JICA Bizの優良事例を紹介 ~創業100年を超える岐阜県恵那市の老舗機械部品メーカー(有)角野製作所を訪問~

そしてクリーンに


2025.01.29
2013年公示JICA調査事業「小水力発電による農村のエネルギー自立支援事業調査(中小企連携促進)」実施企業である、創業1918年の有限会社角野製作所を訪問し、代表取締役社長角野秀哉氏と、営業部長の角野雅哉氏に会社概要、小水力発電事業、社会貢献活動、海外ビジネス状況等について伺った。
先祖代々鍛冶屋の家系で、代表の祖父の時代より恵那の地で鍛冶屋をはじめ、代表の父も鍛冶屋を継いだが、戦後は、旋盤、自動車部品事業と時代の変化に対応した事業を展開。代表は20歳から角野製作所で勤務を始め、現在はアイデアマンの代表を筆頭に、長男の雅哉氏が開発を、次男の裕哉氏が営業を担当し、総勢14名の少数精鋭の高レベル技術者集団である。先祖代々、鍛冶屋として培った職人技術とものづくりへの情熱で、加工や切削が難しい素材にも果敢に挑み続け、顧客の要求する高品質な製品を提供し、顧客ニーズを基に常に時代の最先端を進む技術で最良の製品とサービスを提供する企業である。
ご説明頂いた角野秀哉社長(右)と角野雅哉部長
自動車部品の生産拠点がアジアに移り、日本国内の仕事が激減した頃、難削材インコネル(ディーゼルエンジン部品)加工の依頼があった。3,4日加工に挑戦したものの加工ができず、依頼元に報告したところ、未だ誰も成功していない加工技術であり、もう少し時間をかけてチャレンジしてくれないかと打診され、研究と試作を続けたところ、加工に成功!日本唯一の技術として、工場も建設し、5年で量産体制が整い、世界シェアの3割を占めるに至った。
かねてから関心のあった航空・宇宙産業に2002年から参入し、H2ロケットや航空機の部品生産を開始。自動車部品の場合は、量産に適した材料や図面を提供されることが多いが、航空機の場合は、初めて取り扱う材料が多く、与えられた図面に忠実に製作するという非常に高度な技術が要求される。航空機業界は、そうした高度な技術力をもつ一握りの会社しか生き残れない厳しい世界である。情熱をもってものづくりに取り組む角野製作所の真摯な姿勢がうかがいしれる。2009年からは、この後詳しく紹介する小水力発電事業、2014年からは医療機器分野へも参入し、加工の非常に難しい形状記憶合金を加工した内視鏡鉗子など、医療現場からの「あったらいいな」を高い技術力で実現している。
●小水力発電事業に参入のきっかけは?
地球温暖化や化石燃料の枯渇など、エネルギー問題に関心があり、クリーンエネルギー活用のため自社の技術で何ができるかを考えた。ダム建設はできないが、地域の未利用の水力エネルギーを活用して地域に還元してエネルギーの地産地消を応援する小水力発電に行き着いた。
●小水力発電技術の強み、比較優位性は?
螺旋型水車はねの形状、水量の調整、金型設計、図面まで自分たちですべて一貫して取り組んでいる。螺旋水車を使用し、低落差・小流量で稼働が可能で水力エネルギーを引出す。また、この螺旋水車は従来、溶接を要する一体型であったが、当社製品は分割型で、金型技術により量産ができるようになった。構造が単純で耐久性が高く、ごみにも強いのが特徴。設置やメンテナンスが容易である。さらに、コミュニティーごとに分散発電が可能であり、送電網の発達していない地域や国での活用、災害時の独立電源確保にも有用である。
●地域住民や学校向けの環境教育など、社会貢献活動を熱心に行う理由は?
特に日本では、未活用の水力エネルギーが数多く眠っているが、無電化地域はなく、発電の需要は多くない。しかしながら、クリーンエネルギー発電の取り組みは推進すべきであると考えている。小水力発電は、地域にあるみんなの水を使うので、地域みんなの理解が不可欠であることから、将来の地域を担う子どもたちに、水力、風力と活用可能なエネルギーは全部使って発電できることを知ってもらいたい。環境教育で使う10Wの小水力発電機の螺旋部分は子どもたちが集めたペットボトルキャップを再生利用して製作しており、子どもたちが組み立てた小水力発電機で発電された電気は、地域の防犯灯や電気柵の電源として活用されている。
●JICAの調査事業で対象国としてミャンマーを選んだ理由は?
ミャンマーにおいて小水力発電の普及活動を行っているNPO法人「小水力発電をミャンマーの農村へ」代表理事、神戸大学名誉教授の大津氏から声がかかったのがきっかけ。
●ミャンマーでのJICAの調査事業の結果は?
現地への貢献として、無電化地域に電気を届けて少しでも暮らしが豊かになって欲しいと願っていたところ、ミャンマーでは日中働いていて学校に行けない子どもも多く、夜に本が読める電気を提供できるようになったことは、子どもへの教育機会拡大につながった。また、無電化地域の病院が電源を確保することで、血清を保存する装置を稼働して毒蛇咬傷が原因で亡くなる命を救うこともできる。日本で開発した500Wの製品は、日本の1軒分の電気を賄える発電量であるが、ミャンマーの無電化地域で利用してもらえれば、今まで電気が無い生活をしていた方々が先進国のような電力を利用した生活ができる。
現地のニーズに合わせ100Wの製品も開発した。JICA事業のおかげで、現地に実際に足を運び、現地の課題を知り、現地のニーズを具体的に捉えることができた。
本事業実施後、JETROのハンズオン支援を活用し、本事業を共同で実施した川端鐵工株式会社と現地の法人とともに現地法人を設立したものの、軍事政権によるクーデターが発生したため、現在事業は停止している。
●受賞歴、メディア報道歴
第22回日本水大賞では、「小水力発電による持続可能な社会の実現」をテーマに経産産業大臣賞、公益社団法人日本設計工学会主催平成25年度秋季研究発表講演会にて「螺旋式ピコ水力発電システムの開発と実証試験」が優秀発表賞を受賞している。また、外務省Youtube動画「Japan Video Topic」や国連工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization、UNIDO)のサステナブル技術普及プラットフォーム「STePP」でも紹介され、国外からの問い合わせも多くなった。
●海外展開の課題、教訓は?
少人数で事業を回している中小企業にとって海外展開は、人、金、言葉の壁が課題となる。単独での海外展開は難しいため、公的支援機関からの支援を活用し、専門的な人材の派遣やアドバイスを求めながら適宜進めている。海外展開においては信頼できる現地パートナーの存在こそが重要であると考える。
●今後の海外展開計画は?
フィリピンにおいて、リコー社が提案企業となる「3Dピコ水力発電による働く現場のDX支援事業案件化調査」の調査団員として参加した。現在、調査継続中で、まだ現地生産、販売には至っていない。10Wの小型のものは、EMSで発送ができ、自身で設置が可能で人気がある。これまでの納入実績の一例としては、
アメリカ合衆国、インドネシア、クエート、インド、台湾、エルサルバドル、タンザニア、UAE、ヨーロッパ諸国等が挙げられる。100W規模の小水力発電機もガーナで納入実績がある。外務省やUNIDOから情報を発信いていただいたおかげで、海外から問い合わせがある。
中小企業で人員体制に乏しく、海外への営業経験が浅いという課題はあるものの、螺旋水車は世界的に適地が多く、導入しやすい技術であり、需要の高まりが期待されているところ、角野製作所が培った高い技術力で製作された小水力発電を世界に普及させていきたい。
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