【福井県】タンザニアの農業普及に向けて


2025.03.06
タンザニアの稲畑とバオバブとキリマンジャロ
タンザニアで実施している「コメ振興能力強化プロジェクト※」に携わる、3名の行政官が農業普及分野の本邦研修に参加しました。この研修は、日本の農業普及制度について、関係機関による講義や農家等の視察、意見交換を通じて理解を深め、タンザニアの農業普及体制の強化に繋げてもらうことを目的としています。政府が策定した農業普及の計画が、自治体や農業協同組合、生産者までどのように伝わり、各地域において実践されているのか等、日本の農業普及の特徴について理解を深めあうプログラムとなりました。
※コメ振興能力強化プロジェクトについてはこちらからご覧ください。
タンザニア政府にとってコメ生産量の増加は重要な優先課題となっており、日本は1970年代からタンザニアの灌漑稲作技術の向上を支援しています。一方で、タンザニアでは依然として灌漑施設の整備率は低く、コメ生産面積の大部分は収穫量が不安定な天水地域であるため、生産性向上が課題となっており、灌漑稲作技術の研修に加え、天水条件下の稲作技術の普及に取り組む必要があります。
JICAは、この課題に対処するため、これまで稲作技術向上のための研修プログラムを開発・普及してきました。今後、タンザニアでこれら研修プログラムを持続的に展開するためには、農業普及システムの最適化および普及システムを運営するためのリソース確保を行う必要があります。
そのため、今回の研修では日本の農業普及事業の全体像、特徴を理解するとともに、効果的な技術普及に向け、政府や自治体、普及の担い手、生産者の各アクターがどのように連携しているかについて理解するための研修を行いました。
キリマンジャロ農業研修センターが実施する研修の様子
JICA専門家による農業普及に関する現地での研修の様子
研修では、政府や自治体が策定している制度面について一通り理解した後に、JAや農業試験場、生産者を訪ね、普及事業における各アクターの連携をイメージしてもらうプログラム構成としました。
まず初めに、農林水産省や福井県、農業協同組合(JA)からの講義で、日本の農業普及の概論や農業普及制度におけるそれぞれの役割について学びました。特に福井県からの講義では、県内で活動する普及指導員の活動事例を踏まえながら、地域の農業普及における普及指導員の在り方やJAの営農指導員との違いについての説明があり、農業普及システムの中における普及指導員が担う役割について理解する機会となり、また、里山資源を活用したエコツーリズムに関して、農業普及計画と地域振興の一体的な取組みの紹介もありました。
普及指導員と生産者との連携や農業普及と試験研究との繋がりについては、福井農林総合事務所や福井農業試験センターでの講義と圃場見学を通じて学びました。福井県の農業基本計画に基づいた研究内容の設定や、普及指導員やJAと連携した生産者への技術移転における課題について質疑応答を通して理解を深めている様子が伺えました。
また、農家訪問では、生産者の目線から農業普及における自治体やJA、普及指導員との連携についての説明がありました。特に普及指導員との連携について、夏場の酷暑時等における指導員からの手厚いサポートについての言及があり、生産者にとって普及指導員が欠かせない存在であることに理解を深めることができました。
福井県の農園を訪問した際の様子。自治体や農業普及指導員との連携についての説明がありました。
福井県の農業組合を訪問した際に、農家同士の連携や組合の運営についての説明がありました。
研修員からは、政府が掲げる農業政策を基に各自治体がそれぞれの地域に合わせた取組みを展開していることや農業普及の制度面において日本では政府と自治体間での連携が取れており、タンザニアに足りていないものを把握できたといったコメントがありました。また、経営改善に意欲的に取り組む農家を応援する認定農業者制度や普及指導員の育成、指導員の専門性や担当する農家が栽培する品種に応じて各地域に配置されていることなど、効果的な農業普及を行うための体制にも関心が寄せられました。
その他、農業協同組合が実施している営農指導を通じた生産性・所得向上を目指した取り組みや、デジタルやICTを活用し農産物に付加価値をつける取り組みについても新たな学びになったようでした。また、福井県側からもタンザニアにおける農業の担い手育成にはどのような課題があるか?といった質問があり、福井県とタンザニア、双方の取り組みについてお互いに理解を深める機会にもなりました。
今回参加した研修員は農業省や地方自治省に所属しており、タンザニアの農業普及におけるそれぞれの役割は異なります。研修での視察や担当者との意見交換に加え、研修員間での活発な議論を通じ、各省庁の役割に応じた普及計画の発表がありました。
今後のタンザニアでの農業普及に向けて、今回の研修の成果がどのように活かされていくのか、引き続き北陸の地から応援したいと思います。
福井県の農園を訪問した際の様子。福井県庁職員としての勤務経験のある農園代表から、自治体と農家の繋がりについての説明がありました。
農産物の販売店を訪問した際の様子。デジタルやICTを活用した生産物への付加価値をつける取り組みについて学びました。
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