経験をすべて注ぎ込み、ホンジュラスで災害対策に挑戦!

~株式会社測商技研北陸の取締役舘中敬介さんにインタビュー~

1998年に創業された株式会社測商技研北陸は、地質調査のエキスパートとして、災害関連機器(高精度な検知器、警報器、通信装置等)を通して地すべり等の斜面災害対策に取り組む、石川県金沢市所在の社員数10名の中小企業です。「人と自然が共存するために不可欠な製品を社会へ提供すること」を使命として掲げ、2019年4月から、ホンジュラスの斜面災害対策に同社の斜面災害検知装置を活かすべく、JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業(基礎調査及び普及・実証・ビジネス化事業)に取り組んでいます。

ホンジュラスの地すべりの被害の拡大

約125万人(国の全人口の13%)が暮らすテグシガルパ首都圏では、豪雨等を誘因として斜面災害が頻発しています。近年は地方からの移住者(毎年約45,000人)等を含む貧困層の居住域が傾斜地に拡大しており、首都圏の斜面災害における脆弱性が問題となっています。

2022年9月にテグシガルパ市で発生した地すべり

2022年9月にテグシガルパ市で発生した地すべり

測商技研北陸、取締役舘中敬介さんにJICAスタッフがインタビュー

本事業に業務主任者として取り組む測商技研北陸、舘中さんに現地に対する思いや取り組みに関しお話をお伺いしました。

測商技研北陸、取締役 舘中敬介さん

測商技研北陸、取締役 舘中敬介さん

何故、ホンジュラスで災害対策を

武井(JICA):舘中さんのこれまでのキャリアについてお伺いしたいです。測商技研北陸の舘中憲次社長は舘中さんのお父様ですが、最初から同会社で働かれていたのでしょうか。

舘中さん:大学卒業後、洋菓子店に就職し、約3年間の勤務の後、測商技研北陸で仕事をするようになりました。地質調査関連の仕事は肉体労働のイメージが強く、正直やや抵抗がありました。

武井(JICA):全く異業種からのスタートだったのですね。実際に仕事をしてみてどうでしたか。

舘中さん:実際に山奥での作業も多く、実は昨日熊に遭遇しました。

武井(JICA):え・・?!本当ですか。(その後野生の熊が駆け回る動画を共有いただき驚愕する)金沢へお伺いした際に熊対策として、作業服に鈴を付けていたのが思い出されます。

舘中さん:話が逸れましたが、当時は何もわからないままひたすら現場に連れていかれました。手探りでがむしゃらに仕事をしていくうち、もともとパソコンが得意だったこともあり、データ解析や図面を書いたりしている中で、社内でシステム系の仕事を任せてもらいました。入社から5年位たった頃のことですが、自分の得意なことを現在の仕事へ活かせたことはキャリアにおいて重要な経験だったと思います。

武井(JICA):提案製品(検知器・警報器のカスタマイズシステム)に繋がる部分ですね。ホンジュラスで本事業に参画することに至った経緯を教えてください。

舘中さん:ホンジュラス事業に関しては、国際航業株式会社(現在外部人材として本事業に参画)から、JICAの技術協力プロジェクト(首都圏斜面災害対策管理プロジェクト:既存の防災ODAプロジェクト) では補いきれない部分(斜面災害に関する早期警戒や避難することの重要性、意識づけ)を測商技研北陸の技術を通して補完できるのではないか、とのことで話を持ち掛けられたことがきっかけです。当初このお話をいただいた時は、ホンジュラスに対して“危険な国”という印象が強く、また、馴染みのない遠い国で自社の製品が活用されることや、ビジネス化できるのか不安があり、そのハードルの高さに躊躇する気持ちもありました。参画に至ったのは、会社としても日本の市場が限られていることも理由の一つです。

現地で見えてきたもの

武井(JICA):情熱的に本事業に取り組む舘中さんの印象が強いですが、その後、活動を進めていく中でどのような変化があったのでしょうか。

舘中さん:当初は不安も大きかったですが、ホンジュラスで事業を展開できるようになるには、中途半端な取り組みでは実現できず、「より現実的で効果的なもの」にする必要がある、と考えました。2回目の渡航で機材の設置をしましたが、「これはいける、やっていける」と思うことができました。これから成すべきことに対する焦点がバッチリ合ったような感覚です。

武井(JICA):それは機材の設置が上手くいったからでしょうか。

舘中さん:はい。2週間の渡航でしたが、国内でも2週間で機材を設置することは困難です。そのため日本で綿密な計画を立てました。設置にあたり渡航前に現地の方に予め機材の設置場所の下準備(ボーリング孔の掘削、計測機器用のガイドパイプの設置)を任せる必要がありました。機材の設置は無事に2週間で完了、その後計測データも問題なく取得することができました。現地で活動をする中で、沢山の方に注目いただき、時には的確なアドバイスをもらうこともありました。渡航を重ねるたびに沢山の出会いがあり、これが大きなモチベーションに繋がっています。現場のこども達が名前を憶えてくれていたのは嬉しかったですね。今では「ホンジュラスにもっと貢献したい」という思いが本当に強くなりました。ただ、このプロジェクトは測商技研北陸だけでできることではなく、コンサルタントの国際航業、現地の方々、JICAが一丸となって取り組むことにより可能となっていると思います。

武井(JICA):みなさんのチームとしての一体感を感じています。

舘中さん:とても貴重な経験です。

2022年データ通信機器の設置・設定

2022年データ通信機器の設置・設定

2023年設置した機材に関する現地説明

2023年設置した機材に関する現地説明

武井(JICA):4月に第4回目の渡航を終え、現地でも全国ネットのニュースで取り上げられるなど、測商技研北陸の取り組みに対して注目が集まっていますね。「私の経験をすべて注ぎ込んで現地の災害対策に貢献したい」と力強くおっしゃっていた様子が印象的でした。また、国内でも金沢のはくさん信用金庫で本JICAプロジェクトの活動を紹介するセミナーでは、多くの質問や関心が寄せられました。

舘中さん:セミナーでの記事を見た会社から複数問い合わせがありました。海外展開の取り組みに興味持っていただいたようです。

2023年5月現地住民への防災教育および説明会

2023年5月現地住民への防災教育および説明会

2023年4月現地ニュースの取材と報道

2023年4月現地ニュースの取材と報道

今後の展開

武井(JICA):今後に向けた取り組みを教えてください。

舘中さん:残り2回の渡航において、継続して住民への防災教育と広報活動を実施する予定です。今後、ホンジュラスの斜面災害に対して現場に応じた機器の構成(検知器・警報器・通信システム)や設置方法を検討します。また設置された機器を一元管理できる「検知器・警報器のカスタマイズシステム」を導入するとともに、早期警戒・避難体制の素地を構築することで、株式会社測商技研北陸のビジネス展開につなげてまいります。本事業を通じて、斜面災害の高リスク地区における住民の生命を守ることに貢献することを目指しています。「ホンジュラスでのビジネス化、なんとか実現したい!」と思っています。

武井(JICA):測商技研北陸、舘中さんの挑戦を応援しています。本日はお話いただきありがとうございました。

2023年機材設置現場集合写真

2023年機材設置現場集合写真