JICAガバナンス・平和構築部 JICAの国別研修で活用-日本の事例から学ぶ公共財政管理-

2022年12月22日

研修の事前学習教材として作成

南アフリカ共和国を対象としたJICAの国別研修「開発のための公共財政」では、地方行財政を所管する省庁や大都市圏等を対象に、日本の中央政府、地方政府等において都市開発事業の効果的な実施を促すためにどのように適切な公共財政管理を行ってきたか、という知見を共有してきています。

JICA-Netマルチメディア教材「開発のための公共財政管理」は、開発途上国の公共財政管理・都市開発を担当する中央政府・地方政府職員が、当該研修の概要をオンラインで自習、または類似分野の研修の導入プログラムで利用できるように作成しました。

開発事業の実施とその効果、また、これに関連する歳入と歳出の管理というものがどのように結びついているかについての理解促進の一助として、講師・研修員に活用されることを本教材の目的としています。

日本の事例から得られる教訓を課題解決のヒントに

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横浜市「みなとみらい21」は、都市開発の成功事例として注目されています。

2022年11月2日から11月17日にかけて行った南アフリカ国別研修では、JICA-Netマルチメディア教材「開発のための公共財政管理」を使用しました。

研修には、南アフリカ大都市圏および財務省から研修員10名が参加し、研修序盤の導入プログラムの一環として本教材の上映により講義を実施しました。

本教材の内容は、まず、都市開発・まちづくりの事例の理解を深めるための基礎知識として、日本の自然環境、社会、経済、行政の現状とその課題の解説から始まります。その後、大規模インフラ開発事業としての「みなとみらい21」、オープンイノベーションによる先進的な事業を手掛ける横浜市の取り組み、さらに、紫波町の公民連携によるまちおこし事業の3つの形態の事業例を紹介しています。

教材の特徴としては、(1)現在日本が直面しており、今後途上国も徐々に直面してくるであろう分野横断的な地方財政の課題、(2)財政と事業の両方の視点、(3)実際に事業に関わった関係者の豊富なインタビュー、(4)都市の規模に関わらず関心の高いテーマ(住民参加、官民連携等)を包括し、理解されやすいように工夫された点があげられます。

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みなとみらい21地区の講義の講師と

なお、上述の国別研修期間中には、本教材で紹介した各事例の現地視察も行われましたが、事前にオンライン視聴した本教材を通じ、各事例の具体的なイメージを掴んでもらえていたことから、現地での講義や視察が非常に活発になるといった効果も得られました。

研修員からのフィードバックをきっかけに制作

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オガール紫波の事例の講師陣と

本教材作成のきっかけは、上記国別研修の前身として、2016年度から実施された国別研修の研修員からのフィードバックでした。開発途上国でよく見聞きする課題として、「政策の一貫性、政策実行力の欠如」があります。中進国である南アフリカでもそれは例外ではなく、中長期の政策立案と実施の非整合性は、中央・地方政府で長年に渡り問題視されていました。

そうした中、本教材の事例として取り上げている「みなとみらい21」や「オガール紫波」の開発に係る自治体の取り組みは、それぞれの関係者が長きに渡って計画の実施に尽力した結果の達成事例として、多くの研修員から高い関心が寄せられ、帰国後同僚に紹介したい事例として支持されていました。

国民の社会厚生の最大化のために開発政策を立案し、事業展開・施設維持管理していく上では、財政規律の維持、財政資源の効率的な配分、資金の効率的・効果的活用が求められます。

他方、財政を説明する場合、数字・数式・表等で表現される場合が多く、なかなか直感的に捉えることは難しいため、本教材では財政管理のアウトカムである、インフラ・サービス等の開発インパクトを現地の映像や図式で視覚的に示すことによっても、財政の効果の理解の促進を図りました。

本教材は、開発途上国の政府関係者、JICA研修員、留学生のみならず、公共財政管理に関心のある日本の中央省庁・地方自治体、学生も幅広く対象としています。

この教材を入口として自らの国・地域の持続的な開発に資する財政管理を考えてほしいと期待しています。

田嶋 祐太朗
JICAガバナンス・平和構築部

このページで紹介している教材

開発のための公共財政管理

この教材では、公共財政管理、特に公共投資管理を通じて、社会の多様な課題を解決するため、都市開発・まちづくりに取り組んだ3つの事例を紹介します。

日本では社会の多様な課題を解決するために、中央・地方の政府が様々な政策・事業を計画・実施してきています。

その実行には、計画・人材・技術といった要素が重要であり、今回、この教材で触れるテーマ、財政もその一つです。

適正な公共財政管理、つまり財政を上手く活用し効果的に政策・事業を展開して行く上では、1に事業の優先付けと計画、2に財政の規律と代替的な資金の活用、3に組織間調整、4に持続性と発展性、これらの視点が重要となってきます。

この教材では、大規模なインフラ事業、オープンイノベーションによる先進的な事業、公民連携によるまちおこし事業の3つの形態の事業例を紹介しながら、この4つの視点に基づき考察していきます。