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- 海外進出時におさえるべき収支計画のポイントとは?
途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。第十回目となる本コラムでは、事業化に向けた戦略を立てるための重要な判断材料となる「収支計画」について解説していきます。
JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業において収支計画を策定すべきか?
釈迦に説法ではありますが、収支計画は、事業計画の一部として策定され、将来に亘り計画されている事業の収入から支出を差し引き、対象となる事業計画期間においてどのタイミングで幾ばくかの利益が得られるか予測するための計画です。これは収入と支出を計算し、損益計算書(P/L)にまとめる作業から始まります。さらに本格的に事業投資をする場合は、通常、損益計算書では足りず、プロジェクト(案件)ベースのキャッシュフロー計算書や貸借対照表を含めた財務三表を作成し、投資回収期間や投資収益率、内部収益率等を含め、より包括的かつ厳しく投資の妥当性を確認していきます。
途上国ビジネスの立ち上げ段階におけるJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業(以下、「JICA事業」)においても同様の粒度の財務分析は必要でしょうか。もちろん、海外展開の検討初期段階である場合は、現地での情報収集とビジネスモデルの検討が調査のメインテーマとなることが多いと思います。しかし、その後、本格的な投資を検討する段階で、精緻な財務分析は対内・対外的な説明において必ず求められます。
JICA事業を活用した企業に対して行った事後モニタリング調査
では、利益・売上実現している企業ほど、実行可能な収支計画を策定していることが分かりました(図1)。
以上の結果から、海外展開の検討初期段階や実現可能性調査段階であったとしても、将来のビジネスを見据えて、調査の結実としての収支計画を策定することが望ましいと言えます。
(図1)実行可能な収支計画の策定の程度とビジネスの成否における関係性
収支計画書作成のポイント
次に、収支計画を作成することのポイントについて、過去のJICA事業の経験を基に解説していきます。
1. 実現したいビジネスモデルを理解し、収支構造を把握する
最初に、モノ、カネ等の流れを明確にした実現したいビジネスモデルを整理しましょう。そのうえで、当該ビジネスモデルに登場する利害関係者を漏れなく列挙し、それぞれの利害関係者の役割及び、それぞれの果たす役割の関係や相互作用を整理しましょう。明確にビジネスモデルが整理されれば事業に関連する売上・費用の項目を網羅的に把握することができます。あとは売上、費用の各項目の根拠(単価と数量の根拠)を調査、検討することで、実現したいビジネスの収支計画書を作成することができます。
(ビジネスモデルの整理に関しては、次々回のコラムで詳しく説明します)
2. 実行可能な収支計画にする
調査実施時点で客観的な根拠を基に計算したからといって、収支計画が必ずしも実行可能であるとは限りません。なぜなら、売上はもちろん、主要費用である人件費や現地拠点賃貸料をはじめ多くの費用は常に変動するからです。例えば、将来のインフレ率や現地雇用者の昇給率を加味して、積算しなければ実行可能な収支計画にはなりません。また、事業後に別の公的支援を受けることを想定していたとした場合、意中の公的支援に採択されない可能性もあります。さらに為替変動も大きな考慮事項になります。こうした企業がコントロールできない内外の変化に備えるため、収支計画を立てる段階で、複数パターンを事前にシミュレーションすると良いでしょう。期待値(ストレッチ目標)も込めて計画通りに進んだ「楽観パターン」と、特異な経済事象などが発生せず、通常の経済環境下でその達成が見込まれる「通常パターン」、事業が計画通りに進まず上手くいかなかった「悲観パターン」をシミュレーションするとビジネスの振れ幅を確認できます。また、各パターンの発生確率を予想し、それぞれのパターンに乗じることにより加重平均された収支計画が作成されることになります。さらに、途上国ビジネスでは、予期せぬ政治・経済事象が生じることがありますので、費用に予備費(コンティンジェンシー)を含めておくことも有用です。
3. 定期的に収支計画を見直す
最後に、収支計画を作って終わりにするのではなく、大きなビジネスモデルの変更があった際や外部環境、前提条件に大きな変化があった際等、定期的に収支計画は見直すことも重要です。収支計画は、収支計画書を作成することが目的になってしまうことがありますが、あくまでも持続可能なビジネスを実現するための手段です。また、一度作られると多方面から多くの関心が集まります。理想的な数字を並べて、見た目を取り繕うのではなく、定期的に起こり得るリスクや課題を見直しながら、実行可能な収支計画に適切に都度、更新していくと良いでしょう。
いかがでしたでしょうか?
今回のコラムでは、JICA事業における収支計画を策定することの重要性と、収支計画を策定する上での留意点を記載しました。ビジネスの立ち上げ段階においても収支計画を念頭に調査を行い、いくつかのパターンを作成のうえ、それらを柔軟に更新していくことが途上国ビジネスには重要であると言えます。
次回のテーマは、「JICA事業後を念頭においたアクションとは?」です!お楽しみに!
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