主役はアフリカ:共通の思いが形になったアフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA )

2024.02.01

(左)ケニア・モンバサ港、(右)ルスモ・ワンストップ・ボーダー・ポスト(ルワンダ・タンザニア国境) 国際的な物流をスムーズにするインフラの改善がアフリカの経済発展を後押しする

豊富な資源、広大な土地、加速する若者人口の増加。「最後のフロンティア」と呼ばれるアフリカですが、生活の根本となる水や電気へのアクセスが困難である地域も多く、また主要な港を持つ国と海に面しておらず物流のアクセスが難しい国との間に生まれている経済格差が長年の課題となっています。アフリカが所有する資源をアフリカ域内で最大限に活用するためにも、道路や電力、水へのアクセス、インターネットなど、産業や生活の基礎となるインフラの開発が重要となっています。

アフリカにある50 以上の国・地域は、それぞれの経済や政治の状況は様々ですが、「アフリカによるアフリカのためのインフラ開発」という共通の思いの実現に向けて、2012年、アフリカ連合(AU)による「アフリカ・インフラ開発プログラム(Programme for Infrastructure Development in Africa: PIDA)」を策定し、この実現に向けて取り組んできました。

このPIDAが策定されてから約10年。アフリカのパートナーとしてJICAも協力を続けてきたPIDAの歩みについてご紹介します。

不平等な構造からの脱却へ:アフリカのオーナーシップを取り戻すインフラ開発

アフリカは植民地時代の名残もあり、鉱物や農産品などの資源を原料のまま輸出し、最低限の収入を先進国等から得てきました。他方、先進国等においてアフリカの原料は高度な技術で加工され、付加価値がついた高価格の商品として世界で売買されます。また、従来のアフリカにおける交通インフラ開発は、先進国等が効率よく流通できる経路に沿って開発が進められたこともあり、アフリカ諸国間の格差を生むものとなっていました。

このような格差を生む構造から脱却し、アフリカ域内での製造・流通・売買を促進させるための交通・物流インフラと、水へのアクセスやインターネットの開発といったビジネスの根幹を支える社会インフラを強靭化するため、2012年、AU総会にてPIDAが採択されました。アフリカの「オーナーシップ」を重視するの考えのもとで、アフリカの経済発展に向けた政策が誕生したのです。

アフリカの開発実施機関 アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)の誕生

アフリカ諸国の思いが政策に反映されたPIDA。国を跨ぐこの壮大な計画の舵取り役として任命されたのが「アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)」です。アフリカのオーナーシップの出発点として、2001年にAUDA-NEPADの前身である「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」が誕生。その後、専門家派遣を始めとするJICAの長年の協力もあり、アフリカ唯一の大陸横断的な開発実施機関として、2019年にNEPADから「アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)」に生まれ変わりました。

AUDA-NEPADの組織改編は、日本が主導するアフリカ開発会議(TICAD)の哲学にも深く結びついています。アフリカのオーナーシップと国際的なパートナーシップの推進を理念とするTICADに対して、AUDA-NEPADは、まさにその理念をアフリカにおいて体現するパートナーです。インフラ開発を取り巻くアフリカ各国の思いと、国際社会からの協力をうまく調整し、大陸横断的なアフリカ開発の実施機関として、今日も務めを果たしています。

アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)で働くスタッフ(提供:AUDA-NEPAD)

アフリカのニーズを踏まえたJICAのインフラ開発協力

前述のとおり、先進国のニーズに基づくインフラ開発では、都市と地方、沿岸部と内陸部など、アフリカ域内の開発に格差が生まれる状況が生じていました。一方、JICAは、TICADの理念のもと、「アフリカの人々が必要とするインフラ開発」への協力を重視してきました。中でも、複数国を跨ぐ「国際回廊開発」の考え方に着目し、幹線道路を軸とした地域の産業や社会の発展を見据えたインフラ開発を後押ししてきました。1993年から2023年までの30年間において、JICAはアフリカにおいて合計7,205kmの道路の建設・改良、また1,690MWの発電容量の増加、さらに1,531万トンの新たな港湾容量の増大に貢献しています。

アフリカのインフラ開発へのJICAの貢献

PIDA10年の成果を共有し、インフラ開発の価値を広める

水や電力、インターネットなど社会や産業の基礎となるインフラ開発に加え、国を跨ぐ国際回廊開発が進められる中、10年の節目を迎え、AUDA-NEPADとJICAの中では「PIDAは何を達成し、何が達成されていないか」を数値で示すべきという指摘が上がりました。協力機関や投資家の理解を促し、必要な資金の確保につなげるためにも、PIDAの成果と課題を数値で示し「今後どのような協力が必要か」を効果的に提示する冊子の必要性が高まりました。

それによって完成したのが過去10年間のPIDAの成果を分かりやすく伝える実績報告書「PIDA First 10 Year Implementation Report」と、今後のアクションプランをまとめた「2nd PIDA Priority Action Plan (2021 - 2030) Projects Prospectus」です。JICAはこの2冊の作成を支援し、2023年9月14日、タンザニアのザンジバル島にて、約250人のアフリカのインフラ関係者を前に完成発表が執り行われました。

この冊子の中では、16,066kmの道路開発、4,077kmの鉄道開発、約120か所に渡るワンストップ・ボーダー・ポスト(OSBP)の開発・計画など、具体的なPIDAの成果が視覚化されると共に、数値で表された情報を元に今後必要な取り組みや支援の内容が紹介されており、インフラ開発に関わる関係者が同じ認識を持って議論できる土台が整備されました。

安藤直樹JICA理事およびアブゼイド・AU委員会インフラ・エネルギー委員。PIDA10年の成果をまとめた実績報告書と今後のアクションプランをまとめた紹介冊子の完成を祝う。

PIDA First 10 Year Implementation Report(提供:AUDA-NEPAD)

深まる結束:JICAとAUDA-NEPADの連携を更なる高みへ

2023年に出版された「PIDA First 10 Year Implementation Report」では、PIDAの開発計画を2040年までに達成するために、3,600億ドル(日本円にして約52兆2,000億円)もの資金が必要と試算されています。一見すると非常に達成が難しい金額ですが、実は2012年から2020年までのPIDAの開発計画には820億ドル(約11兆8,900億円)の資金が世界各地から拠出されました。これは、当初予測を20%上回っており、さらに驚くことに、資金の42%がアフリカ諸国による投資であることが明らかになっています。この事実は、PIDAにおいて「アフリカによるアフリカのためのインフラ開発」が実践されていることを示しています。

他方、現状では2040年までの目標額達成には程遠く、2020年時点では全体の23%にしか至っていません。また、民間企業によるPIDAへの投資額は3%に留まっており、著しく低いことも課題となっています。

「PIDAに関する成果と課題が明らかになった今、次なる目標は、日本からアフリカへの投資喚起、ひいては国際社会によるアフリカ・インフラ開発への関心を促す橋渡し役を担うことです。」

JICAからAUDA-NEPADに派遣され、インフラ開発分野のアドバイザーとしてこの報告書の作成をサポートした砂原遵平専門家は、今後に向けた意気込みを語ります。これまでの成果と今後の活動計画が整理された今、JICAとAUDA-NEPADは、PIDAの着実な実現に向けて、より一層結束し、アフリカのインフラ開発を推進していきます。

PIDA First 10-Year Implementation Reportの筆頭著者を務めた砂原遵平インフラ・アドバイザー(中央)とAUDA-NEPADインフラ課の職員

PIDA10年の実績報告 及び 次の10年のプロジェクト展望:

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