JICA経済開発部 人と海との豊かな共生のために-日本の里海の取り組み-

2022年11月22日

SDG14(海の豊かさを守ろう)の達成を目指して

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人と自然の共生を図る日本の里海は、SDGs14の達成に向けた取り組みにもつながります。

世界の沿岸域での経済活動の多様化、地球温暖化、乱開発は、そこで生計活動を行う住民に様々な影響を及ぼしています。

日本では、沿岸海域の保全と経済活動の両立を図ることを目的に、多様な関係者が積極的に関わる里海創生への取り組みが行われています。この取り組みは途上国での水産開発にも応用性が高く、我が国の先進的事例について映像化を通じた理解の向上を図ることは、SDG14(海の豊かさを守ろう)の達成に向けた取り組みへの貢献にも繋がることが期待されます。そうした理由から、今回、JICA-Netマルチメディア教材『「里海創生」-人と海との共生のあり方-』を作成しました。

自然と人との共存の実践である里海

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石川県、能登地域のカキ養殖では、漁業従事者がカキ育成の環境を整えるため行っている里山保全活動や里海牡蠣殻の再利用が行われています。

里海とは、里山と同様に豊かな自然と人々の生活との共存を図る、一つの社会生態系システムです。

本教材では、我が国の里海創生について、先進的な二つの地域を取り上げています。

一つ目は、2011年にFAOにより我が国で初めて世界農業遺産に認定された石川県能登地域から、カキ養殖と、同地方の伝統的な漁法である海女漁についての紹介です。カキ養殖では、漁業従事者がカキ育成の環境を整えるため行っている里山保全活動や牡蠣殻の再利用を通じた里海保全活動を、海女漁においては、400年にわたり営まれる里海資源の持続的利用の取り組みを紹介しています。

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沖縄県恩納村では、サンゴ礁保全活動を通じた里海づくりの取り組みが行われています。

二つ目は、亜熱帯域に属する沖縄県恩納村の里海づくりです。同村の基幹産業である海藻養殖と観光業、そしてその基盤となるサンゴ礁保全を通じた里海づくりの取り組みは、2019年に内閣府によりSDGs達成のため積極的に取り組むモデル都市として「SDGs未来都市」に選定されました。農林水産業、観光業、行政などの関係者がそれぞれの役割を担っており、自然環境と地域経済の持続性を維持しながら里海づくりの発展を目指すヒントが込められています。

里海の経験を共有

本教材は、水産分野のJICA研修員受入事業や技術協力プロジェクト、個別専門家によるカウンターパート等への説明資料に活用できるほか、セミナーやシンポジウム、国内水産系大学の授業でも活用が期待されます。また、現地の映像が豊富で具体例がわかりやすく、本編の他にダイジェスト編もあるため、日本の里海について広く一般に知ってもらうための広報動画としても適しています。

多様な生物が生息し、人々が海の恵みを将来にわたって得ることができるよう、本教材が人と自然の共存について考えるきかっけとなり、また同じ課題に直面する世界の国々に、里海を現実的なアプローチとして新たな視点を提供できれば幸いです。

本田 勝
JICA経済開発部

このページで紹介している教材

「里海創生」-人と海との共生のあり方-

日本の沿岸部で実践されている里海は、豊かな自然と人々の生活との共存を図る一つの社会生態系システムです。本教材では、多様な関係者が積極的に連携・協力し創意工夫を凝らして進める日本の里海創生への取り組みを詳細に解説・紹介します。

世界各地の沿岸域では、気候変動や海洋汚染、乱開発の影響により環境劣化が進行し沿岸住民の生活も脅かされています。人と自然の共存に試行錯誤を重ねてきた日本の里海の経験は、同じ課題に直面する開発途上国の関係者にとっても有用な知見といえます。こうした情報の共有と活用によって沿岸資源の持続的な利用が促進され、SDG14の達成に向けた取り組みへの貢献にも繋がることが期待されます。