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<第三回>途上国ビジネス展開時の販売実績の必要性

途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。第三回目となる今回は、ビジネスの成功と過去の「販売実績」の関係について解説していきます。

JICAの民間連携事業を活用した企業を対象にした事後モニタリング調査から過去の事例を分析すると、やはり、国内外での販売実績の有無が、その後のビジネス展開に大いに関係します。特に国内実績の有無を比べた場合、利益・売上実現に至った割合はそれぞれ3倍、4倍の差がありました(図1)。一方で、海外実績に関しては、ビジネス展開状況にそれほど大きな差は見られませんでした(図2)。また、国内外において豊富な実績があっても売上実現に至っていない事例や海外ビジネス展開を断念した事例も少なからずあることがわかります。

本コラムでは、ビジネスの成功と「販売実績」の関係について以下、3つのケースについて各ポイントを解説していきます。

1. 国内外の販売実績が豊富なケース
2. 国内での販売実績はあるものの海外での販売実績が少ない(またはない)ケース
3. 国内外ともに販売実績が少ないケース
 

1. 国内外の販売実績が豊富なケース

国内外での販売実績は、「事実」として顧客の信頼や安心感を得るための効果的な訴求材料になります。皆さんもインターネットで何か新しいモノを購入したり、サービスを利用したりするとき、実績、星の数、口コミを確認したことはあるのではないでしょうか。それは海外の方々も同じです。特に、公共調達であるBtoGビジネスでは、BtoBやBtoCに比べると、過去の販売実績を重視する傾向があります。
一方で、日本国内の市場シェアが高く、進出国からその販売実績を評価されたとしても、現地のニーズに合致していないという理由や、社会情勢が大きく変わったことが原因で、売上実現に繋がらないケースもあります。そのため、現地で調査する際は、製品技術の有用性を証明できるデータを収集し、客観的なデータを進出国の想定顧客に提示すると良いでしょう。現地でのデータ収集が困難な商材・サービスであれば、日本国内の実績に基づいたデータでも代用でき、顧客に訴求できます。販売実績に加えて、提案製品・サービスの購入・導入効果を示し、顧客に効果を実感してもらうことに成功すれば、新規市場での売上実現にぐっと近づきます。

2. 国内での販売実績はあるものの海外での販売実績が少ない(またはない)ケース

こちらのケースにあてはまる企業は多いのではないでしょうか。そもそも海外の販売実績が少ない(またはない)場合は、どのように製品・技術を展開すれば良いでしょうか。実績が確立されていない中で、地の利がなく言語も文化も異なる海外で展開するとなると、とても不安ですよね。
効果的に新しい商材・サービスを顧客に訴求するために、まず考えていただきたいことは、現地でのニーズ調査に基づき、製品の仕様や価格などを現地に適合させることができないか、という点です。JICA事業実施企業の事例として、現地の技術等を活用し、現地の購入者自らが利用、修理できるように現地化することで、売上実現を果たした事例が多数ありました。もちろん、日本で販売されている製品・サービスをそのまま現地で販売し成功した事例もありますが、文化や商習慣が異なる途上国において、このようなケースは多くありません。
また、現地への適合化を図ったとしても、顧客にとって製品やサービスが新しいものである場合、実際に製品に触れることがなければ、その効果を想像することは難しいです。そのため顧客が製品やサービスを実際に体験したり、デモンストレーションを通じて効果を実感してもらう方法についても検討してみてください。
また、現地に進出している日系企業への販売を将来の販促拡大への足掛かりにするのも一案です。日本国内で大きな市場シェアを占めている現地の日系企業に販売できれば、その製品・サービスの導入を通じて、進出国の新聞等に現地の言葉で掲載され、口コミで評判が広がるかもしれません。この段階になれば、現地の方々への横展開の可能性が見えてきます。まずは進出国の日系企業・日本人に使ってもらうことで販売実績を作り、その実績をもって、より大きな市場である現地市場の獲得を目指すというような戦略も検討の価値があります。

3. 国内外ともに販売実績が少ないケース

新製品の販売を目指している企業やスタートアップ企業の一部では、国内外の販売実績がほとんどない場合もあるのではないでしょうか。少々厳しいコメントとなりますが、率直に申し上げて、販売実績がないと、進出を検討している途上国で売上を実現することは容易ではありません。事後モニタリング調査の分析によると、進出国での事業を断念する割合について、国内での販売実績がない場合は約4割である一方で、販売実績がある場合は約2割となっています。さらに、利益実現の割合は3倍、売上実現の割合は4倍の差がありました。実際、過去のJICA事業実施企業の海外展開断念の理由として、「実績の少なさからステークホルダーや営業先に十分にアピールすることができなかった」が上位にランクインしています。
しかし、国内外の販売実績がなくとも、進出国で売上を実現し、利益を出している事例もあります。
一つ目の事例は、会社の設立当初から、海外市場を念頭に置いていた企業についてです。この企業は、実績のある日本の製造業と協働し、JICA事業に参加する前から、進出国に現地法人を設立していました。その後、同社はJICA事業に参加し、成果を上げ、カウンターパートと良い関係性を構築しました。現地からの信頼を勝ち得た結果、JICA事業の中で現地政府のイベントで商品をPRすることができ、メディアの宣伝効果により受注機会を増やすことに成功しました。その後、同社は現地政府機関と契約を結び、サービス提供を通じて売上を実現しています。
二つ目の事例は、進出国で農産品を調達、加工し、日本の市場に加工品を販売するビジネスモデルを考えた企業についてです。JICA事業実施時、この企業は当該加工品を日本国内で販売した実績はありませんでしたが、JICA事業に採択されたことが契機となり、今では日本市場の開拓に成功しています。進出国での調達、加工工程のパートナー選びにおいて、JICA事業であることを関係先に伝えたことで、現地関係者の確保や連携がよりスムーズにできました。また、日本国内での認知拡大を図るために長期的な視野で、販売促進を考え、広告を打ちました。同社は、最初から大きなリターンが得られないことを念頭にしていたので、粘り強い姿勢で海外事業展開に臨むことができました。今では、日本市場での販売量を増やすことに成功しています。なお、この企業はJICA事業採択前から、進出国に自費で何度も現地調査に行くなど、必要な投資を惜しみませんでした。


いかがでしたでしょうか?ビジネス展開において販売実績があることは、大きなアドバンテージとなることは間違いないといえます。しかし、実績があっても新規市場に進出する場合、現地の特徴を捉えて適切に戦略を練らなければ、現地で受け入れてもらえません。一方で、販売実績がない場合でも、アプローチの仕方次第で販路拡大のチャンスを引き寄せることはできるのではないでしょうか。

次回のテーマは、「自社製品やサービスの競争力を図るSWOT分析とは?」です!お楽しみに!

(図1)国内販売実績の有無別

(図2)海外販売実績の有無別