国際理解教育で私も生徒も社会も生き生きと!

【写真】夏目 佳代子さん(岐阜県恵那市出身、岐阜県恵那市在住)岐阜県立恵那高等学校 教員
夏目 佳代子さん(岐阜県恵那市出身、岐阜県恵那市在住)

今回は、開発教育・国際理解教育の豊富な実践経験を有し、岐阜県で開発教育ナビゲーターとしてご活躍いただいている夏目先生です。国際理解教育の魅力や可能性、教育現場での効果的な実践方法などのお話をたくさん伺いました。 
(聞き手:JICA岐阜県デスク吉田文)

まず初めに、自己紹介をお願いします。

JICA海外協力隊体験談&説明会での発表の様子

こんにちは。岐阜県立恵那高等学校で教員をしています。私は、これまで様々な国際理解教育のワークショップに参加して、ファシリテーションについて学んできました。詳しくは後述しますが、「国際理解教育」の魅力に引き込まれてから、研修などで学んだことを元に学校で実践しています。その経験は、以前から思いにあったJICA海外協力隊への参加にもつながりました。現在は、開発教育ナビゲーターとして岐阜県に開発教育・国際理解教育を普及させられるよう活動しています。

開発教育・国際理解教育に興味を持たれたきっかけを教えて下さい。

開発教育指導者研修で一緒に学んだ仲間とのつながりは今も続く

国際理解教育とは、地球や世界が抱える今日的な課題(人権・環境・平和・共生など)を理解し、課題を解決しつつ、よりよい未来を共に築く「力」を育む教育です。子どもの頃、世界には学校に通えない子どもたちがたくさんいるということを知ってから、世界や途上国のことに関心をもっていましたが、何か具体的に行動できていた訳ではありませんでした。そんな中、2008年にJICA中部主催の「開発教育指導者研修」*1を見つけ、思い切って参加してみたのが大きなきっかけです。研修を通して、世界の課題や、一方向の知識伝達型ではなく、学習者が主体となって学ぶ参加型学習のプログラムの作り方について多くを学び、実践していく中で国際理解教育の可能性を実感しました。参加型ってこんなに楽しいんだ、もっと学びたい、授業で取り入れたい、という思いが強くなりました。当時の研修で学んだことはファイリングし、今でも大切にしています。

開発教育・国際理解教育の魅力はズバリ何でしょうか?

活動先の「青少年の家」でのリサイクル工作教室

一人ひとりが持っている力が引き出される点だと思います。参加型学習の場では、参加者は対等な立場であるので、自分が受け入れられているという安心感をもって、自分の考えを伝えることができます。また、他の参加者と意見を共有していく中で考えが広がり、そこから新しいアイディアが出てくる過程で、よりよい未来をつくっていく前向きなエネルギーが生まれるのを感じます。「人は、楽しいと感じる信頼に満ちた自由な雰囲気の中で、最も多くのことを気づき学ぶ」ということを研修で聞いたのですが、まさにそれを体感できます。
参加型で行うと、一部の生徒だけで話し合いが進むのではなく、全員が主体となれるのがよい点です。1つの決まった答えがあるわけではないので、話し合っていく過程で仲間の意見を聞いていろんな考えに触れ、気づきが生まれます。そこから、「自分にもできることがある」「やってみよう」と意識や行動の変化が生まれていきます。
私自身の価値観と行動も変わりました。多様性を受け入れ、様々な視点で物事を考えることができるようになったと感じます。また、人権や環境のことに対してより関心をもつようになり、自分にできることを小さなことからやってみるようになりました。大きな変化は高校生のころから思いの中にあった協力隊に応募し、ニカラグアで活動したことでした。
国際理解教育には、参加者(生徒)もファシリテーター(教師)も変えていく力がある。教育現場で国際理教育を取り入れていく魅力は、ここにあると思います。

それでは、具体的に教育現場ではどのように取り入れられていますか?

参加型手法(派生図)を使って、陸の豊かさが守られていない原因を探る

国際理解教育を通して育みたいことの1つは、「自己」「他者」「社会」に関わる力を育てるということです。ある時、「国際理解教育は理解教育」という言葉を聞いた時に「なるほど」と思いました。自己理解(自己に関わる力)や他者理解(他者に関わる力)があって初めて「社会」や「世界」に関わる力につながっていくのだと思います。学級担任として、まず生徒たちが自分や仲間に関わる力を高められるように、普段のホームルームや席替え後は、皆が安心して受け入れられていると感じられるようなアイスブレイクやアクティビティを取り入れています。昨年度はコロナ禍でグループ活動が制限されましたが、形態を工夫して、SDGs、気候変動、協力隊で行っていたニカラグアなどをテーマに参加型手法を取り入れた授業を行いました。身の回りのこと、世界の課題など、どんなテーマも参加型の学びにすることができます。JICAの教材*2などを参考にして、授業時間数や生徒の実態に合わせて流れを考えます。また、担当する英会話部では海外の学校との協働学習*3に取り組んでいます。生徒たちの気づきや考えから、私も学ぶことがたくさんあります。

開発教育・国際理解教育を通した夏目先生の目標はありますか?

学び合うことで、生徒自身が気づき、考え、行動へ!

自分の周りで起こっていること、世界で起こっていることを自分事として捉え、よりよい未来をつくっていく、自分たちにもそれができるということを感じて行動に踏み出せる生徒が1人でも増えるようにしたいです。気候変動についての授業を行なった後、「大きな問題を解決するためには、私1人が行動を変えても変わらないと思っていたが、小さくても変わるだろうし、変えることができると思った」「国連や政府が先導しないと解決は難しいと思っていたが、原因をたどっていくと自分たちにもできることが多くあると気づいた」というような感想が複数ありました。知識として知っていても、すぐに行動に移せるとは限りません。また、「知らないからできない」場合もあります。まずは「知る」機会をつくり、「気づく」「考える」、そして「行動する」につながっていくような学び合いの場をこれからもつくっていきたいと考えています。
私自身も、まだまだ知らないことや無意識に考え方が偏っていることがあります。国際理解教育に取り組みながら、学び続けるという姿勢を持ち、自分自身をよりいっそう成長させていきたいです。

これから取り組みたい!と思われている方に一言お願いします。

国際協力、ボランティアをテーマにした講座にて

「国際理解教育=何かとても大きな実践」と思われるかもしれません。また、普段の学校生活や授業とはなかなかつながらないと感じられるかもしれません。私は日々の生活の中で国際理解教育が大切にしている視点をもって、学級経営や授業を行うことが大切だと考えています。自分や仲間に関わる力を育むことは、先生方が普段の学校生活で、すでに意識していることだと思います。そこに国際理解教育の視点を少し取り入れるだけで、生徒たちは生き生きとしていきます。新学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」というのは、まさに国際理解教育が大切にしている学び方です。
13年前、思い切って研修に参加したことから私の学びは広がりました。共に学ぶ仲間とのつながりもできました。興味がある方もない方も、一度研修や講座に参加して参加型ワークショップを体験してみると、その魅力や力を感じられると思います。ぜひ一緒に学んでいきましょう!困ったときは、お気軽にお近くの開発教育ナビゲーター*4に相談してください!