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JICA経済開発部 国・地域に合ったフードバリューチェーン開発を考える-大学の講義や課題別研修で活用-

生計・所得の向上のための農業開発へ

過去数十年にわたる各国の努力の末、農業・食料生産の主目的が飢餓からの解放であった状況から、多くの国が脱してきました。その結果、現在では生計・所得の向上に焦点を当てた農業開発に高い関心が寄せられています。
毎年JICA-VAN(注)などの取り組みを通じ、国内外の複数の大学で講義を実施していますが、ほとんどの講義に農業バリューチェーンの開発というテーマを加えており、その際にJICA-Netマルチメディア教材「バリューチェーンの変化に対応した農業支援のあり方」を活用しています。

(注)JICA-VAN(JICA Virtual Academy & Network)とは、​​すべてのJICA事業の関係者や受益者が継続的な相互学習・ナレッジ共有を行うプラットフォームのことで、LMS(学習管理システム)とSNSにより、国際協力に関係する人材の学習とネットワーク化を目指すものです。

フードバリューチェーンの課題と対応策を解説

JICAのプロジェクトでの農作業の様子。

教材では、JICAの技術協力の実例をあげて解説しています。

開発途上国の生産者の多くは、農産物を一生懸命作っても高く買い取ってもらうことができずに、なかなか貧困から抜け出せないという問題を抱えています。その解決策の一つがフードバリューチェーンの開発です。
フードバリューチェーンとは、農産物が生産者から消費者に届くまでに関わるさまざまな業種が連携し、生産活動の効率を高めながら商品に付加価値をつけていくシステムです。
教材の前半では「フードバリューチェーンの特徴と4つの課題」を、後半では「主要4課題(情報、技術、インフラ、制度)への対応事例」を、JICAの技術協力の実例や日本の過去の経験を例に挙げ、豊富な図や写真を用いて視覚的にわかりやすく解説しています。

大学での講義や課題別研修に活用

昨年は、4月28日にカンボジアの王立プノンペン大学(RUPP)にて実施した対面講義「日本農業の近代化プロセス:その歴史から学ぶ」(RUPP開発学部学生をはじめ、農業セクターのJICA帰国研修員やJICA専門家など計70名程が参加)、8月30日にルワンダの国立ルワンダ大学農学部1にて実施した「農業による食糧安全保障と農村開発への貢献」「農業系バリューチェーン」をテーマとした対面講義(ルワンダ大学学生(学士、修士、博士課程)、教官、JICA 専門家等約130 名が参加)で教材を上映しました。

質疑に応じる仲田専門員(カンボジア 王立プノンペン大学)

質疑に応じる仲田専門員(カンボジア 王立プノンペン大学)

教室で熱心に講義を聞く参加者(ルワンダ 国立ルワンダ大学)

熱心に講義を聞く参加者(ルワンダ 国立ルワンダ大学)

講義では、まず90分の講義の冒頭で、30分のビデオ教材を通じてバリューチェーン開発の全体像と日本の経験を理解してもらった上で、グループワークを通じて各国の状況比較・分析を行ったり、将来の開発の方向性について議論したりといった形で活用しました。また、大学の講義だけでなくバリューチェーン関連の複数の課題別研修の中でも、同様の形で動画教材を活用しました。

知識や経験の共有を効率的に行える教材

動画教材の有効な点は、基本的な知識や経験共有を動画で行うことで、講義では具体的な議論やグループワークに集中できるという点です。受講者に時間的な余裕があれば動画を事前に視聴してもらったうえで、講義を開始することも可能です。
また、Webサイトで動画の視聴と簡単な確認テストが行えるようなツールを使用し、オンライン授業で活用する取り組みも昨年実施しました。こうしたツールを活用しつつ、今年度は課題別研修において訪日前の事前講習という形で履修してもらい、基本的な認識を揃えたうえで到着後のスムーズな学習や議論につなげるように活用したいと考えています。
本教材を通してJICAの支援の例や日本の経験を知ることで、自国の状況に応じたバリューチェーン開発を考える手助けになれば幸いです。

バリューチェーンの4つの課題を説明する図

基本的な知識や経験共有は動画で。

仲田 俊一
JICA 経済開発部 国際協力専門員

このページで紹介している教材

バリューチェーンの変化に対応した農業支援のあり方

農業や食品産業の技術発展や消費者嗜好の変化に伴い変化するバリューチェーン構造と、これを踏まえた政策支援のあり方について示します。

1.バリューチェーンの概念に関する定義
 フードバリューチェーン開発とは
2.供給サイドに影響する主要な要因
3.需要サイドに影響する主要な要因
4.バリューチェーン開発における4つの主要なギャップ
(情報、技術、インフラ、制度)

JICAは、日本の経験を活かしながら、途上国でのフードバリューチェーン開発の支援をしてきました。なかには、短期間で所得を倍増させた生産者の例もあります。

技術の発展や消費者の嗜好の変化などにともなって、フードバリューチェーンも変化します。この映像教材では、そうした変化に対応する農業支援のあり方を見ていきます。