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【事例紹介】スリランカの水問題解決に挑む~岐阜県の(株)安部日鋼工業訪問レポート~

#6 安全な水とトイレを世界中に
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2025.07.31

東南アジア・大洋州部 石橋
国内事業部 髙島

2023年公示のJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業(以下、JICA Biz)「スリランカ国 開発途上国向け小規模汚水処理施設普及のためのニーズ確認調査」を実施した創業1949年の老舗企業である株式会社安部日鋼工業の岐阜本巣工場及び、提案製品である小規模汚水処理施設を訪問・見学しました。岐阜本巣工場では、工場長の筒井満宏氏、製造課長の岩佐哲男氏、技術工務本部容器技術部長の伊藤朋紀氏から会社概要やコンクリート技術、海外ビジネス状況等について伺い、伊藤氏(当時、調査主任者)と海外事業部長の出川寛和氏にJICA Bizの活用経緯や調査内容についてインタビューしました。また、今尾浄化センターで小規模汚水処理施設を見学しました。

伊藤朋紀氏(左)との写真(岐阜本巣工場前にて)

プレストレスト・コンクリート技術で強固な製品を作る

同社は、プレストレスト・コンクリート(以下、PC)の技術を活用し、PCタンクやPC橋梁、鉄道線路のまくらぎなどを製造しています。PCは、圧縮力を加えることでコンクリートのひび割れを防ぐことができ、強度・耐久性が高く、水密性がある構造物が構築可能です。PC橋梁は軽量で強い荷重に耐え、長いスパンの建設を可能にしています。工場で部材を製造し現場で組み立てることによる廃材の減少、環境負荷の低減から施工工数と工期を短縮します。伊藤氏は「工期短縮による費用削減と安全性向上が可能」とPC技術の優位性を語ります。

PC技術を活用し製造した建設部材①

PC技術を活用し製造した建設部材②

マッチした自社のニーズとスリランカの課題

株式会社安部日鋼工業は、日本では水道普及率が高いため、上下水処理設備の需要減少を見込んで海外展開を目指しました。開発途上国では水道工事関係の需要が依然として存在し、人口増加に伴い上下水道整備の必要性が高まっていると考え、事業展開を進めています。
2013年よりJICA民間連携事業として「途上国における経済的な水道整備に資するPCタンク普及のための案件化調査」並びに「経済的な水道整備に資するPCタンクの普及・実証事業」を実施し、2018 年にはスリランカで上水道用 PC タンクを建設、同国の国家上下水道公社(NWSDB:National Water Supply and Drainage Board)に優位性を示すことができました。このタンクにより14,650世帯に安定した水供給が可能になりました。今後は下水道施設の整備が課題となることから、引き続きスリランカにてJICA Bizのニーズ確認調査に応募し、採択されました。

スリランカに建設した上水道用PCタンク

今尾浄化センター訪問

同社は、スリランカでの小規模汚水処理施設の需要を調査するため、ボッド(PCを用いた曝気槽兼沈殿池)を利用したニーズ確認調査を行いました。ボッドは、日本下水道事業団が開発したプレハブ式オキシデーションディッチ法(POD)を、安部日鋼工業がスリランカ向けにカスタマイズしたものです。岐阜県海津市の今尾浄化センターを訪問し、曝気槽兼沈殿池の仕組み等を学び、実際のPODを見学しました。ボッドは、容量毎の標準設計があるため、個別設計が不要であり、開発途上国でも短期間で計画、設計、施工が可能です。また、PC技術により鉄筋コンクリート構造と比較して壁厚も1/2となり材料費も削減できます。また、工場で建設部材を製作することで、どの施設でも安定した良好な品質が確保できるという利点があります。これら調査で得られた情報により、同社はスリランカでの導入に期待を持っています。

今尾浄化センター(岐阜県海津市)のPOD

その他日本国内で導入されているPOD(福島県双葉郡)

スリランカでの調査内容と結果

スリランカの調査では、病院や刑務所、スーパーマーケット、大学などを訪問し、現地のニーズや課題を確認しました。その結果、スリランカでは下水処理の整備が未だ進んでおらず、民間の汚水処理施設の老朽化や不十分な施設管理、処理容量の不足といった問題が明らかになりました。これらの問題は、汚水の垂れ流しによる悪臭や衛生環境の悪化、水源や地下水の汚染を引き起こしています。
また、現地のニーズに合わせた処理施設のサイズ調整や、インフラ整備に関するスリランカ国政府の資金確保という課題も浮き彫りになりました。これらの課題に対し、自社の技術を活用した高品質かつ比較的安価なボッドが、これらの問題の解決に貢献できるのではないかと考えています。ボッドの導入により、スリランカの下水処理問題の改善に寄与することが期待されます。

調査時に訪れた公立病院の下水処理施設(ひび割れが発生し、そこから汚水が流れていた)

これからの展望

スリランカでは、下水処理へのニーズが高まっているため、まずはどのような施設からボッドを整備していくかという優先度を明確化することが重要です。国際援助機関からの資金協力を視野に入れながら、ボッドの整備にかかる価格などを検討しています。JICA Bizの活用も検討しつつ、ビジネス化に向けて動き始めています。
調査した施設では、写真7のような状況が散見されたとのことでしたが、安部日鋼工業のボッドを導入することで、水源・地下水の汚染防止・抑制、悪臭を含む衛生環境の改善が期待できます。これにより、SDGsの6番にある「安全な水とトイレを世界中に」の達成に貢献し、さらに海水浴場や森林などの観光資源の保護といった開発インパクトにもつながると考えられます。ボッドの導入は、スリランカの環境改善と持続可能な開発に寄与する重要なステップとなるでしょう。

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