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- 進出国でのバリューチェーンを検討する際のポイントとは?
ビジネスを展開する際において、どのようにバリューチェーンを構築して自社製品・サービスを生産・販売していこうかと色々考えられていると思います。バリューチェーン分析という言葉は耳にするが実態がよくわからない。「何を、どうやって作ればいいのか」、「作って何をすればいいのか」といった疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。そこで今回のコラムでは、バリューチェーンの分析を3つのステップに分け、バリューチェーンを検討する意義、バリューチェーン図の作り方、作ったバリューチェーン図を基にどのようにして分析を行い、実際の行動に繋げていけば良いか解説します。さらに、海外のステークホルダーを自社のバリューチェーンに取り入れる際の留意点についてもご説明していきたいと思います。
こちらが、今回のコラムの全体像となります。
Step1 バリューチェーンを検討するということはどういうことなのか?
・目的
・検討の際のポイント
Ⅰ バリューチェーンの目的とビジョンの明確化
Ⅱ バリューチェーンの現状分析
Ⅲ コスト最適化(単なる削減に留めない)
Ⅳ 継続的改善(PDCAサイクル)
Ⅴ 顧客体験の向上
Step2 バリューチェーン図を作ってみよう
・バリューチェーンの作り方
Ⅰ バリューチェーンの主要な段階を洗い出す
Ⅱ バリューチェーンに関与する人や組織を特定する
Ⅲ 図をフロー形式で整理する
Step3 バリューチェーンを分析してみよう
・分析の仕方
Ⅰ データを収集する
Ⅱ 現状の課題を特定する
Ⅲ 改善策を検討する
ステップ1:バリューチェーンを検討するということはどういうことなのか?
先ずは基本を押さえるという意味で、バリューチェーンの意味から考えていきましょう。画一的な定義はありませんが、一般的にバリューチェーンとはマイケル・ポーターによって提唱された概念で、企業が製品やサービスを提供する過程での活動を価値の創造に焦点を当てて分析するフレームワークです。この概念は、バリューチェーンは、企業がどのようにして付加価値を生み出し、競争優位を獲得するかを理解するのに役立ちます。
すなわち、製品やサービスが顧客に届けられるまでの一連のプロセスや流れを指します。このプロセスには、製品やサービスの企画、原材料の調達、製造、流通、販売、顧客への提供までの全てのステージが含まれます。簡単に言えば、「モノが生産されてから消費者の手に届くまでの道筋」のことを指します。バリューチェーンは個々の企業の活動以上に、複数の組織や関係者が協力して成り立つものです。
バリューチェーンを検討する究極的な目的は以下の2つです。
1.顧客のニーズを満たす
・必要なものを必要な時に最適な形で提供する。
・顧客満足度を高める。
2.企業の競争力向上
・コスト効率を上げ、収益性を高める。
・他社との差別化を図るために品質と納期を改善する。
バリューチェーンは企業競争力の源であり、様々なステークホルダー、多様な要素が複雑に絡み合っています。ましてや海外事業展開となると、ステークホルダーが進出先国の企業の場合があるため、更に要素が複雑になってきます。バリューチェーンを図(バリューチェーン図)に落とし込み、可視化することにより全体を俯瞰しつつも、具体的な課題に深く掘り下げる姿勢が必要です。このアプローチを基にした具体的なアクションプランの策定が成功につながります。
では、具体的にどのような点を検討すればよいのでしょうか。皆さんが検討する際のポイントを例示しますので、検討の際のヒントになればと思います。
Ⅰ. バリューチェーンの目的とビジョンの明確化
まず、バリューチェーン全体の目的とビジョンを定義します。例えば、「顧客満足度向上」と「コスト削減」を同時に目指すのか、「新市場への迅速な展開」を狙うのか、優先順位を明確にする必要があります。この方向性が曖昧だと、バリューチェーンの設計が不連続になりがちです。
Ⅱ. バリューチェーンの現状分析
バリューチェーンを構成するステークホルダーを洗い出し、認識された各ステークホルダーが有している機能を分析し、彼らの価値の根源を分析・理解します。すなわち、現在のバリューチェーンのパフォーマンスを徹底的に分析することを意味しています。現状分析で浮き彫りになる課題を基に優先度を決定し、改善計画を立てることがバリューチェーン分析のAからZとなります。
Ⅲ. コスト最適化(単なる削減に留めない)
ビジネスモデルを検討する際、バリューチェーンを念頭に置かないで検討してしまうと、バリューチェーンに参加するステークホルダーとの取引について「最安値」の選択だけに拘って部分最適な意思決定に陥りがちです。しかし、バリューチェーン全体の「総コストの最適化」を図る視点が重要です。具体的には、例えば以下のような点を検討・評価します。
・ ロジスティクスコスト(輸送費、保管費など)
・ バリューチェーン・サプライヤーの品質の影響
・ コスト削減の結果、顧客満足に悪影響を与えないかの検討
・ 製品が顧客価値を持続的に提供できるかどうかの検討
Ⅳ. 継続的改善(PDCAサイクル)
バリューチェーンは固定されたものではなく、常に改良の余地があります。PDCA(計画→実行→評価→改善)を徹底し、定期的に見直しを行うことで、競争の激しい経済環境の中でのビジネスの持続可能性が高まります。
Ⅴ. 顧客体験の向上
バリューチェーン(分析)の最終的な目的は、顧客満足度を高めることですので、以下のような価値(バリュー)を重視すると良いでしょう。
・ 配送のスピードと正確性
・ 製品の欠品を防ぐ効率的な在庫管理
・ トラブル時の顧客対応力(クレーム処理含む)
・ 顧客の潜在的なニーズも予測した戦略設計
ステップ2:バリューチェーン図を作ってみよう
ここまでは、バリューチェーンについての全体像を説明してきました。では、これを踏まえ実際にどのようにバリューチェーン図を作ればよいのかご説明します。
Ⅰ. バリューチェーンの主要な段階を洗い出す
バリューチェーンは、以下に掲げる5つの基本段階に分けられます。
1)調達(原材料の仕入)
何をどこから調達するか、どのサプライヤーから購入しているかを決める。
2)製造・加工
製造業務をどこで行うのか(自社工場とするのか外部委託とするのか)決める。
3)倉庫管理・保管
製品をどこに保管するのか(物流センターとするのか、自社倉庫とするか、他社倉庫とするのかなど)決める。
4)輸送・流通
製品がどう顧客や販売店舗に届けられるのか(配送業者を誰とするのか、輸送手段をどうするのか)。
5)販売・顧客に提供
完成品がどのように顧客に届くか(店舗販売とするのか、オンライン販売とするのかなど)。
Ⅱ. バリューチェーンに関与する人や組織を特定する
各段階に関係するステークホルダーとして「誰」がいるかを特定します。これにより、より具体的な図になります。どこのフェイズを海外に求めるのか検討が必要です。主要なステークホルダーを挙げると以下となります。
・調達:サプライヤー(例:材料を提供する会社)
・製造:生産ライン現場、外部委託先
・流通:倉庫管理スタッフ、物流業者
・販売:販売担当者、小売店舗、ECサイトなど
Ⅲ. 図をフロー形式で整理する
これは、アイディアを視覚化する作業です。以下の手順で図を組み立てます。
(1)基本的な流れの枠をつくる
例えば、以下の順で並べます:
1. 原材料・仕入れ → 2. 製造 → 3. 保管 → 4. 流通 → 5. 販売(顧客)
これを左から右に線でつなぐようにするとわかりやすいです。
(2)完成した図をレビューする
完成したバリューチェーン図について、フローが抜け漏れなく整理されているか否か、関連する情報(コスト、時間、担当者)が明確かどうか、誰に説明しても分かりやすい内容になっているか否か等確認し、必要に応じて修正や追加を行いましょう。
実際にJICA Bizにおいて作成したバリューチェーン図をご紹介します。このバリューチェーン図を用いて、各ステークホルダーを洗い出すと共に、その役割を定義し、強み・弱みを分析することで対処策を練り、バリューチェーンの最大化の戦略を練りました。
出所:赤平オーキッド株式会社 ニーズ確認調査
ステップ3:バリューチェーンを分析してみよう
Ⅰ. データを収集する
バリューチェーン分析では「データ」が重要な役割を果たします。
各ステージについて例えば以下のような情報を集めます:
・ コスト情報(原材料費、製造費、輸送費、保管費など)。
・ リードタイム(各工程にかかる時間(例: 原材料調達に3日、製品製造に5日、製品輸送に2日など)。
・ 品質関連データ(不良品率、返品数など)。
・ 効率性(在庫回転率や配送の精度など)。
データは社内から得られるものだけでなく、外部(サプライヤーや物流業者)とのやり取りからも収集することが必要です。
Ⅱ. 現状の課題を特定する
収集したデータについてコスト分析や効率性分析を行い、輸送費など無駄に高い部分はないか、サプライヤーの選択が適切か、輸送や流通の遅れや非効率な工程(リードタイムが長い箇所)はないか、在庫管理が過剰または不足していないかなど、バリューチェーンの中での価値の創造が上手くいっていない箇所を特定します。
Ⅲ. 改善策を検討する
課題が見つかったら、その原因を深掘りし例えば以下のような改善策を検討します。
◆コスト削減
・物流ルートを最適化する(輸送方法を変更したり、複数配送業者を比較したりする)。
・複数のサプライヤーを使い、価格を競争させる。
◆効率化
・デジタル化、可視化する(在庫管理システムやAIを導入して予測精度を上げる)。
・ボトルネックを解消するための工程を改善させる(例: 一部製造工程の自動化)。
◆品質向上
・サプライヤーや製造段階での品質監査を強化する。
・定期的なフィードバックをサプライヤーに提供する。
いかがでしたしょうか?進出先国でバリューチェーンを構築することはステークホルダー探しに時間がかかったり、探し出しても彼らのバリューを測定することに情報やアクセスが限られていたりして困難を伴います。しかし、ビジネスを俯瞰的に眺め実際に手を動かしながらバリューチェーンを可視化させることで自社の強みや弱みに気づくことができます。皆さんもバリューチェーン図を描いてみてビジネスを俯瞰してみてはいかがでしょうか。
次回のコラムは「海外進出時に活用できる資金調達方法とは?」についてご紹介します。お楽しみに!
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