<第六回>進出国の「規制」について意識しておきたいポイントとは

途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。海外ビジネスをする上で欠かせないポイントの一つが「規制」です。進出国において、販売したい製品やサービスが、厳しい規制対象となる場合や販売するための認証が必要となる場合もあります。馴染みのない規制のもとで事業化を試みると、解釈に悩むことや戸惑うことも少なくありません。「規制」と聞くとネガティブな印象を抱くかもしれませんが、内容次第では自社ビジネスにとって有利に働くこともあります。
そこで今回は、「規制」について意識しておきたいポイントと対応策、実際の事例を解説していきます。是非最後までお読みください!

進出国の「規制」について意識しておきたいポイントと対応策

①規制や運用実態について定期的に情報収集する
ひとことで「規制」といっても様々なものが存在しますが、その中でも「外資規制」は海外進出する際にまず確認しなければならない規制の一つです。「外資規制」とは、外国資本の企業が進出国内に投資する際に適用される規制のことを言います。例えば現地法人の設立を検討している場合、業種によって外国企業の出資比率や資本金、土地所有に係る規制内容が異なるため、進出国を選定する際の重要な判断材料となります。
また外資規制以外にも、現地の労働法、環境法、税法など、ビジネス展開する上で重要な法規制が多く存在します。規制内容によっては、自社の製品・サービスが進出国の規制対象となる場合があります。ジェトロのウェブサイトでは、最新の規制情報を日本語で提供しています。海外展開を検討している場合は、現地調査を行う前に外資規制等の適用有無について調べておきましょう。
一方で、規制の概要はインターネットでも確認できますが、机上調査だけでは運用実態まで把握することは難しいため、現地調査で確認することを強くお勧めします。また、進出国によっては、突然の規制変更によって自社製品が規制対象となるリスクもあります。そのため 規制については、最新の情報を定期的に情報収集できる体制を構築しましょう。また、運用実態については、現地でビジネスをしている同業の日系企業や現地パートナーなど実態をよく知っている人に確認することも一案です。

②商材の許認可・認証を取得するための調査を実施する
進出国で自社の製品・サービスを販売するためには、その国の許認可や認証が必要になる場合があります。許認可・認証によっては、現地で実証データを収集し規制当局に結果をモニタリングしてもらうなど、長期間を要することもあります。事前にデスクトップ調査やカウンターパートを通じて 取得要件を確認し、計画的な取得を目指しましょう。
また、取得要件に不明瞭な点や判断に迷う点があれば、 規制当局に直接相談し、確認してみるとよいでしょう。 過去には、企業が保有している実証データが認証要件を満たしているかを規制当局に直接相談したところ、規制当局から認証取得に向けた具体的なアドバイスを得たという事例もありました。

規制の影響を受けた企業の対応事例

一つ目の事例は、家電を製造・販売している企業についてです。
この企業が進出した国では、製品に求められる環境基準が長らく改訂されていなかったことから、初期費用の安い家電が売れやすく、提案企業の製品が有する高い省エネルギー機能は評価されていませんでした。そこでこの企業は、他の公的支援も活用して社外の研究所と共同で実証データに基づく論文を作成し、現地の大学やNGO関係者と連携することで、エネルギーや環境保全に関する制度変更を行いたいと考えていたカウンターパート機関を後押ししました。JICA事業を経て同国の省エネルギー基準は強化され、進出国の市場に既に出回っていた他社製品よりも同社の製品の方が環境配慮に優れていると評価されたことで、同社のビジネス機会は拡大していきました。 実証データに基づく研究結果を収集し、現地機関と連携して規制を強化することで、提案製品が評価される環境を作りだすこともできます。
 
二つ目の事例は、医療の検査技術を提供している企業です。
この企業は、JICA事業以前から社内で輸出入規制や薬事規制を確認していました。進出当初は、自社のビジネスに影響を与える規制は存在していませんでしたが、進出後に自社の検査技術が規制対象となりました。医療機器分野は制度変更の影響を強く受けるため、現地代理店の協力のもと、タイムリーな情報収集に努めていました。これにより、医療技術の効果に係る評価制度(HTA:Health Technology Assessment)の変更に対し、迅速かつ適切に必要な対応をとることができました。
医療品や医療機器以外にも、食品やセキュリティー関連の商材は、厳しい規制があり、また、時世の流れによって制度が変更されるため、常に情報収集ができる体制を構築し、その都度対応していく柔軟性が求められます

三つ目の事例は、道路舗装に使用するリサイクル資材を進出国で製造している企業です。
この企業の主力事業は建設業でしたが、進出国において建設業は外資規制の影響を受けることを事前に確認し、建設業ではなく、再生アスファルトの製造業としてビジネス展開をすることになりました。これまで進出国では、リサイクル資材を用いた道路建設が一般的ではありませんでしたが、地道に販路拡大に向けた取組を継続するなかで、進出国における提案技術の認知度向上に貢献しました。現在、この企業はリサイクル資材に必要な原材料の開発のため、更なる事業展開を進めています。
自社の主力事業が外資規制の対象となっていても、関連技術や知識を用いて事業形態を変えることで、ビジネス展開の可能性が開かれることもあります。 規制は新境地を開くためのチャンスと捉え、事業形態やビジネスモデルの変更も視野に入れる等、根気強く突破口を探ることも大切です。


いかがでしたでしょうか?今回のテーマである「規制」は、ビジネスを妨げることもあれば、反対にビジネスを推進することもあることがわかります。現地の規制とその運用実態を正確に把握し、対応していくことは、持続可能なビジネスの成功を収めるために必要なことなのです。

次回のテーマは、「進出国の適切な製品価格を図る受容価格帯とは?」です!お楽しみに!