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【富山県】-多様な学びの選択肢を考える- 群馬県教育機関視察リポート

2025.03.18

2025年1月28日(火)~29日(水)、群馬県の教育機関の視察に行ってきました。行き先は、群馬県立太田フレックス高等学校、群馬県立みらい共創中学校、学校法人太田国際学園ぐんま国際アカデミー中高等部の3校です。参加メンバーは、「共創の未来とやま」実行委員のNGOダイバーシティとやま、NPOアレッセ高岡、JICA北陸センターの他、富山県教育委員会、射水市、射水市教育委員会、学校法人荒井学園、(一社)やまどり学園など、異なる教育関連機関からの11名でした。
以下、3校について感想なども交えながら報告します。

(アレッセ高岡 理事長 青木由香)


【群馬県立太田フレックス高等学校】

不登校など多様な生徒を受け入れる定時制・通信制の「フレックススクール」で、定時制468名・通信制416名のうち27.3%が19カ国の外国ルーツの生徒で、うち日本語指導が必要な生徒は76名。今年で創立20周年を迎えるそうですが、最初の5、6年は外国ルーツの生徒をニーズに応じて、計画・体制もない中で受け入れている状況だったとのこと。その後、体制整備のための委員会を立ち上げて検討を続け、去年から群馬県教委の「日本語指導の体制づくり事業」で本格的な支援体制をスタートさせたそうです。
入試には、外国人選抜枠を設け(定員は「若干名」。実績としては去年の受験で17名全員合格)、受験科目は英語・数学・作文のみ。そして、日本語指導が必要な入学者には、特別の教育課程による「日本語基礎」(基本マンツーマンの初期日本語指導)、学校設定科目の「日本語1」(今年度以降「日本語2」「日本語3」と続く予定)が用意されています。県教委の事業の指定校ということで、日本語指導のための教員が1人と日本語指導支援員が派遣されています。

見学させていただいた授業は「日本語1」で、アフガニスタンやミャンマーなどアジアルーツの生徒を中心に8名が参加。授業を担当している佐藤先生いわく、日本語の知識・技能だけでなく「多文化共生」(又は異文化理解)という面を大切にしているとのことで、この日は「節分」について生徒たちは積極的に発言し、冗談も飛び交う明るい雰囲気でした。物おじせずに生徒たちが話し合う様子に、学校内に安心して日本語が話せ、学び合える場所があることは大切だなと思いました。佐藤先生も、生徒たちがぐんぐん日本語力を伸ばしているのを実感されているようです。
日本語以外に、国語や数学でもレベル別の授業を設けられているそうです。この場合、評定は数字としてつかず、文章表記を行なっているとのこと。太田フレックス高校では、同じ授業の名の下にレベルが分かれ、教員ごとに内容や考査そして評価が異なっていても、現時点では問題となっていないようで、それは、元々(日本語指導の必要性の有無に関わらず)同じ教科・科目名の下に先生によって進度や試験の内容、評価の基準が異なっていたという土壌があるからのようです。富山県の高校では、評価の「平等」を理由に、個に応じた指導や配慮が進まないことが散見されるので、このような評価のあり方がぜひ広まってほしいと思いました。

正規の授業の他にも、NPOとの連携で「学習クラブ」という放課後補習も行なっているそうです。校長先生も(外国ルーツの生徒のサポートを)「学校だけでは決してできない」とおっしゃっていて、連携を大切にされているのが伝わってきました。

【群馬県立みらい共創中学校】

今年度(2024年)4月に開校したばかりの夜間中学です。現時点で生徒数67名。ペルー、ブラジル、フィリピン、パキスタン等14カ国からの外国ルーツの生徒が全体の8割超で、約半数が日本語指導を必要としています。入学相談会などで「ここは日本語学校ではない」と説明しているので、設立当初はここまで日本語指導が必要な生徒が多くなるとは想定していなかったそうです。このため、結果として教員ほぼ全員体制(管理職も含めると総教員数は16名)で日本語指導にあたっているとのこと。また、通訳としての母語支援員3名も各言語週1で配置されています。特別の教育課程による日本語指導のほか、国語・数学・英語はレベル別の4クラスに分かれて学習する形になっているそうです。

土足で入れる広いフロアに、少人数指導のための小部屋(日本語指導に使用)が4〜5つと広めのスペース3つがあり、それぞれ完全には仕切られないオープン型。同じフロアに雑談や相談などに使えるテーブル&椅子もいくつか用意され、全体的に明るく開放的な雰囲気でした(そういった雰囲気づくりにデザイナーさんの工夫も貢献しているよう)。見学した1~2校時は、主に小部屋で日本語指導、広めのスペースで国語の指導が行われていました(全ての小部屋・スペースがフル稼働でした)。

富山県の教育現場では、日本語指導は担当者や相談員に丸投げされ、ブラックボックス化していることが多いと感じているのですが、みらい共創中では、教員ほぼ全員で日本語の授業を担当するので生徒の情報も学習内容も随時共有されているそうです。先生方は特に日本語指導の経験や資格があるわけではないそうですが、授業にも色々な手作りの教材・教具が利用されていて、創意工夫されているのがよくわかりました。通常の中学校ではなく夜間中学校ということで、時間的に教員同士の情報共有や相談をしやすいという面もあるようです。
授業では、やさしい日本語での授業や教師の発話をリアルタイムで翻訳するアプリ(GoogleMeet)も活用。日本語だけでなく国語の授業でも、常に先生方は板書の漢字に仮名を振るなど、配慮されていました(そういう取り決めがあるというわけではなく、自然発生的にそうなっているそうです)。結果的にユニバーサルデザインな授業になっていて、一緒に学ぶ日本人で学びに困難を抱えている生徒にも恩恵があるのではないかと思いました。ここまで個に応じた配慮をしている校長先生の「日本人だから/外国人だからといった違いを感じていない」という言葉が印象的でした。
生徒の年代は10〜70代まで幅広く、個人的にお話できた40-50代(?)のブラジル人生徒は、ブラジルで数学・物理の博士号も取得した方。国語の古典「竹取物語」の授業を真剣に受けていました。彼女にとって夜間中学での学びは、学歴取得のためではまずありませんし、日本語習得のためだけでもありません。夜間中学は、人間としての尊厳を守る場でもあると思いました。

【ぐんま国際アカデミー(GKA)】

小泉内閣(当時)構造改革の英語教育特区校として、2005年に初等部、2008年に中等部、2011年に高等部が開校。2011年に国際バカロレア(IB)ワールドスクール認定を受け、中等部・高等部でIBプログラムが展開されています。主な生徒は日本人で、帰国子女が多いですが、一部日本語が弱い生徒や外国人生徒(教員の子どもなど)もおり、L2(第二言語)としての国語(日本語)のクラスも設けているそうです。いわゆる一般のインターナショナルスクールと大きく違うのは、日本の一条校(学校教育法で認められた学校)でもあり、しっかり「国語」をやっているというところ。「グローバルと言っても、足がどこについているのか、民族・文化を消すのではなく、民族・文化を語り合うことが大事」という校長先生の言葉が印象的でした。もう一つの特徴として、太田市の清水市長が理事長を務め、太田市の全面バックアップを受けており(ただ、市から特別な金銭的補助等は受けていない)、企業からの献金も多いことから、授業料等が本来より安く設定されていることも挙げられます。

中等部89名、高等部64名、1クラス10〜20名前後で、私たちは中1〜3の理科、社会、音楽、英語、高1の化学の授業を見学しましたが、社会をのぞいて全て英語で授業が行われていました。英語でも日本語でも、「問題提起→リサーチ→ディスカッション→プレゼン→ディスカッション→論文作成」と展開していくアクティブ・ラーニングが行われています。私たちが見たのはその学習の展開から切り取った一部分だけではありますが、生徒たちがそれぞれに問いを立てて夢中になってリサーチしている様子や、グループで教えあったり、ディスカッションの内容をプレゼンしたりしている様子から、生徒たちが思考を積み重ねてきた上に現在の学習活動があるということはしっかり伝わってきました。
教職員は日本人以外にも、欧米・アジア・中南米、アフリカ等19カ国から集まっています。IBの理念を理解し、アクティブ・ラーニングの授業を展開できる教員というと人材確保が難しそうですが、近年はGKAが確立してきたネームバリューもあって、ネット公募で多くの応募があるとのこと。外国人教員にとっては昨今の円安で給与が目減りしていますが、「日本が好き」という理由で熱意を持って働き続けてくれているし、最近応募してくる日本人の先生もIBのことをよく理解した上で「IBがやりたい」という思いで来てくれるそうで、今では学校全体に「IBフィロソフィー」が浸透しているそうです。

しかし、ここまで来るには本当に困難な道のりだったようです。設立から今日まで、進学実績を重視する保護者や地域、そして内部の日本人教員からも、たくさんの反対や戸惑いがあり、それを乗り越えてきたと。「人はわからないものには反発するもの。新しいことをやろうとすれば、反発されるのは仕方がないこと」と校長先生。また、IBはテンプレートとして学校のOSにインストールしてしまうことが重要で、部分的に「IB的要素」を取り入れてもIBの本質は理解されないともおっしゃっていました。

校長先生はIBの価値を強く確信していらっしゃいます。その背景として、偏差値教育への疑問を語ってくださいました。なんと、群馬県でニートになる人の率が高い出身校はトップ進学校3校だったそう。IBには学びの土台となる非認知スキルの習得も含まれているが、土台のないところに家を建てても崩れる。この土台を築かない偏差値教育が進学校出身者のニート率の高さにつながっていると。「一生を通して学び続けることがライフロング・ハピネスであり、学び続ける力を身につけるのはもちろん、学びとは喜びであることを生徒に感じてほしい」という校長先生の言葉も印象に残りました。校長先生とのやりとりの中で、現代は、教育で非認知能力を十分育てないまま、そして、不寛容な社会を放置したままで、その結果傷ついた人をケアするといった後手後手の対応に多くの予算を使っているような気がしますが(もちろんケアは大事ですけど)、そもそもそういった社会でも生き抜く力を身につけるような教育を行うこと自体にもっと予算をあてるべきと思いました。

以上、3校についてのまとめと青木の感想でした。どの学校も富山県にはない学びの場であり、「こんな学校が富山にもあったら…」と強く強く思いました。

最後に、視察の内容ではありませんが、この視察自体の価値について。視察校での意見交換の時間や、電車や徒歩での移動時、食事時間など、参加者同士で色々な話がざっくばらんにできました。県教委や射水市・市教委、私立高校のトップの人たちと、民間の教育関係者(一般市民)が肩を並べてともに視察をする・・・それが実現したこと自体が今回の一番の大きな意義ではないかと個人的には思っています。外国ルーツの子ども・若者の教育について各ステークホルダーが立場を越えてともに考えていく、ようやく本当のスタートラインに立てたような気がしています。コーディネートしてくださったJICA北陸の皆様、協力してくださったJICA高崎分室の皆様、そして夜間中学見学後の夕食会に飛び入り参加してくださったブラジル人の小学校教員である坂本裕美さんに心から感謝いたします。(富山県も、外国人教員の採用を積極的に行ってくれたらいいのに!)

視察メンバーからのご感想

■射水市教育委員会教育長 金谷真さん

先日は、JICA北陸の皆様をはじめ、多くの方々のご配慮により、貴重な視察に参加させていただいたことを、大変感謝しております。「ところ変われば・・・。」ではありませんが、富山県にいるだけでは知ることができない体制やものの見方に触れることができ、有意義な時間を過ごさせていただきました。
県立学校における外国籍生徒の受け入れについては、入試においても、日本語を十分に理解していない生徒に対して配慮されており、子ども達が幅広く進路選択できる可能性を感じました。外国籍児童生徒が多く在籍している本市の状況を顧みるに、中学校段階での学びへの高い意欲づくりにつながると思いました。本県においても、対応が進むことを願います。
また、高校生以上の年代であっても、日本語が堪能でなく日本語指導を必要としている生徒に対しては、日本の文化や行事も取り入れた生活に密着した手作りの日本語教材を活用した指導に加え、取り出し指導(在籍学級以外の教室で指導を行うこと)も並行して実施されており、外国籍の方も貴重な人材として捉えられていると感じました。
私立小中高一貫校では、課題設定・探究・課題解決のサイクルを通して、学びを深めることができる人材の育成、さらには、身に付けた力を世界で発揮できる英語力の獲得を念頭に、小中高12年間を通した教育が実践されていました。公立学校を所管している我が身としては、全てを真似ることは難しくも感じましたが、VUCA*時代を生きていく今の児童生徒には、「的確に課題を設定する力」、「適切な手段で課題解決する力」、「自らの考えを表現する力(日本語であっても)」の獲得が必要であり、そういった資質・能力を育成する教育の実践の重要性を、改めて肝に銘じた次第です。
今回、いろいろな立場の方々とご一緒する機会に恵まれ、視察の合間においても、様々な刺激をいただきました。今後の本市教育行政につないでいきたいと思っています。本当に、ありがとうございました。

射水市教育委員会 金谷 真

* VUCAとは「Volatility:変動性」、「Uncertainty:不確実性」、「Complexity:複雑性」、「Ambiguity:曖昧性」の4つの単語の頭文字


■学校法人荒井学園 理事長 荒井公浩さん

太田フレックス、みらい共創中学校、そしてぐんま国際アカデミー。これらはいずれも富山県にはないタイプの学校で、このことからも富山県の教育にはもう少し多様性があってもよいのでは、と感じました。

太田フレックスについては、各県の事情による部分もありますが、外国籍の生徒の受け入れとは別の視点でも、いわゆる学力下位層向けの学校が私立ではなく県立である点が特徴的で、思い切った取り組みだと感じました。現在、富山県で最も多くの外国籍の生徒を受け入れているのは高岡向陵ですが、これ以上の受け入れは、運営が私企業である私立校にとって難しいのが現実です。もし富山県が外国籍の生徒の受け入れを積極的に進めるのであれば、公立校が私立校に依存するのではなく、公立と私立といった枠組みを外し、協力して対応していく仕組みが必要ではないかと思います。

夜間中学については、富山県でも比較的早く開校されそうですが、どの地域に設置するかが重要なポイントになりそうです。また、富山県には「県立中学」というカテゴリーがないため、県教育委員会内での位置づけの整理に時間がかかる可能性もありそうです。

ぐんま国際アカデミーについては、「本気のIB」を実践していると感じました。富山県にもぜひこのような学校があればと思いますが、IBの導入には多くの時間と手間がかかるため、いきなりフルIBを目指すのではなく、「IBの理念を取り入れた」学校から始めるのも良いのではないかと思います。ただ、ウエブサイトの財務諸表を見ると、授業料は高いものの、それに見合う人件費もかかっており、経営的にはかなり厳しい状況であることがわかりました。私立で運営する場合は、相当高い授業料を設定しないと成り立たない可能性があるため、慎重な検討が必要だと感じました。


■一般社団法人やまどり学園 理事 土井一幸さん

*群馬県立太田フレックス高等学校 (日本語課程対応)
外国人学習者をサポートする日本語教師チームの構成を、日本語プロパーの教師のみならず各科目の教員でしていることに先進性を感じた。

*群馬県立みらい共創中学校 (夜間中学)
中学卒業後に高校進学を一時保留する場合(中学浪人など)の選択肢にもなり得るところに、15歳の選択肢を柔軟に拡げていると感じた。また、校舎の内装をデザイナーに依頼して使いやすくしているところも生きたお金の使い方をしていると感じた。多種多様な年齢層、国籍の方に重宝されていることが実績の数字や現場の様子からよく伝わった。

*ぐんま国際アカデミー中等部・高等部 (国際バカロレア認定校)
英語イマージョンプログラムについて金子校長が説明された「英語が使えるだけでは意味がなく、話すための中身があって初めて英語はコミュニケーションの道具となる。そのため本校では日本文化などの学習にも力を入れている。単に形だけイマージョンと言っても意味がない。」という点が印象的であった。また、世界標準ではあるが日本の学校ではまだまだ馴染みがない Critical Thinking を重視している点も、参考になった。

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