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カンボジア ― 注目分野(教育・職業訓練分野)

カンボジアでは、基礎教育における量・質の不足、それに伴う質の高い産業人材の不足が深刻な課題となっています。JICAは、基礎教育、高等教育、職業訓練など、幅広くカンボジアの人材育成に協力しています。

教育・職業訓練分野における上位計画

カンボジア政府は、2023年8月策定の第一次五角形戦略において、人的資本開発を重点分野に位置づけています。

教育・青少年・スポーツ省は、これを具現化するため、教育戦略計画(Education Strategic Plan)2024-2028を策定し、2024年6月に承認しました。同計画では、政策優先事項として、すべてのカンボジア人が、知識、スキル、規律、倫理、善行、健康、体力、生涯学習に富んだ質の高い、公平でインクルーシブな教育にアクセスできるようにすることを掲げています。また、2028年までに実現を目指す8つの優先事項と5つの優先プログラムを定めています。

この中において、JICAが重点的に協力を行っている基礎教育(教員養成)は優先プログラム 5「成果に基づく管理の促進 (政策と計画、財務資源管理、人材管理/教師教育、成果に基づく評価)」、高等教育(工学教育)は優先プログラム2「高等教育と研究およびイノベーションへのアクセス、質、関連性を向上させる (高等教育、研究およびイノベーション)」に位置づけられています。

また、労働職業訓練省は、カンボジア能力開発ロードマップ(Cambodia Skills Development Roadmap)2023-2035を策定し、2023年3月に承認しました。同ロードマップでは、現在及び将来の労働市場のニーズに対応した高い能力と生産性を備えた人材の育成を掲げ、5つの戦略を定めています。

この中において、JICAが重点的に協力を行っている職業訓練(TVET)の質向上及び産学連携の強化は、戦略1「TVETの質強化」「産業関連のTVET」に位置づけられています。

関連するJICAの取組み(基礎教育、高等教育、職業訓練)

JICAは、基礎教育分野において、教員養成の強化に重点を置いて協力を行っています。カンボジアでは、正規の教員養成機関として「12+2年制」(高等学校卒業後に2年間の教員養成課程受講)の小・中学校教員養成校が設置され、基礎教育の普及に貢献してきました。他方、教員の知識・授業実践力不足に起因する基礎教育の質の低さが問題となっていたことを踏まえ、JICAは、教員養成課程・教員資格の学士化(「12+4年制」)を実現するため、無償資金協力及び技術協力により、プノンペン都及びバッタンバン州において、同国初の4年制教員養成大学(Phnom Penh Teacher Education College (PTEC), Battambang Teacher Education College (BTEC))の設立を支援しました。同大学からは、2022年に初めて卒業生(小中学校の新教員)が輩出され、全国の小中学校で教鞭を執っています。教育・青少年・スポーツ省は、これまでの教員養成大学の成果を踏まえ、全国における教員資格の学士化を加速させています。JICAは、技術協力「教育政策アドバイザー」(2023-2027)により、教師改革を政策面から後押しするとともに、技術協力「教員養成大学強化を通じた基礎教育の質改善プロジェクト」(2024-2027)を通じて、教員養成大学教官の指導実践能力強化を目的とし、附属校と連携した授業研究活動等を支援しており、教員養成大学の更なる質強化を図っています。今後は、教員養成大学のデジタル化を通じて、教員養成大学の全国展開の実現も後押ししていく予定です。

JICAは、高等教育分野において、カンボジア工科大学(Institute of Technology of Cambodia)を中心として、工学系人材の育成を支援してきました。カンボジア政府が目標として掲げる2030年までの高中所得国入りには、労働集約型からスキル基盤型への産業構造の転換を図り、高付加価値産業を創出していくことが不可欠です。そのためには、それを支える工学系高度人材が求められます。JICAはこれまで、AUN-SEED-Netを通じた本邦およびASEAN域内での学位取得による工学系高度人材の育成、カンボジア工科大学におけるシラバス・実験指導書の改訂や、教授法の改善指導などにより、実験・実習に重点をおいた学部教育の改善を支援しました。また、競争的研究資金を提供しつつ、日本式の研究室中心教育を導入し、工学系の教育・研究能力強化を図りました。現在は、技術協力「工学教育研究能力強化のための産学地ネットワーク強化プロジェクト」(2024-2029)を通じて、これまで本邦大学及びASEAN各国の大学とネットワークを形成しているカンボジア工科大学を拠点に、産学地連携ネットワークを形成し、国内工学系大学の教育研究能力強化及びカンボジア国内大学の学術ネットワーク形成を行うことにより、カンボジア国内大学の工学系教育研究能力強化を図っています。

JICAは、職業訓練分野においては、労働職業訓練省傘下の職業訓練校3校(カンボジア国立ポリテク大学(National Polytechnic Institute of Cambodia: NPIC)、プレ・コソマック・ポリテク大学(Preah Kossomak Polytechnic Institute: PPI)、国立技術訓練大学(National Technical Training Institute: NTTI))を対象に、電気分野の職業訓練の質向上を支援してきました。労働集約型からスキル基盤型への産業構造の転換を図り、高付加価値産業を創出していくには、先述の工学系高度人材のみならず、製造業を支える技能工も不可欠です。特に、製造ラインの管理や機械のセットアップ・メンテナンスを行うラインマネージャーレベル(テクニシャン)の人材が慢性的に不足しており、電気技術や機械技術を持つ国内人材の不足も課題となっています。JICAはこれまで、電気分野のディプロマ・コース及び学士コースのカリキュラム改善や指導員の技能向上を行ってきました。現在は、技術協力「産業人材政策アドバイザー」(2025-2027)により、職業訓練校と産業界の連携強化や、技能評価システムの構築に係る支援を行っています。

カンボジアの課題と特に期待する提案

基礎教育分野においては、JICAは教員養成の強化に重点を置いて協力を行っていることから、特に、Blended Learning(遠距離授業やデジタルコンテンツの導入を想定)の導入を推進し、限られた教官数でも効率的に教員養成大学で質の高い教育の提供を図る提案を期待する。また、初等・中等教育においては、オンライン学習コンテンツの拡充・コンテンツへのアクセス環境、教育ツールやデータプラットフォーム等の整備により教育の質の地方格差の減少を図ることや、AI等最新技術活用による、生徒の学習状況のモニタリングや個別最適化された教育の提供により、学習達成度の改善も期待する。さらに、後期中等教育においては、教育・青少年・スポーツ省及び郵便電気通信省がコミュニティテックセンターの設立を進めており、これらと連携した提案も期待する。

高等教育分野及び職業訓練分野においては、産業界のニーズに合致した人材の育成を目指している。日本企業の技術を活かした工学系人材や技術者の育成等にかかる提案を期待する。また、カンボジア工科大学では一定程度の工学人材が育成されており、将来的には企業のR&Dを担うことを期待される。また、本邦大学との連携やネットワークが強く、充実した施設機材を有することから、カンボジアの高等教育及び職業訓練機関と、日系教育機関や産業界とが連携した人材育成、共同研究や共同プロジェクトの実施等も期待される。

参考リンク

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