JICA日系社会研修員へのインタビュー
2026.07.10
文責:社会基盤部 塩谷稀一郎
今年も、JICAの新人職員4名が、JICA北陸で研修(国内OJT)を行いました。
国内OJTは、新人職員が、国内の多様な国際協力パートナーの存在と、地域と途上国の結節点としての国内機関の役割について理解を深めるために実施している研修です。
今回、私は、北陸地域で日系社会研修に参加している研修員にインタビューを行いましたので、その内容をご紹介します。
宮部デニーゼさん(以下、デニーゼさん)は、ブラジル出身の日系人で、現在はフリーランスとして活動しながらロンドリーナ州立大学大学院の教育学博士課程に在籍し、日系コミュニティにおける幼児教育について研究しています。
これまで企業で幼児向け教材の制作に携わってきた経験を持ち、現在は特に日系の子どもたちに向けた教育の在り方に強い関心を寄せています。来日は今回が2回目です。前回は浜松に滞在し、日系コミュニティの支援や教育現場に関わる中で、その実態を現地で見てきました。
デニーゼさんは今回、金沢大学で実施されている「日系アイデンティティ涵養・日系史教材作成演習」という日系社会研修に参加しました。研修の地として石川県を選んだ理由は、金沢が工芸やアートの街として名高く日本文化そのものに深く触れられる環境であること、また日系アイデンティティの継承を重視する金沢大学国際日本研究教育センターの教育方針に共感したからです。
研修では金沢大学附属幼稚園を定期的に訪問し、日本の幼児教育の現場に触れながら、実際に使われている教材や幼稚園教諭の指導方法を観察しています。また、金沢大学国際日本教育研究センターにおいて、指導教官の太田亨教授をはじめとする教員から、日本語・日本文化・文学・思想・礼儀といった幅広い分野を横断的に学び、教材開発に向けた知見を深めています。
もともと日本文学の研究にも携わってきたデニーゼさんは、日本文化への関心が高く、特に日本思想や礼儀に関する講義が印象に残ったといいます。漫画やアニメを通じて得ていた知識を講義で補完し、日本人の価値観の背景にある考え方を体系的に理解できたことが、大きな学びとなったそうです。
さらに、金沢が誇る鈴木大拙館、金沢能楽美術館、金沢21世紀美術館、国立工芸館、金沢市立安江金箔工芸館、金沢湯涌江戸村の視察に加え、能登半島を巡るなど、日本・金沢の文化を多面的に体験し、充実した日々を過ごしているそうです。
加賀百万石の金沢の文化的な豊かさが、地域のあらゆる場所で適切に保存され、日本文化として根付いている様子は、デニーゼさんの研究や教材づくりに新たな視点を与えています。
JICA北陸で実施した日系社会研修の中間報告(左:金沢大学・太田亨教授、中央:デニーゼさん、右:JICA北陸・池職員
日系社会研修の経験を活かし、デニーゼさんは日系アイデンティティを育む幼児向け教材の開発に取り組みたいと考えています。ブラジルでは日系幼児向けの教材が非常に少なく、既存のものも古いことが課題となっています。そのため、「学ぶ」というよりも「自然に身につく」ことを重視し、語りを軸に音楽や遊びを取り入れた教材を構想しています。
子どもたちが楽しみながら文化や価値観に触れられることを大切にしており、日系の子どもだけでなく、広くブラジルの子どもたちにも日本文化を伝えることを目指しています。
また、日系コミュニティのつながりが課題となる中で、日系三世・四世といった次世代にどのように日本との結びつきを感じてもらうかも大きなテーマです。将来的には、開発した教材を教育現場で取り入れるべく、行政に提案することも視野に入れています。日本文化の本質をどのように子どもたちに届けるかを模索する今回の経験は、ブラジルの教育現場への応用に向けた重要な一歩となっていることを強く感じたインタビューでした。
JICA北陸での記念写真(左:デニーゼさん、右:太田教授)