JICA社会基盤部 「国鉄民営化」の経験を共有-より良い都市鉄道の運営を考える-

2022年1月11日

日本の特殊な鉄道事業運営の歴史

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1872年、新橋と横浜を結んだ29キロメートルの間に日本で初めての鉄道が開通しました。

JICAでは、途上国を対象に課題別研修「都市鉄道の運営」を実施しています。この研修は10年以上続いていますが、中でも「国鉄民営化」に関する講義は、研修員より多くの反響があり高い評判を得ています。
都市鉄道の建設から運営までを民間資本により担ってきた実績を持つ日本の鉄道事業運営の歴史は、世界から見ると特殊であり、途上国の鉄道整備・運営においても莫大な資金が必要となる中で都市鉄道運営手法を学ぶためには、このような日本の稀有な経験を共有することはとても大切です。
今回、日本の都市鉄道に関する豊富な経験、事例を学び、途上国のカウンターパートや研修員に都市鉄道運営の改善に関する具体的な計画を提案するヒントを得てもらえるよう、JICA-Netマルチメディア教材「国鉄民営化とそのインパクト」(総論編)および(各論編)を作成しました。

(注)各論編はJICA事業関係者に視聴を限定しています。詳しくはJICA-Netライブラリデスクまでお問い合わせください。
メール:eitpl-jicanet@jica.go.jp

国鉄民営化の成果と課題を伝える

本教材は「総論編」と「各論編」の2編に分けて制作しました。
国鉄は1949年に発足して以来、戦後の日本における基幹的な輸送機関として、大きな役割を果たしてきました。「総論編」では、その国鉄が経営上の危機に陥った背景、国鉄改革の概要、そして分割民営化後の状況や成果などを図や写真を使って解説します。
「各論編」では、改革実現のための2つの大きな課題であった長期債務の清算と国鉄職員の雇用、さらに、世界の各都市の都市鉄道のほとんどが公的機関に運営されている中で、民営化が実現できた日本の特殊な環境に焦点をあてています。

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日本には、国鉄民営化が実現できた特殊な環境がありました。

日本において「国鉄民営化」は一般的には成功したものと捉えられていますが、そのプロセス​においては、人員対策や長期債務の問題等があり「万事がうまくいった」とはいえない側面もあります。日本国内にとっては機微な問題ということもあり、教材を制作するにあたっては、それをどのように海外の鉄道事業関係者に整理し伝えるかの工夫が必要でした。結果的には「総論編」と「各論編」の2編構成で制作し、「一般論としての国鉄民営化の概要や正のインパクト」を伝えながらも、「深堀すれば様々な課題や問題、日本特有の事情があったこと」についても理解を深められるような構成としました。

課題別研修と展示会で活用

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課題別研修「都市鉄道の運営」で教材を活用しました。

本教材は、2021年度課題別研修「都市鉄道の運営」で実際に使用しました。
途上国において都市鉄道の運営に携わる職員である研修員15名ほどが教材を視聴しました。
研修員からは、「自国でも鉄道運営手法の在り方の検討に悩む中、日本の経験を学べたことは参考になった」「民営化が一番望ましい手法だと考えていたが、日本の国鉄改革のプロセスの中でも大変な苦労や課題があったということがわかった」「自国の環境や条件と照らし合わせた上で、その国に適した運営手法を考えるための参考としたい」といった声があげられました。
当初の目的どおり、総論で一般論としての国鉄民営化の概要や正のインパクトを伝えた上で、各論編において課題や実現できた日本特有の前提条件等も研修員に理解してもらえるような教材とすることができたと思います。
本教材は、帰国研修員にも共有しました。今後も毎年活用する予定です。

他にも、幕張メッセで開催された「鉄道技術展2021」(2021年11月24~26日)で教材を上映しました。
「国鉄」を知らない世代が日本でも増えているため、本教材は途上国の研修員だけでなく、日本の鉄道事業関係者(例えば事業者の新入社員教育等)にも役立てることができる教材です。他にも公共交通に関連する技術協力プロジェクトにおける現地セミナーや、イベント等で、幅広く活用していきたいと思います。

中園 美羽
JICA社会基盤部

このページで紹介している教材

国鉄民営化とそのインパクト

この教材では、日本の都市鉄道運営手法を理解するためには欠かせない日本の国鉄改革、分割民営化に向けたプロセスに関する経験を紹介します。
日本の鉄道は1872年の開業以降、その運営上、3回の大きなシステムの変化を経験したと言われています。本教材では、最も大きなインパクトを与えたと言われている3度目の変化「国鉄改革(分割民営化)」に至るまでの歴史やそのプロセスによる変化を振り返り、都市鉄道分野における日本の経験をお伝えします。本教材は総論編と各論編の2編から構成されています。

(注)各論編はJICA事業関係者に視聴を限定しています。詳しくはJICA-Netライブラリデスクまでお問い合わせください。
メール:eitpl-jicanet@jica.go.jp