【島根県: 帰国研修員のその後】コードで描く未来図~日伯をつなぐIT~



2025.05.22
長きにわたる研修を行ったアカミネ・ファビアナ・リエさん
JICAでは日本の地方自治体、大学、公益法人、NGO等の団体等から提案を受け、これらの団体等に日系社会研修員受入の実施を委託して行う国民参加型事業を行っています。日系研修事業は、中南米地域日系社会への技術協力を通じ、日系社会の発展と移住先国の国造りに貢献するとともに、国民に幅広く、これらの事業への参加を促進し、助長することを目的としています。
氏名:アカミネ・ファビアナ・リエ
研修コース名: 2024年度 日本社会におけるビジネススキルの習得及び日系アイデンティティの涵養
研修期間:2024年6月16日~12月13日
サンパウロの高層ビル群。そこでモニターに向かう若きプログラマーの指先には、遥か太平洋を越えた日本での経験が宿っている。祖父の出身国日本で得た知見と技術が、今、彼女の故郷ブラジルで新たな花を咲かせようとしている。
日系ブラジル人として生まれ育った彼女の目には、いま単なるプログラミング言語以上のものが映っている。
6ヶ月にわたる研修を通じて得られた経験は、彼女の帰国後の活動にどのような変化をもたらしたのだろうか。帰国後の様子について話を伺ってみた。
Q.)数ある研修制度の中から、どのような経緯でこの研修を知りましたか。また、なぜこの研修制度を選んだのですか。特に、この研修のどのような点に魅力を感じましたか。
A.)幼少期より、私の叔父たちは自身の日本での留学経験についてよく話してくれました。一人はJICAを通じて、もう一人はAOTS(一般財団法人海外産業人材育成協会)を通しての研修だったそうです。ブラジルで生活をしていても私は常に日本文化とのつながりがあり、和食やエンタメ、日本のテクノロジーなど、様々な事柄に関心を持っていました。これらと共に、日常生活、企業文化、そして日系人としてのルーツを体感できるJICAの研修はまさに私の望みを叶えるものでとても魅力的に見えました。特に、私の専門分野である情報技術(IT)に関連した経験を組み合わせて学びに繋げたいと思い、この研修に応募しました。
Q.)研修期間中、文化的な違いや言語の壁など、困難に感じたことはありましたか。もしあれば、どのように乗り越えましたか。その経験からどのような学びを得ましたか。日本に来たことで新たに発見した母国の強みも教えてください。
A.)最も困難に感じたのは、一人で暮らすということでした。幼い頃から常に家族と一緒だったので、家族と離れて暮らすことは当初衝撃的な体験でしたが、研修中に出会ったすべての人から頂いた温かい手助けのおかげですぐに適応することができました。言語に関しては、主に読み書きにおいて苦戦を強いられました。研修先企業で行われる週次・月次レポートの作成や、文書作成が手ごわかったです。しかし、研修期間を過ごすにつれて言語の運用能力も改善していき、間違えたり、文字をうまく書けなかったりといった苦手意識を克服していくことができました。今では、ひらがなとカタカナの基本的な書き方をマスターすることができています。そして、母国を離れたことで、だれでも温かく迎えてくれるよさがブラジルにはあるな、と再認識することもできました。
日々の挑戦の中で、様々な困難を乗り越え、そして日本語スキルも向上させていった。今では基本的なコミュニケーションに困ることはない。常に前を向こうとするその姿勢は技術習得の面においても発揮されていた。
Q.)研修で習得した知識やスキルを、帰国後のご自身の仕事や地域社会での活動にどのように応用していますか。
A.)研修先企業で用いていたウェブサイトのプロトタイピング(試作モデルの作成)とレイアウト作成のスキルを部分的に応用しています。これにより、現在の職場のチーム内で開発しているシステムのデモ版を非常に高い基準で作成することでき、開発を進めるシステムの視覚化を容易にしています。また、地域社会や所属する日系コミュニティでは、研修で学んだことを活かして、非常に古くなってしまっているウェブサイトの更新を行うプロジェクトに参画しています。
Q.)研修で得た学びや経験を、ご自身の周囲の人々や同僚、後輩などにどのように共有していますか。その反応や影響はいかがですか。
A.)研修先企業で開発したウェブサイトや、VRChatという仮想空間で使用が可能な私が作成したキャラクターについてのランディングページ(プロダクト等の紹介に使用される縦長のWebページ)を周りの人に見せています。見せた際の反応はポジティブなものばかりで、興味を持ってくれる人が多く、ゼロからの開発方法について詳しく聞かれることもあります。
Q.)研修全体を振り返って、最も価値があったと感じる点はどのようなところですか。
A.)IT業界の異なる視点や新たな方法を知ったこと、日本の文化や日常生活を肌で体験できたことが非常に有用な経験となりました。今を生きる世代の一員として、このような経験や知識を得ることはとても有益でした。学んだことを忘れることなく将来の世代に伝え続け、日本とブラジルの繋がりを継続していきたいです。また、私と関わりのある日系人と接する中で、自身のルーツに係る活動に参加する人の数が少なくなってきていると感じます。ですので、今後日系研修の応募者が少なくなったり、日本への関心を失ったりしないようにすることがないよう働きかけることも非常に重要であると感じています。
Q.)研修の経験を通して、ご自身の今後のキャリアパスや社会に対する貢献について、新たな目標やビジョンが生まれましたか。
A.)私はSNSやウェブサイトの改善を通じて、ブラジルと日本のコミュニティ間のコミュニケーションを促進したいと思っています。両コミュニティがイベントなどの活動を共有し、双方がよりお互いの活動を知ることができるようにしていきたいです。
彼女のモニターには、日本で培った技術で作成された成果物が映し出されている。二つの文化、二つの言語、二つの視点を持つ彼女だからこそ生み出せる、新しいデジタルの世界がそこにある。
アカミネさんの指先から紡がれるコードは、国境を越え、過去と未来をつなぐ架け橋となっている。
(記:島根県JICAデスク 小波津 チアゴ 明)
研修先での一コマ
帰国してからもJICA研修のOB・OG会に積極的に参加しているそうです
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