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エクアドル ― 注目分野(カカオ産業振興分野)

2023年のアフリカ産カカオの生産量の激減で、エクアドル産カカオは世界市場から大きな注目を浴びることとなりました。エクアドル産カカオの3分の1は、ハイエンド(またはニッチ)市場に独自に供給されるいわゆる「プレミアムカカオ」であり、残りは「ジェネラルカカオ」(いわゆる「CCN51」品種)で、世界中のボリュームゾーン市場に供給されています。世界におけるプレミアムカカオの需要の高まりは、エクアドルに新たな機会をもたらし、チョコレートの品質を差別化する高価値市場へのカカオ輸出を増やし、多様化することを可能にしました。他方、サプライチェーンにおける品質・コスト・配送(QCD)管理の欠如により、エクアドル産カカオは世界市場において十分にその価値を認識されていません。「プレミアムカカオ」と「ジェネラルカカオ」の2つの異なる品種があるにもかかわらず、どちらも同価格で取引されており、ときにその取引額はガーナ産のジェネラルカカオよりも低く設定されることもあります。その結果、90%以上が小規模家族経営であるエクアドルの生産者は、カカオ栽培の恩恵を十分に受けられていません。
 

カカオの持続可能性確保と高付加価値化

エクアドルカカオにとっての最も重要な市場の一つである欧米では、農業の持続性確保や森林保全の観点から、カカオ農家の労働環境やサプライチェーンの透明性に対する消費者の関心が高まっています。EUは2021年11月、商品作物用農地の拡大に伴う森林破壊を防止することを目的としたデューディリジェンス義務化規則案を発表しました。カカオなどの特定対象産品をEU市場に供給する業者には、輸出品が森林破壊によって開発された農地で生産されていないことや児童労働に拠るものではないことを証明する義務が課されることになりました。これにより、多くのドナーや国際機関が、アマゾン地域を中心に、少数民族による伝統的な農法の維持・持続化や、森林破壊を伴わない農法を付加価値とする認証プログラムの形成、また、カカオ樹木のマッピングを含めたシステムのパイロットプロジェクトなどへの支援を急速に展開しています。また、西アフリカ諸国の大量生産国との競争において、エクアドル政府は、エクアドルのカカオが「児童労働ゼロ」で生産されていることを国際競争力の要素の一つとして位置付けています。

カカオの品質の安定化・保証

エクアドルカカオの国際取引市場での信頼を獲得し、その地位を向上させるとともに、消費者に対し品質を保証することが従来以上に求められるようになっています。そのため、輸出するカカオの出所と品種を明らかにすることに加え、サプライチェーン上での管理を改善し不良製品の発生やリスクを輸出先の国に円滑に通知することが必要とされています。しかし、生産者組合や輸出業者は、輸入者の需要量に応えるために複数の農家からカカオを調達する必要があり、流通や加工の過程で、異なる生産者や供給元のカカオが混成する形で販売ロットが形成されてしまっているのが現状です。カカオ豆収穫後の適切な処理・管理や、風味や香りの特徴が異なる品種の混成を防ぐことにより、品質を安定させることが大きな課題となっています。輸出企業のなかには、販売先(輸出先)が要求する基準に沿うため独自のシステムによりカカオ豆の流通経路を管理・把握しているところもありますが、これら流通経路が明確になっているカカオ豆は国内生産の約10%に過ぎず、エクアドル産カカオの多くは、国際市場におけるプレミアム価格での取引機会を逸失していると言われています。

エクアドルにおけるカカオ産業へのJICA取り組み

国別開発協力方針に掲げられた「産業開発・競争力強化プログラム」を推進すべく、JICAは2020年2月~2022年9月に「貿易促進アドバイザー(専門家)」を生産・貿易・投資・漁業省に派遣し、市場情報の収集・分析能力・発信能力の強化及び輸出振興・企業支援サービスの改善を支援しました。同専門家の活動成果も踏まえ、「カカオ産業・輸出政策アドバイサー(専門家)」が2026年1月までの予定で、生産・貿易・投資・漁業省アグロインダストリー局において、カカオ産業・輸出政策の立案に向けた活動を展開しています。また、普及・実証・ビジネス化事業として2021年4月~2022年12月まで「エクアドル国トレーサビリティプリンティングシステムによるカカオの高付加価値化の案件化調査」を実施し、同調査内容を発展させる形で、2024年度内には、「エクアドル国カカオ高付加価値化のためのトレーサビリティプリンティングシステム普及・実証・ビジネス化事業」が開始される予定です。さらに、JICAが2020年1月に設立した「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を通じて、これまで西アフリカや東南アジアを中心に行ってきた活動を、エクアドルや近隣の中南米諸国にも広げることで、よりグローバルな視点でのサステイナブル・カカオの実現に向けた取組みを推進しています。

エクアドルにおけるカカオ生産の現状

エクアドルはコートジボワール、ガーナに次ぐ、世界3位のカカオ生産国、世界4位のカカオ輸出国です。カカオは、エクアドルではバナナに次ぐ輸出農産物であり、2023年度には、合計362,494トン、金額にして1,320百万米ドル(前年比132%)の輸出を記録しました。 2024年の上半期には、カカオ豆の輸出額は1,157百万米ドルを記録し、2023年同期比で211%増加するなど、好調が続いています。主要輸出先はEUが31%を占め、次いでインドネシア、マレーシア、米国、メキシコの順となっており、これら上位5地域で、輸出量の92%を占めています。日本には2023年にカカオ豆で4,702トン、カカオペースト1,761トン、チョコレート製品64トンが輸出されています。
エクアドルカカオの品種はナショナル種(アリバ種)とCCN51種の2種に大きく分けられます。ナショナル種はエクアドルでのみ栽培されているカカオの原生種に近い希少品種であり、世界生産量の僅か2%ほどと言われています。伝統的な農法によって栽培される最高級品で、その芳醇なフルーツとフローラルのアロマは世界的に有名であり、世界に出回るファインアロマ豆の60%を占めています。CCN51種はエクアドルで最も一般的に栽培され、品種交配によって、耐病性に優れ収量が多い品種です。かつては、味や香りはナショナル種に劣るとされていましたが、近年は栽培・加工方法の進化により、国際的なカカオ品評会で金賞を受賞するなど、品質レベルは向上しています。

プレミアムカカオ(ナショナル種)

ジェネラルカカオ(CCN51種)

カカオから生まれる廃棄物利用の可能性

チョコレートの原料であるカカオは、これまではカカオポッドの約3割に匹敵するカカオ豆しか活用されておらず、残りの約7割は使用されていませんでした。このカカオの実の未活用部位を利用した新素材「カカオセラミド」は新たな食品や化粧品への素材として活用できる見込みが出てきました。また、カカオ豆の種皮である「カカオハスク」をアップサイクルして、小物や家具、建材として利用すべく研究が進んでおり、カカオ樹脂プラスティックへ加工する技術が確立されつつあります。このバイオプラスチックは、石油由来のプラスティックと比較してCO2排出量を約60%削減でき、さらに海中でも約30日間で90%以上が分解されるとされており、海洋プラスティックの課題解決にもつながる素材として期待されています。これまで廃棄されてきたカカオの部位が新たな素材・資源として活用されることで、廃棄物処理の問題解決に寄与すると同時に、現地生産者の新たな収入源にもなり得ると考えられています。

事務所から一言

JICAエクアドル事務所は、(1)経済基盤整備、(2)格差是正・包摂的な社会の実現、(3)環境保全・防災を重点分野として支援しています。この経済基盤整備の中で、カカオ産業振興に関して、以下の3つのプロジェクトが進行中です。
(1) カカオ産業・輸出政策アドバイザー派遣(2024年1月~2026年1月)
(2) カカオ高付加価値化のためのトレーサビリティプリンティングシステム普及・実証・ビジネス化事業(2025年2月~2027年3月・予定)
(3) 中小企業における品質第一経営の強化アドバイザー派遣(2025年4月~2027年3月・予定)
これら政策支援、テクノロジー支援、品質管理支援での事業展開によって、エクアドル国のカカオ産業の振興、ひいてはカカオ農業に従事する中小規模の労働者の生活向上に資することを上位目標に定めています。上記の支援に加え、日本の産業界から双方の利益に結び付くような協力事業への参加をお待ちしています。

求められる技術や支援の一例

【カカオ栽培分野】
・バイオテクノロジーによる種子の開発技術
・土壌改良剤によるカドミウム吸収・除去技術
・GISを活用した栽培計画管理システム技術

【カカオのサプライチェーン】
・カカオ豆のオートマティック発酵・乾燥技術
・DXを活用したトレーサビリティーシステム技術
・カカオ豆の簡易型残留農薬検査技術

【カカオ栽培農家への社会支援】
・体験型カカオパーク
・カカオ・クラウドファンディング
・カカオ農家・研究者育成奨学金