【島根県: 帰国研修員のその後】「子どもたちの未来を信じて」ペルーの日系幼稚園から希望をつなぐ教育改革を歩む挑戦



2025.08.01
出雲市の幼稚園での研修を通して学びを深めたホニグマン・ワルキリアさん
JICAでは、日本の地方自治体、大学、公益法人、NGOといった多彩な団体と手を組み、これらの組織から寄せられた提案を基に、日系社会研修員の受け入れを委託する形で、国民参加型の事業を展開しています。この日系研修事業は、中南米地域の日系社会に対する技術協力を通じて、日系コミュニティの繁栄と発展を支え、さらには移住先国の国づくりに貢献することを目指しています。同時に、国民一人ひとりにこれらの事業への積極的な参加を呼びかけ、協力の輪を広げることで、より大きなインパクトを生み出すことを意図しています。
氏名:ホニグマン・ワルキリア
研修コース名: 2024年度 幼児保育・教育
研修期間:2024年10月6日~2025年2月1日
ペルー、リマにある日系幼稚園で、ワルキリアさんは日々幼い子どもたちと向き合っています。その中で、時折入園してくる日本人の子どもたちの姿が、彼女の心に強く残りました。
「自分のことは自分でやる。人を思いやり、物事に順序立てて取り組む。幼いはずなのに、どうしてこんなに成熟しているのだろう」。
その疑問が、彼女を日本の幼児教育への興味を駆り立てました。「もっと深く学びたい。あの自律の背後にある教育の本質を見てみたい」―その想いが、JICA日系サポーター研修参加の動機となりました。
数カ月に及んだ研修は何を彼女にもたらしたのか、2025年2月にペルーに帰国してからの様子や研修を振り返ってもらいました。
Q.) 研修に参加する以前、ご自身の活動や所属する組織において、どのような具体的な課題を認識していましたか。本研修を通して、それらの課題に対してどのような解決策やヒントを得たいと考えていましたか。
A.) 私の勤務している幼稚園に日本人の子どもたちが入園することがあるのですが、とても自律的な子どもたちを目の当たりにして、日本の幼児教育について学びたいと思うようになりました。JICAの研修では、日本の幼児教育のカリキュラムの内容を学び、幼児教育で教員がどのような教育戦略を練っているのかを実際に目にしてみたいと思っていました。
Q.) 研修期間中に参加したプログラムや活動の中で、ご自身の課題意識や期待に最も合致したものは何でしたか。それはどのような内容で、どのように役立ちましたか。
A.) 幼稚園の子どもたちと毎日接し、日々の保育や外国につながる子どもたちのサポートなど、先生たちをサポートするのが私の主な仕事でした。また、レクリエーションの時間には子どもたちに付き添ったりしました。様々な体験、活動、日々のルーティン等、日本の幼児教育の柱を理解し、子どもたちが幼いにもかかわらず、なぜ身体的にも精神的にも律することができているのかを理解することに役立ちました。十分な自律性を獲得するためには、発達の各段階で責任感を抱かせることが重要であり、子どもたちが成長するにつれて、それがより複層的になっていくことを学べました。
Q.) 研修での学びを活かして、ご自身の活動において、具体的な成果や変化はありましたか。もし可能であれば、具体的な事例を用いて説明してください。
A.) ペルーの幼稚園では、子どもたちが自由に遊べる時間は通常1日30分です。私の職場では、それに加えて週に1時間、体を動かす時間(を設けています。子どもたちの年齢では、運動やレクリエーションはとても重要なので、私は年間活動計画に手を加え、理性や身体的な運動を伴う活動に変更しました。これらのアクティビティは、子どもたちに集団として働く能力、計画を立て戦略的に考える能力を目覚めさせるきっかけになっていると感じています。可能な限り私は子どもたちに秩序を重んじ、忍耐強く、そして自律的であるように促しています。
Q.) 研修で学んだ日本の事例や取り組みを、ご自身の国や地域で実践する際に、どのような工夫や調整が必要だと感じましたか。実際に試みている場合、成功している点や課題点があれば教えてください。
A.) 年間計画を変更し、日本のアクティビティを導入し、子どもたちの身体的な活動に要求されるレベルを上げなければいけませんでした。実務的な面では計画を変更するのは私一人であり、明確な目標を提示すればその機会を勤務先の上長より与えてもらえたので、特に複雑な問題はありませんでした。新しく導入されたアクティビティは難しくもあり、楽しくもあり、そのおかげで子どもたちはいろいろな形で努力するようになりました。ペルーの幼児教育ではカリキュラムの目的が異なるため、小学校に上がってもこうした活動を続けられる子どもはまれです。従って私は、運動やレクリエーション等を通して子どもたちの思考力や問題解決能力を目覚めさせるような活動について、保護者に重要な情報を伝えるようにしています。そうすることで、子どもたちが幼稚園を巣立っても、保護者は子どもたちがここで学んだことをエンパワーメントし続けることができると考えています。
研修で得た学びは、帰国後すぐに行動へと結びつきました。ワルキリアさんは、自園の年間活動計画を自ら見直し、日本で学んだアクティビティ等を取り入れ、率先して改善に繋げようと努力していました。
ペルーでの運動会の様子
所属する幼稚園で行われた日系のイベント
ドッジボールも取り入れられているそうです
Q.) 研修で得た学びや経験を活かして、今後、ご自身の所属する組織や地域社会の発展にどのように貢献していきたいと考えていますか。具体的な計画やアイデアがあれば教えてください。
A.) 私の主な目標は今回の学びを応用して、子ども向けの危機管理ワークショップなどのプロジェクトを開発することです。日系団体の施設と支援ネットワークを作り、こうしたワークショップを実施できるようにしたいと考えています。さらに、研修を経て得た知識を他の教員とも共有し、互いに学び合える継続的なトレーニングの場を設けることで、ペルーの教育システムに新たなビジョンを生み出したいと勘案しています。
Q.) 研修の経験を通して、ご自身の今後のキャリアパスや、社会に対する貢献について、新たな目標やビジョンが生まれましたか。それはどのようなものですか。
A.) 日本で地震や火災の訓練を見学した後、子どもたちや私の所属する幼稚園の防災教育にとても興味を持ちました。私は、子どもたちが地震の際に何をすべきかを学べるよう、カリキュラムに体験活動を導入するための情報やアイデアを集めています。私の目標は、私の勤務先で適用できる危機管理計画を作成できるようになることです。また、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもたちは、直接的で明確な方法も用いてこれらの情報を得る必要があります。私は、視覚的な整理ツール、具体的なタスクの手順、社会的規範の画像イメージを使った資料を開発したいと思っています。すべて理解しやすく、話す言語や住んでいる国に関係なく、どんな背景をもつあらゆる子どもが使用できるようにしたいです。
今後、ワルキリアさんは日系団体と連携した危機管理ワークショップや、他の教員と知識を共有する研修の実施も計画しています。
研修で得た知見を、所属園だけでなく、多様なステークホルダーへと広げていく―それが、彼女の次なる挑戦です。
「教育は社会を変える力がある」――そう信じて歩み続けるワルキリアさんのまなざしの先には、子どもたちの明るい未来と、その可能性を支える地域社会の姿が、静かに、けれど力強く描かれていました。
(記:島根県JICAデスク 小波津 チアゴ 明)
御餅つきも体験しました
外国につながる子どもも多い研修先の幼稚園では多言語による読み聞かせも行われました
様々な行事にも積極的に参加されました
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