しています。現地で維持管理業務の準備を進めていた中で気付いたのですが、浄化槽から汚泥を引き抜くためのホース、ホースをつなぐジョイント金具、塩ビパイプといったさまざまなパーツをミャンマーでは揃えられません。日本ならすぐに指定のパーツを調達できますが、JIS規格のような部品の規格が定められていないミャンマーではそうはいきません。それならば「ないものは自分たちで作ろう!」と考えまして、パーツを現地調達・生産できる部品の製造販売会社の役割も我々が担うべく計画しています。
現地で準備を進めているとやるべきこと、ビジネスの種が沢山見つかります。これはメーカーではなく、維持管理業務を担う中小企業だからこそ気づく点だと思っています。気づいたとしても大企業は採算が合わないとみなしてしまうかもしれません。そういった他の企業が気づかないところ、行き届かないところを我々が埋めていかなければならないと考えています。

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タンクの素材についての指導も重要です。

アジアや周辺諸国へのさらなる展開を目指して

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近江商人の「三方よし」の精神を受け継いで海外進出に挑みます。

やっとミャンマーでの事業のスタートラインに立てましたが、言葉や風習の違いといった障壁にぶつかることは勿論、現地では計画通りに進まないことばかりです。それでも今に至れたのは、“損得ではなく善悪で儲ける”という我々のスローガンに則ってきたからだと思っています。
我々がミャンマーで販売する浄化槽の価格は、大手日系メーカーの5分の1です。薄利多売で普及させることを計画しての価格です。維持管理サービスは、1件あたり年間1万2千円と破格です。しかし、年間1000件やれば1千万円超のビジネスになります。浄化槽事業の継続の秘訣は、安価かつ適正な維持管理を実現することだと考えています。ミャンマーでの事業が上手くいけば、アジアおよび周辺諸国へ展開することも想定していますが、一時の儲けに走らず正しいことを続ければ、利益は必ずついてくると信じています。

編集後記

既に他国からも浄化槽維持管理の依頼が来ている大五産業。海外売上比率を現在の倍以上の20%まで伸ばすことを目指しているとおっしゃっていましたが、「もうやることがいっぱいなんです!」とお話しされる皆様をみていると、さらに先まで飛躍されるのではと思ってしまいます。
『人は心を伝えるために言葉をつくった。人間としての証に言葉をつくった。なのにいつの間にかことばは悲しい嘘をつく』という大五産業の箴言の通り、誠実な商いこそが世界を拓くものであると私たちも信じて、関西企業の皆様のお手伝いをしていく所存です。
インタビューの最後に「道半ばではありますが、我々はJICA事業として成功事例でしょうか?」とお聞きになられました。勿論、私たちからの回答は「想定以上です!」。

JICAコラボデスク(大阪市)またはJICA関西(神戸市)にて、企業の皆様の海外進出のご相談にお応えしています!ぜひお気軽にお問い合せください。

(企業連携課 中井光佐)

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社員食堂のランチが大変美味。思わず丼ぶりで食す(写真奥)。

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JICA関西は企業ともにSDGs達成に貢献します!