JICA Bizの優良事例を紹介 ~ベトナムでサイレントパイラーを用いた圧入工法でビジネス化を目指す静岡県の(株)小澤土木を訪問~


2025.02.12
株式会社小澤土木(本社:静岡県浜松市、2020年度公示JICABiz「サイレントパイラーを用いた圧入工法によるアースダム・堤防の防災技術に関する案件化調査」の実施企業)を訪問し、代表取締役社長小澤智久氏及び営業部海外営業課長グエン・ティ・マイ・タイン氏に、会社概要やJICA事業終了後の海外ビジネスの展開状況等を伺った。
小澤智久社長(左)とグエン・ティ・マイ・タイン課長(右)
㈱小澤土木は1913年に、建設現場でまだ機械化が進んでおらず人力に頼っていた時代に個人創業し、他社に先駆けて機械化を進め、近年は作業効率と環境性能を両立させた各種機械設備を多数導入し、また、施工も実施する専門工事会社である。
同社では、高度な技術・工法で高架建設・湾岸や河川整備など災害対策・復旧における基礎杭工事を実施し、サイレントパイラーを用いた圧入工法を最も得意とし特殊な施工条件下の施工も可能にしている。
この工法は、地中に押し込まれている杭(鋼矢板等)を数本掴み、その引抜抵抗力を反力に次の杭を押し込む手法であり、軟弱地盤から硬質地盤まで幅広く対応できる。また施工精度が高く、無振動・超低騒音の環境配慮型工法であるだけでなく、機械設備が軽量コンパクトかつ自走式であるため、狭隘地や傾斜地施工にも対応できる。加えて、運転支援システムにより、オペレーターの習熟度によらない施工ができることが特徴である。
同社は、1981年から河川や港の護岸工事、橋梁工事をはじめとする公共工事に参入し地域のインフラを支え続けている。2017年には、初の海外プロジェクトとしてバングラデシュのODA事業に参画したことを皮切りに、2020年にはベトナム、2024年には南スーダンのODA事業にも参画した。
ベトナム国内のダムは、1960~80年代に建設されたものが多く、適正な盛土材料の不足や当時の建設技術レベルを背景にしたダムの漏水、洪水時の破堤による下流域の住民への被害が発生している。洪水調節や農業・生活用水確保のために機能するべきダムの事故を防ぐことが地域住民の生活、生命及び財産を守ることに繋がると考えたことが応募の背景である。
本調査では、ダムの漏水被害の実態とともに、行政機関のダム修繕計画及びダム・貯水池に関する法令を詳細に調査した。ベトナムでは漏水対策工事に鋼矢板を使用した遮水壁を採用した例がなく、鋼矢板圧入工法の採用により、漏水対策工事の品質改善に繋がることを確認した。
また、農業農村開発省をはじめとしたベトナム政府機関に圧入工法の採用を働きかけた。
自社及び共同提案法人である㈱橋本組、ベトナム現地法人のスタッフが、ベトナム側の農業農村開発省や関係機関との良好な関係を構築したことにより、活きた情報を収集し、調査精度を高めた。現地の文化や事情に精通した現地スタッフの力がなければ有効な情報は得られず、ベトナム側関係機関が求める事項だけで事業は必ずしもうまく進めることができない。調査においてベトナム人スタッフはよく機能し、大きな戦力として力を発揮した。
また提案法人2社では、ベトナム国内の大学を卒業した高度人材を採用し、現在も業務に従事し活躍している。
本調査では、サイレントパイラーを用いた圧入工法の有効性が確認できたため、引き続きベトナムでの公共工事の受注を目指している。農業農村開発省がこの工法を推奨技術として規定するためには、「技術基準(TCCS)」の発行が必要となる。
現在、この発行に向け、経済産業省の補助金事業を利用し、圧入工法の有効性を裏付けるため、バッカン省でのパイロット工事の実施に向けた準備に取り組んでいる。パイロット工事は、㈱小澤土木及び㈱橋本組の共同企業体、並びに現地合弁会社のHOPE E&C JSC.が連携しながら実施する。またパイロット工事中は、現地の公共機関や建設会社などの関係者向けに見学会を開催し、広く圧入工法のすばらしさを周知することも検討している。
また、現在は機材を日本から輸送しているが、将来的には人件費を含めベトナム国内で調達することにより、工事コストを下げたい意向である。
2017年に、初の海外プロジェクトとしてバングラデシュ「ダッカ国道1号線橋梁改修・新設工事」に参画した。この工事は、既存の橋の改修及び交通量増加に伴う増設工事であり、橋の基礎工事の桁下部においてサイレントパイラーによる鋼管矢板圧入工法が採用され、施工した鋼管矢板の長さは最長で56mであった。
また、2020年には昨年開業したベトナム「ホーチミンメトロ1号線のベンタイン駅整備工事」に参画した。立体ホームであったことから階段の土留にサイレントパイラーを使用した圧入工法が採用され、施工を請け負った。
さらに、2024年には南スーダン「ジュバ河川港整備工事」に参画し、サイレントパイラーを用いた硬質地盤クリア工法により、岸壁の構造体の一部となる鋼矢板を施工した。硬質地盤だったためオーガ削孔併用にて圧入作業を実施した。同社としては初めてとなるアフリカ案件であり、施工機械は昨年9月から約一か月半をかけて現地に輸送し、12月末に施工を完了した。
鋼矢板圧入作業の様子(ベトナム)
鋼矢板が圧入され、駅ホームに続くスロープ建設時の様子(ベトナム)
工事の全景(南スーダン)
鋼矢板圧入作業の様子(南スーダン)
公共工事を請け負う事業者として、地域の安心・安全な暮らしのため常に社会貢献を意識した取組として、2021年に完成した新社屋の会議室は、地震などの災害の際、地域住民も避難所として活用できるよう設計されており、防災備蓄品として3日分の食料類のほかテント型間仕切りも備えている。
普段の会議室
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