オンライン交流 “おわらで繋がるパラグ愛!”

2023.10.13

 9月中旬、日系の子どもたちが通うパラグアイのラ・コルメナ日本語学校と、富山市立八尾中学校の生徒がオンライン交流をしました。13時間の時差を超え、両国の生徒が郷土芸能の「おわら」を通じて心を通わせる貴重な体験となりました。

八尾の中学生によるおわら踊りの実演

運動会でおわらを踊る様子

きっかけは1通のメール

 梅雨明け前の初夏、パラグアイで日系社会海外協力隊員として活動している富山県出身の宮村登茂子さん(2022年度7次隊/職種:文化)から1通のメールが届きました。

 そこには、宮村さんが今年4月、日本人移住地のひとつであるラ・コルメナ日本語学校へ赴き、4日間にわたって富山の郷土芸能である「おわら踊り」を児童・生徒たちに教えた日々のことが綴られていました。そして、宮村さんが指導した後も生徒たちが自主的に練習を重ね、8月の大きな運動会で披露する見込みであることも書かれていました。子どもたちが稽古に励む様子の写真も添えられていて、臨場感たっぷり。富山との交流に繋がらないものかと、イメージが膨らみました。

おわらを指導する宮村さん_1

おわらを指導する宮村さん_2

宮村隊員、「おわら」で国際協力

「おわら」は、300年にわたり富山市八尾町に受け継がれてきた秋を伝える行事。哀調を帯びた唄や胡弓の音色にあわせ、石畳の風情ある街並みを踊り子たちが練り歩く。毎年9月1日から3日間に渡り行われる「おわら風の盆」には、その様子を一目見ようとたくさんの観光客が訪れ、町がにぎわう。

 パラグアイにある日本語学校では、これまでも日本文化として一般的に知られるよさこい踊りや和太鼓の演奏などに取り組んできました。日本の伝統に触れることのほか、子どもたちの発達支援も目的とされています。そんな中、ラ・コルメナ日本語学校の金澤克江校長先生たっての要望として、より特色ある「おわら踊り」を教えてほしいと、宮村さんに声がかかったのです。

 それにしても、なぜ「おわら踊り」だったのでしょうか。実は、偶然のご縁があったのです。
金澤校長先生には、かつて宮村さんと同様にJICA海外協力隊としてパラグアイで活動した経験があること、さらに、富山県魚津市に暮らしていた時期があり、日本語教室の立ち上げなどに携わったという“富山つながり”のご縁です。共通点があり、宮村さんは金澤校長先生と意気投合したというわけです。
 富山県出身者であり、かつ教員歴30年以上という経験豊富な宮村さんですが、依頼があった当初は、八尾町の人々にとって宝である「おわら踊り」を、その土地の出身者ではない自分が教えても良いものか、というためらいもあったと聞きます。しかし、そこは一念発起!文献を調べたり、動画サイトを何度も見たりして、おわらの「男踊り」「女踊り」を徹底的に予習。その熱意が子どもたちに伝わったのでしょうか、8月20日に開催された運動会ではしっかりと披露してくれました。

お天気に恵まれた8月20日の運動会

運動会でハイタッチ

 嬉しいことに、この取り組みは運動会だけで終わらなかったのです。おわらの地元・富山市立八尾中学校とのオンライン交流に発展しました。

地球の反対側と「おわら」で繋がる

 八尾地域の子どもたちは、3つ4つの頃から「おわら踊り」の手ほどきを受けて育ちます。手先・足先の所作までを意識した踊りは、中学生といえども立派なものです。そんな生粋の“おわらっ子”たちにとっても、遠く日本の反対側に位置するパラグアイの中学生と「おわら」でコミュニケーションをとるのは初めての体験です。

オンライン交流には、八尾中学校の2年生149人と、ラ・コルメナ日本語学校の中学生4人が参加。はじめにパラグアイから宮村さんの活動報告があり、その後、八尾中学の生徒9人が「おわら踊り」を披露した。

 同じ年頃の日本の子どもと言葉を交わす経験が少ないパラグアイの生徒4人は、少し緊張気味でしたが、おわらの実演を見て、大感激の様子。感想を聞いた時の弾んだ声の調子や身振り手振りのリアクションからそれが伝わってきました。八尾中学校の生徒の1人が「おわらは人生の一部」とコメントしていたことにも刺激を受けたようです。

「おわら」がとりもつ“パラグ愛”

 オンライン交流を終えた今も、お互いの国の文化や観光情報について電子メールを通じて紹介しあうなど、交流が続いています。日本語学校では、今後も学校の行事で「おわら踊り」を披露する機会があるそうで、パラグアイの生徒たちは、八尾の生徒たちの熱い思いを受け継ぎ、これまで以上に大切に踊ると意気込んでいるそうです。宮村さんの、「おわら」を通した“パラグ愛交流”はまだまだ続きそうです!

 JICA日系社会海外協力隊(2022年度7次隊/職種:文化/富山県射水市出身)。31年間にわたり富山県内の高校や特別支援学校に教員として勤務。去年11月よりパラグアイでのボランティア活動を開始し、同国の日本語学校や日系コミュニティを対象に、日本文化を紹介する講習会実施の支援活動等に取り組んでいる。

【ラ・コルメナ日本語学校】
 パラグアイの首都アスンシオンから130km南東に位置する日本語学校。児童・生徒数は合計37人(うち日系31人、非日系6人)。現地の公立学校の多くは全日制ではなく2部制で、児童・生徒は、1日の半分を地元の公立学校で、残りの半分を日本語学校で学ぶ。

【取材後期】
 記事のタイトルにある“パラグ愛”は、宮村隊員のブログ「宮ちゃんのパラグ愛が止まらない(宮村 登茂子) | JICA海外協力隊の世界日記
からお借りしました。絶妙なタイトルですよね!交流会の現場に立ち会い、八尾中学校とラ・コルメナ日本語学校の生徒たちも、「おわら」を通して“パラグ愛”を育んでくれたのではないかと感じています。
 生徒による「おわら踊り」の実演もありましたが、はじめはパソコンの画面上でどこまで表現が伝わるか心配でした。蓋を開けば、大成功。モニター越しに心通わせる様子が見てとれ、感激しました。八尾っ子たちにとっては日常生活の一部である「おわら」。身近なもので世界に触れた今回の体験を、どのように感じ取ってくれたでしょうか。
 日本とつながりのあるパラグアイの皆さんも、いつか八尾町で本場の踊りを体感する機会があったらいいですね。若い中学生の皆さんにとって、今回の“おわら交流”が国際協力や外国との関係を考えるきっかけになったならば幸いです。
JICA富山デスク 金岡紀子

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