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【事例紹介】インドの環境改善に水分野から貢献~ティビーアール(株)訪問レポート~

#6 安全な水とトイレを世界中に
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2025.08.04

中南米部 利根川
国際協力調達部 山本
JICA東京 梶谷

インドでの「高効率水環境改善システム普及・実証・ビジネス化事業」を現在実施中である、昭和35年創業のティビーアール株式会社に訪問し、インドでの調査や実証の背景、現地の様子などについて、環境事業部長の木下稔久氏にお話を伺いました!

木下氏(左から二番目)から提案製品の説明を受ける

事業内容

ティビーアール社は、漁業用の網の周囲の補強や、網の引き上げ用などロープの製造から始まった企業であり、その技術を生かして「海をきれいにしたい」という創業者の強い想いから、循環型社会構築や地球環境改善への貢献を目指してきました。その取り組みの1つが、川の自浄作用にヒントを得た、高分子系の糸を放射状・ループ状にし、付着した微生物による浄化作用を促す「バイオコード」の活用です。安価で丈夫な素材であり、長期間使用でき、水路等に浸漬するだけで汚濁物質除去効果が発現します。「バイオコード」は、元々日本の河川で導入・活用されていましたが、国内で下水設備が整ったことで2010年頃には河川浄化ニーズが激減し、その結果、海外展開を考えるようになったということです。

中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)の活用

日本国内でのビジネスパートナーの紹介によりJICAが中小企業向けの海外展開支援事業を実施していることを知り、当社のそれまでの取り組みが開発途上国の課題解決につながることから、2014年、JICA Bizに応募しました。採択され、まずはインドネシアにおいてビジネス展開に向けた調査と実証事業を実施しました。インドネシアで一定の成果を得られたため、その実績をもとに、今度は下水道設備が十分に普及していないインドへの進出に踏み切ったそうです。

調査から見えたインドの現状

環境事業部長であり本事業の業務主任者である木下氏は、肌感覚を大切にしたいとの思いから、ニーズ確認調査実施中から何度もインドに足を運んだそうです。実際にインドに行ってみると、川には「ゴミ箱」のように物が捨てられ水が白濁していたり、池から信じられないようなにおいがしたりするなど、水質環境の悪さを痛感したといいます。政府や地方自治体の水道担当者や上下水道公社との対話からも、水質環境の改善が求められていることが分かったことで、本事業の応募へ踏み切ることになったそうです。インドはその国土の大きさと、需要の高さ(水質浄化の必要性の高さ)から、一国全体を対象にすることは難しいため、人口と予算規模が比較的大きいテランガナ州ハイデラバード市を対象地として普及・実証事業に応募、採択され、現在、実施中です。

水の浄化だけでは解決できない課題

こうした水質管理の課題の一方で、木下氏は、川にゴミが大量に捨てられている様子を街で目撃したことから、インドではゴミ回収の方法にも課題があり、水質浄化だけでなく、ゴミ回収についてもあわせて改善の必要性があると感じたそうです。廃棄物が川にあふれている状態では、優れた技術を用いたとしても水質の改善は困難でしょう。また、衛生環境も悪化し感染症などを引き起こすリスクも高まります。インドの人々は生活環境を良くしたいという気持ちはあるものの、具体的な改善に向けての取り組みはまだこれからです。木下氏は廃棄物の問題・衛生の問題も横目で見ながら、インドの環境改善に水分野で貢献したいと話してくださいました。

ニーズ確認調査で把握した用水路の状況

今後の展開

インドにおける調査により、現地では水質改善の需要がかなり大きいことが明らかとなりました。現在はハイデラバード市の上下水道公社を相手に、水環境改善のためのバイオコードの導入を進めています。実証・普及が進めば、河川の衛生環境が改善することが見込まれますが、インドの市場規模は非常に大きく、1年目だけでもすでに日本の3倍の売り上げがあるとのことです。当社の現状の体制では生産が追いつかないことから、今後はインドに製造拠点を置くことも検討しているそうです。
また、政府機関だけでなく、民間企業への販売も視野に入れているといいます。インドは畜産が盛んであり、畜産系の排水処理のニーズもあることが調査により判明しているそうです。また、ハイデラバード市には医薬品メーカーなどもあります。そういった地域の産業にも貢献することを見据えながら、今後の事業展開を考えているとのことでした。

ティビーアール社を訪問して

今回の訪問を通して、現場に足を運ぶ機会の重要性を改めて感じました。本案件では、実際にインドで河川や街の人の様子を見たり、関係者から直接話を聞いたりすることで、河川浄化の需要の高さが明らかになりました。インドの河川汚濁という課題に対して、水質に合わせて様々なバイオコードを製造できるティビーアール社の技術がマッチしたということです。インタビュー後に実際のバイオコードを見せていただくと、密度が低く柔らかいものから、密度が高く少し硬いものまで種類豊富であることに驚かされました。特に水質が悪いところでは汚れでバイオコードが閉塞しないように密度の低いものを使用するなど各所に工夫が施されており、その技術の細やかさに感銘を受けました。木下氏の熱意のある製品説明からも、ティビーアール社の製品は、単なる技術の結晶ではなく、現地の人々の生活をより良くするための情熱と配慮が込められていることを感じました。当製品は各国にて展示会が行われているといいます。このような革新的な技術が、途上国の人々の手に渡り、世界中の環境問題に対する希望の光となることを強く願っています。

様々な形状のバイオコード

ティビーアール社の製品展示室にて

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