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<第十九回>海外進出時に検討すべき知的財産の対策とは?

途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。第19回目となる本コラムでは、「海外進出時に検討すべき知的財産の対策とは?」について解説します。
製品・技術の知的財産戦略は、ビジネス推進上の重要な要素となっており、一般的な知的財産への対策については、特許庁やジェトロ、または特許事務所などから有用な情報が発信されています。日本国内での知的財産権取得の経験が豊富な企業も多いのではないでしょうか。しかし、途上国ビジネスでは、一般的な対策や日本国内での経験が必ずしも適用できるとは限らないケースが考えられます。本コラムでは、海外進出時の知的財産保護対策において、留意すべきポイントをいくつかご紹介します。ぜひご覧ください!

途上国ビジネスにおける模倣品被害を減少させるために、日本を含め様々な国が、途上国への知的財産制度の整備・強化を支援してきました。その結果、多くの途上国で知的財産制度が整備されるようになりました。しかし、国によっては知的財産権に基づいて権利侵害を主張することが難しかったり、権利侵害の主張を行っても、模倣が続いたりするようなケースもあります。
過去にJICA Bizを活用して売上・利益を実現したある企業では、これまでの海外展開の経験から、特許権の取得は海外事業展開において最低限の必須アクションであると考えており、提案製品の特許権を、日本および進出が想定されている国で取得していました。一方で、進出国で特許制度が存在していても管理が十分でなく、特許を取得していても模倣される場合もあるため、製品に模倣しづらい工夫を施すなど、特許権の取得以外にも必要な対策を講じることで、模倣への対策を立てていました。
上記のようなJICA Bizにおける企業事例を踏まえて、(1)国・分野による違いと(2)知的財産権取得以外の対策について解説していきます。

1. 国・分野による違い

知的財産保護に関わる状況は、国によって様々です。また、同じ国でも分野によって状況が異なる場合もあります。加えて、特許権、著作権、商標権、意匠権といった知的財産権の種類によって対策が異なってきますので、進出国でどの権利をどのように保護するかについては検討が必要です。具体的には、進出国では知的財産制度が整備されているのか、その効力はあるのか、提案製品の分野の動向はどうなっているのか、同じ国で既に活動している日本企業はどのように対応しているのかを確認しましょう。また、進出国における模倣品の流出動向、模倣品に対する消費者の考えについても、情報を収集できると良いでしょう。

情報収集には、例えば公的機関の現地事務所や商工会議所、または当該国の知的財産事情に詳しい特許事務所から最新の動向をヒアリングする方法が考えられます。ジェトロでは、いくつかの国について、国別模倣対策マニュアル・報告書がまとめられています。また、INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)の新興国等知財情報データバンクでは国別・地域別情報を検索することができ、INPITの海外展開知財支援窓口に個別相談をすることも可能です。

2. 知的財産権取得以外の対策

知的財産権侵害の主張が難しく、模倣品の流出を止めることが難しい事態が発生する可能性があるため、知的財産権を取得することだけが対策の全てではありません。その他の対策例を紹介します。

  • 市場モニタリング体制の構築
  • 模倣されにくい、真贋鑑定がしやすいような製品上の工夫
  • 顧客への模倣品への注意喚起


また、知的財産戦略は、権利侵害から身を守る側面だけではなく、知的財産権を備えることによって、企業価値や製品価値が向上し、潜在顧客、カウンターパート機関、パートナー候補企業などから関心を集めることに繋がるケースもあります。パートナー企業との共創を検討する場合には、知的財産に関する規約や秘密保持契約を事前に締結した上で、戦略的に知的財産をオープンにすることで、共創活動、新規事業の創出に繋がることも考えられます。価値向上のために知的財産を活用する戦略も検討してみましょう。


いかがでしたでしょうか?知的財産保護のための適切な対策は、進出国や分野によって異なります。公的機関の公開資料を参考にしたり、現地事務所へ直接ヒアリングしたりするなど、現地の最新状況を理解した上で、対策を検討するようにしましょう。また、知的財産権取得以外にも、検討すべき対策がないどうかも考えてみましょう。

次回のテーマは、「進出国でのバリューチェーンを検討する際のポイントとは?」です!お楽しみに!