地球70億人の環境ニーズに挑む企業のウラガワに迫る-株式会社日吉

「環境で困ったら日吉さんに相談してみよう」- そんな声が途上国でも飛び交うこと間違いなしの環境ソリューション企業、株式会社日吉(ひよし)を訪問しました。

湖国の環境問題に向き合い続けて63年。近江商人の有名な心得「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)をご存知の方も多いと思いますが、日吉はこれに「次世代よし」を加えた「四方よし」の実践に取り組んでいます。
『社会立社・技術立社』の理念のもと、化学分析から工業薬品の販売、施設維持管理・廃棄物処理まで幅広い分野で環境事業をトータルサポートしている同社は、1980年代から国際貢献事業を手掛けています。これまでの途上国からの技術研修生受入実績は、なんと約30か国・総勢700名を越えています。また、関西SDGsプラットフォーム(※1)にも滋賀県企業としていち早く参画しており、環境保全の面から持続的社会の構築に向けた活動を行っています。

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7名での訪問、日吉の皆様に温かく迎えていただきました。

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ユーモア溢れる黄俊卿さん(左)と談笑するJICA関西・西野所長(右)

JICAとのお付き合いも深く、2011年から2015年までベトナム及びインドシナ諸国にて地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(※2)、2015年から2017年にかけてはベトナムにて草の根技術協力事業にも参画。現在は中小企業海外展開支援事業を活用して、インドにて遠隔監視システムを用いた生活排水処理施設の維持管理事業案件化調査に取り組んでおられます。

今回の訪問では海外事業の取り組みについて伺うだけでなく、検査・分析を行っている分析室や、同社が管理している近江八幡市第1クリーンセンターの内部も見学させていただきました。ご案内いただきましたのは、終始面白おかしく日吉ツアーを盛り上げてくださった総務部の黄俊卿(こう しゅんけい)さん。それでは、世界の環境事業を変える日吉の秘密に迫ります。

“環境問題に国境なし” 培った技術で国際貢献

「当社は、環境や公害という概念がまだ無い衛生の時代に誕生しました。もちろんICT・IoTなど存在しないアナログ時代でしたが、そのような時から廃棄物処理やし尿運搬などの環境事業に手作業ながら電算化を取り入れてきました。海外事業を始めたきっかけは、滋賀県が中国湖南省と姉妹都市提携される準備で1982年に中国の行政官が来社され、中国・洞庭湖(どうていこ)の富栄養化問題を知ったからです。琵琶湖の富栄養化対策の経験から、私たちが培ってきたノウハウを途上国の方にお伝えすれば、彼らの役に立てるのではと思い始めました。」と、代表取締役・村田弘司社長。

「入社時から分析に携わっていたこともあり、廃棄物の分析からさまざまな社会の環境課題が見えていました。」鈴木会長の方針を受け、企業として“社会ニーズに向き合う”という姿勢をさらに強めていった村田社長のもと、同社は “環境問題に国境なし”を基本理念として、途上国を中心に研修生の受け入れや技術者の派遣、国際産学連携といった国際協力に取り組んでいます。

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村田弘司社長

インドの排水事情を変える 琵琶湖生まれの遠隔監視システム

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モニタに現在の沖島の施設の様子と水質ログを映して説明して下さった管理部・北川道俊技監

続いてご紹介いただいたのは、インドでの実用調査真っ只中の排水処理施設遠隔監視システム。このシステムは1985年、琵琶湖の沖合に浮かぶ有人島「沖島」で誕生しました。当初建設されていた無人下水処理施設は、毎日の点検に加え、トラブル発生時には片道6000円のチャーター船で島へ渡らなければならず、施設の維持管理に大変な時間的・経済的なコストを要していました。この課題に立ち向かったのが日吉。自動水質計測による常時監視・管理と、パソコンを用いたテレメータ管理を導入することで、異常が発生した際にもタイムリーに対応することができるようになりました。

同社は、この排水処理施設の管理技術と、ICT・IoTを組み合わせた最新の維持管理システムの導入に加え、長年培ってきた維持管理技術を提供することで、インドで日本と同レベルの排水処理の水質維持体制を構築しようとしています。
日吉の強みは2つあります。1つは、長年の経験で培われた解析力とそのデータの蓄積量です。インドでも各工程に設置したセンサーから得られたデータを日吉本社の技術者がリアルタイムで確認しながら運転できるように取組んでいます。
もう1つは、2011年にチェンナイ市で設立した現地法人・日吉インディア。日吉インディアのスタッフが、日本本社の技術者が解析したデータをもとに現場で運転作業やメンテナンスするほか、異常が発生した際も即座に現場に駆けつけることで、日本流の品質を担保した維持管理を実現します。
同社のインドでの活動は2018年で23年目。環境意識向上を図る「スピーチコンテスト」の開催や、日本・インド両国での技術提供など同国の環境保全を多角的にサポートし続けています。

途上国が注目する簡単で・早く・安価なダイオキシン分析法

次に、特別に黄さんが案内して下さったのは日吉のコアである分析室。ここでは水、大気、土壌等の環境媒体のほか、食品・飲料水、有機化学物質、衛生検査などの非常に幅広い分析・測定が日々行われています。

特に力を入れているのが、1998年から米国企業と研究開発してきた「ケイラックスアッセイ®法」を用いたダイオキシン類の生物検定法です。2005年に日本国内で公定法の認定を受け、日吉は現在途上国での普及を進めています。

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袋に詰められているのは採取した工場の排ガス。悪臭物質の分析や臭気判定をします。

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このダイオキシン類生物検定法の国内シェアNo.1です。

従来の「機器分析法」は、高精度な分析が可能である反面、当時の機器本体の価格が約1億円かかる上、分析技術者の育成にも時間がかかり、大量の有機溶剤を使う必要があり、また安定した電力供給が必須であるため、途上国へ導入するには難しいものがありました。
一方ケイラックスアッセイ®法は、①分析コストが安い、②分析時間が短い(最短3日間)、③操作が簡単、④少量で分析可能であるため、大変扱いやすい分析法で、世界から注目を集めています。

し尿処理センター兼し尿の一時貯留保管施設 第1クリーンセンター

最後にご案内いただいたのは日吉本社より車で10分の所にある、近江八幡市第1クリーンセンターです。
この施設は1979年から市所有のし尿処理場として運転していましたが、老朽化により2006年から運転停止となっていました。2011年に発生した東日本大震災の時、被災地でし尿運搬処理を緊急支援していた日吉は、し尿の一時貯留保管施設の重要性を痛感します。そこで同社は近江八幡市に対し、第1クリーンセンターを災害時にはし尿の一時貯留保管施設にも切り替えやすい「回分式活性汚泥法」と言うし尿等の処理も行える施設に改修することを提言し、日吉の管理の下2013年より運転を再開することになりました。市の政策である「災害に強いまちづくり」の一環として行われたこの事業を推進したのは、「新たに造るのではなく、既存の施設を有効活用して防災に備えよう」という日吉の強い思いでした。

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施設内をご案内して下さった管理部・西田博之次長

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インドの排水処理施設を小スケールで再現しています

休眠施設であった槽内堆積汚泥の清掃から設備の設計施工までを日吉社員全員で取り組み、7年間の休眠から目覚めた処理場は日吉の培ってきた維持管理技術と応用から様々な工夫があり、その一つとして大小さまざまな実験設備も組み込まれています。
ここでの取組手法は、先述のインドでの排水処理施設管理事業などにも利用されています。JICA案件化調査のカウンターパートの処理施設を小スケールで再現し、現地に適した排水処理方法を日吉インディアで検証しています。インド現地によくある処理方法である担体による接触曝気法を再現し、この方法の問題点を検証しています(左写真)。

時代に合わせたニーズ+国際化

海外における日本の環境インフラのニーズが、今後ますます高まると言われる中、村田社長は「環境省が策定する海外展開基本戦略の中にも”浄化槽”の項目が入っています。当社は現地の方々の理解を少しずつ得ながら、環境事業のモデルを作っていきます」と先駆者として海外事業を拡大する意気込みを語られました。将来的には、現在インドで計画中の環境インフラ維持管理事業を、中国やベトナムなどにも展開していきたいと考えているそうです。

日吉の歴史は、時代や社会に求められるものを、現場に立つ社員たちの問題意識とアイデアによって提供することで紡がれてきました。地元住民の声に常に寄り添ってきた同社が、次は途上国の声に応えていくことで拡大されていくであろう「環境との共生」こそ、持続可能な社会の実現に不可欠であることは言うまでもありません。

編集後記

ある時、村田社長が水質などの分析方法を地元住民の主婦の方々に紹介した際、こぞって「分析についてもっと教えてください」と依頼があり、自分たちで河川や琵琶湖の水質分析を始めたそうです。滋賀県民のみなさんの環境保全に対する熱意が伺えるエピソードですね。「四方よし」の理念を掲げる日吉は、自然への敬意と愛情があふれる湖国だからこそ誕生したのだろうと思います。
今回取材に快くご協力いただきました日吉の皆様、誠にありがとうございました!

JICAコラボデスク(大阪市)またはJICA関西(神戸市)にて、企業の皆様の海外進出のご相談や事業の疑問にお応えしています!ぜひお気軽にお問い合せください。

(企業連携課 中井光佐)