JICA経済開発部 参加型水管理で持続可能な農業を

2022年7月22日

参加型水管理の基礎的理解を得られる教材

JICA-Netマルチメディア教材「持続可能な灌漑農業 -参加型水管理の取組-」は、灌漑・水管理関係の研修に参加する途上国政府職員が、来日前に参加型水管理について、一定の基礎的理解を持って頂くことを目的に作成しました。

世界の水利用の現状を見渡してみると、人口増加が続く国や地域においては、政府主導の灌漑システムの整備も進んでいますが、その維持管理の負担が重荷となり、適切に利用されない事例も増えています。

また、塩害や地下水枯渇への対処、干ばつや洪水といった気候変動への対策が必要な国もあるなど、各国の事情や発展のステージにあわせた取り組みも不可欠です。

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日本の持続的な水管理システムは、世界中で展開が進む参加型水管理のモデルとしても知られています。

このため、JICAは、経済発展の基盤である食料の安定供給、その実現を後押しするため、日本の知見を活かした参加型水管理に関する技術協力を行っています。

水管理組織の強化・制度化をサポートする専門家の派遣により、世界各地で灌漑施設の整備や、その持続的な利用が可能になったという事例が増えています。

灌漑・水管理関係のプロジェクトに関わる方々においても、本教材が案件形成や事業管理の参考になるものと考えています。

参加型水管理の仕組みと途上国への導入事例を紹介

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教材では、まず、灌漑施設管理の中核をなす土地改良区の仕組みや業務について紹介します。

本教材は、まず日本の参加型水管理の歴史的経緯や発展のポイントを解説し、次に灌漑施設管理の中核をなす、地域の農家による組合組織である土地改良区の仕組みや活動について紹介します。

「参加型水管理」は、文字通りの意味では農家が水管理に参加するものとなりますが、ただ参加するだけのものではありません。日本では、村落単位での水管理や、土木技術の導入・発展、行政・政府による法令制度の構築・事業予算の確保など、周辺環境が整うことで農家が参加するメリットを享受でき、参加型水管理が段階的に発展してきました。

一方、参加型水管理は、日本でも長年かけて成熟してきた取り組みであるため、国際協力への導入も容易ではなく、各事業現場では試行錯誤を続けながら取り組みが進められています。

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北海道で行われている課題別研修の様子。

後半のJICAによる国際協力のパートでは、エジプトやタンザニア等JICAのプロジェクトで少しずつ成果が表れている事例や、北海道で行っている課題別研修を紹介しています。

日本の取り組みをそのまま導入するのではなく、各国の現地状況に応じたカスタマイズが定着・持続性確保のヒントになることがわかります。

日本の参加型水管理を世界へ

教材の狙いは、一義的には、灌漑・水管理関係の本邦研修に参加する途上国政府職員が、来日前に一定の基礎的理解を持ってもらうこととしていますが、灌漑・水管理関係のプロジェクトに関わるJICA内部の方々においても、案件形成や事業管理の参考になるものと考えています。

今後は、研修・イベントでの上映、カウンターパートとの打合せ、勉強会、自主学習などで教材を利用することを想定しています

この教材が、参加型水管理への理解をひろめ、途上国への導入に役立てる一助となれば幸いです。

松原 雄介
JICA経済開発部 農業・農村開発第二グループ 第四チーム

このページで紹介している教材

持続可能な灌漑農業 -参加型水管理の取組-

この教材では、JICAが国際協力(農業・農村開発協力)を途上国で行う際の礎となる日本の歴史・制度として、灌漑農業の営みの背景にある歴史的に築かれてきた農民主体の水管理システムを取り上げ、その歴史や水利組織(土地改良区)等を紹介し、あわせてJICAの協力に対する途上国の政府関係者の声を紹介します。日本の土地改良区は、世界で取り組まれている参加型水管理のモデルとなっています。

日本では、古くから水稲を中心に農業が発展してきましたが、この持続的な灌漑農業を支えてきた基盤が、灌漑施設のネットワークと、農民主体で行う水管理システムの仕組みです。特に、この仕組みを中心的に担う土地改良区の組織・運営や、政策・法令に基づく土地改良区の制度については、日本の特徴であると言えます。

世界中で展開が進む「参加型水管理」のモデルとしても知られるこの仕組みについて、土地改良区や農家の活動も交え紹介するとともに、JICAによる技術協力プロジェクトでの導入事例や課題別研修について、実際に経験した途上国政府職員や研修生の声を中心に紹介します。

本教材は、本分野のJICAプロジェクトに携わる途上国政府職員や農家、本邦研修に参加する途上国の研修生などが、参加型水管理の基礎的理解を促進する一助となることを主な目的としています。