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<第十七回>途上国ビジネス成功のために特に重要なビジネスのポイントは何か

途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。第17回目から第18回目のコラムは、2回の連載記事になります。「途上国ビジネス成功のためのポイントの優先順位」をテーマに、第17回目のコラムでは、「途上国ビジネス成功のために特に重要なビジネスのポイントは何か」、第18回目のコラムでは、「どうすれば途上国ビジネスの成功確度を高められるか」について解説します。
第1回目から第16回目まで、ビジネスTipsとして留意すべき成功要因を論点ごとに詳細に解説してきました。これまでのコラムを通じて論点別の理解は深まっていると思います。その一方で、どの成功要因がより重要なのかと悩んでいる企業担当者は多いのではないでしょうか。第17回、第18回目のコラムでは、そうした読者に対して成功要因の優先順位を可視化し、どの成功要因に取り組むことがビジネスの成功の確度を高めることができるのかについてご紹介したいと思います。ぜひご覧ください!

1. ビジネスの成否に影響を及ぼす要因

JICA Bizの「成功」をJICAからの公的支援の終了後に売上を拡大できていること、または、利益を拡大できていることと定義する場合、次の表1の要因がビジネスの成否に影響を及ぼし得る要因と考えられます。これは、過年度にJICA Bizに参加した1,100件を超える企業に対してJICAが事後モニタリング調査を行った結果、成功案件に共通する要因を25個にまとめたものになります。この表では、成功要因を(1)外部経営環境、(2)製品・サービス、(3)組織体制、(4)事業計画に類型化しています。
なお、JICAでは「開発途上国でのビジネス化に向けた押さえるべき12のポイント」をまとめていますが、この12のポイントは25個の要因をさらに集約したものになります。

大項目 要因 後述の図中での表記
外部環境 法制度面の制約がなかった 法制度面の制約なし
経済的な要因が有利に働いた 経済的有利
社会的な要因が有利に働いた 社会的有利
技術的な要因が有利に働いた 技術的有利
製品・サービス 国内販売実績があった 国内販売実績
海外販売実績があった 海外販売実績
顧客からの(潜在的な)需要があった 顧客需要の存在
解決できる社会課題が存在していた 社会課題解決
独占・寡占状態ではなかった 独占状態でない
競合する製品が少なかった 競合製品が少ない
模範困難な提案製品・サービスであった 模倣困難
顧客の受容価格を把握できた 受容価格把握
価格の観点から、顧客の需要を喚起できた 価格面の需要喚起
仕様面、価格面から顧客ニーズに合致した ニーズに合致した製品の提供
組織体制 主体的に取り組んだ 主体的取り組み
意思決定者が関与した 意思決定者関与
社内に対象国に通じた人材がいた 対象国人材
社内に海外展開や新規事業に通じた人材がいた 海外ビジネス人材
現地の社外パートナーを確保できた 現地パートナー確保
必要な資金を確保できた 必要資金の確保
事業終了後の企業全体の財務状況は順調だった 健全な財務
流通網・サプライチェーンを構築できた 流通網の整備
効果的に販売促進ができた 効果的な販売促進
事業計画 実現可能性の高い収支計画を策定できた 実現可能性の高い収支計画
事業終了後のアクションプランが明確だった 明確なアクションプラン
(表1)JICA Bizにおける成功のための25個の要因

2. 途上国ビジネスの成功のために特に重要なビジネスのポイントは何か

25個の要因のうちどの要因がより重要で留意すべきか、2024年度の事後モニタリング調査のアンケート調査結果を用いて見ていきましょう。このヒートマップは、それぞれの成功要因がどの程度、売上の拡大、または、利益の拡大に影響を及ぼしているかを視覚的に示しています。濃い青色であるほどビジネスの成功への影響度合いが大きく、白に近いほどビジネスの成功に影響が小さいことを示しています。赤色は反対にビジネスの成功へマイナスの影響を与えていることを示しています。

(図1)「売上の拡大」に対する成功要因の影響に関するヒートマップ


(図2)「利益の拡大」に対する成功要因の影響に関するヒートマップ

ヒートマップによる分析から売上の拡大、利益の拡大それぞれの重要度を確認できます。売上、利益ともに成功要因の上位3つは同じであり、次の通りでした。

  • 想定顧客に効果的に販売促進ができた(効果的な販売促進)
  • 提案製品・サービスを届ける流通網・サプライチェーン等を構築できた(流通網の構築)
  • 価格の観点から、提案製品・サービスに対する顧客の需要を喚起できた(価格面の需要喚起)

また、大小の差はありますが、次の要因を除く全ての要因が、ビジネスの成功に正(プラス)の影響を与えていることが確認できました。つまりここで上げたほとんどのポイントがビジネスの成否に何らかの正の影響を及ぼしていることが分かります。

  • 社内にJICA事業対象国に通じた人材(同国出身者や居住歴のある人材等)がいた(対象国人材)
  • 提案製品・サービスには国内販売実績があった(国内販売実績)
  • 進出市場は既に特定企業や特定ブランドの影響力が弱かった(独占・寡占状態ではなかった)

3. 売上の拡大と利益の拡大では留意すべき要因は異なるか?

冒頭、ビジネスの「成功」を売上の拡大と利益の拡大と定義したと書きました。それでは、JICA Bizにおいて、売上の拡大と利益の拡大の違いによって、留意すべき要因は異なるのでしょうか。これを明らかにするため、縦軸に売上の拡大に対する効果、横軸に利益の拡大に対する効果とした散布図を作成しました。この散布図の右上にある成功要因は利益、売上の拡大へ効果が大きく、0に近づくほど利益、売上の拡大への効果が小さいことを示しています。
同図より、売上の拡大に対する効果と利益の拡大に対する効果には相関関係があるように見えます。つまり、自社のビジネス活動が、売上を上げる前の活動であっても、売上を上げた後の黒字化に向けた活動であっても、JICA Bizにおいては留意すべき要因は概ね類似しているということが分かります。
一方で、「価格面の需要喚起(価格の観点から、顧客の需要を喚起できた)」は売上の拡大にとってより重要な要因であり、「流通網の構築(流通網・サプライチェーンを構築できた)」は利益の拡大にとってより重要な要因であるという違いも見られました。また、左下から0を通り、右上にかけて対角線を描いていますが、多くの成功要因はこの対角線の上部(左側)に位置しています。これは各要因が、利益の拡大よりも、売上の拡大に相対的に強い影響を与えていることを示唆します。

(図3)売上・利益拡大に対するビジネスの成功要因の散布図

いかがでしたでしょうか?今回のコラムでは、途上国ビジネス成功のための25個の要因を俯瞰したうえで、要因別のビジネスに対する効果を分析しました。

次回は、「どうすれば途上国ビジネスの成功確度を高められるか」について解説します。お楽しみに!