【富山県】\地域社会には互いを知る場づくりが大切!/「共創の未来とやま」第1回セミナー報告
2024.09.13
去る8月23日(金)、富山県射水市にて共創の未来第1回セミナー「外国人住民がもっと地域に溶け込み、地域で活躍してもらうためには?」を開催しました。日本人にとっても外国籍の人々にとっても“暮らしやすい地域”をつくるために必要なことを、自治体、外国人コミュニティ、地域振興会、学生といった分野の異なる登壇者のみなさんと考える機会となりました。共創の未来コアメンバーのひとりで、本セミナーの企画を担当したNGOダイバーシティとやまの宮田妙子さんによる実施リポートをご紹介します。
宮田妙子さん セミナーでは司会を担当
8月23日、「誰もが個人として尊重される地域社会の実現」を掲げる「共創の未来 とやま」(実行委員会:NPO法人富山国際学院、NPO法人アレッセ高岡、㈱村尾地研、JICA北陸センター)によるセミナーを開催した。第1回目のセミナーは、「地域・市民社会:外国人住民がもっと地域に溶け込み、地域で活躍してもらうためには?」ということをテーマとして、第1部は福井県の先進的な取り組みについての講演、第2部では射水市で多文化共生のために活躍する方々によるディスカッションを行った。以下、概要の報告を行う
地域の外国人住民を参画主体とした「外国人コミュニティ・リーダー(以下CLという)制度」を福井県内で展開されている(公財)福井県国際交流協会の飯田隼人氏の基調講演。飯田氏は、制度立ち上げ以降、さまざまな紆余曲折や立ち行かない場面に直面しながらも、各CLが動きやすいフィールドづくりに尽力。現在では、CLたちは県や市が発信する情報をそれぞれの同胞コミュニティにSNSで流すだけではなく、自らが能動的に情報を集め、それをSNS発信することが習慣化している。CLが自発的な活動を行い、県や市に依存した状態からは脱しつつある。そのようなCLたちの自主的活動は、能登半島地震の際にも活かされ、発災後20分でCLが電話会議を始め、安否確認を行う等、被災地の外国人住民に対して情報を素早く伝達して、記録には残らないが大切な被災地支援を行ったことにも表れている。飯田氏の講演は、地域住民としての外国人が地域で活躍している事例として、私たち富山・射水の地域に対しても大変有益な内容であった。
外国人住民、行政、自治会、学生等、多様な主体によるパネルディスカッションを行った。私は、富山・射水の地域・市民社会における異なる立ち位置の人に登壇してもらうことで、さまざまな角度から外国人住民の活躍、地域の活性化等の視点を見出せるのではないかとの考えに基づいてプログラムを構成した。
ファシリテーターは、全国で多文化共生関連の研修を行い、各地の事情に精通しているNGOダイバーシティとやま事務局長の柴垣禎氏。パネリストは、第1部で登壇した飯田氏に加えて、次の方々。
① NPO法人富山国際社会団体のナワブ・アリさん
地域でさまざまなボランティア活動を展開し、能登半島地震での支援活動も行っている。
② 合同会社「ダンダン」代表のグエン・タン・ダンさん
富山県に留学し、卒業後に技能実習生等の生活支援を行う同社を起業。
③ 射水市市民生活部市民活躍・文化課交流促進係長の山崎綾子さん
射水市における国際交流・多文化共生にかかわる事業の担当者。
④ 太閤山地域振興会長の森田正範さん
地域で外国人の子どもの居場所を提供し、高齢者や障害者との交流も積極的に推進している。
⑤ 富山大学国際医療研究会の宮澤正咲さん
医療的な側面から外国人のサポートを展開している。
パネラーからは、「漫然と従来型のイベントを繰り返しても地域は活性化しない」、「コロナ禍を経て視点を真逆に移すことが出来て活性化した」、「日本人が当たり前と思っていることは、そうではなくて新鮮なことだと気付かされた」、「外国人ならではの視点を持つことで、地域の見え方や今後のあり方も変化していきそう」等といった意見があった。
現役医大生の宮澤氏は、多文化共生に必要なキーワードは、「ご近所とのつながり」であると述べた。「PTAの古紙回収って何曜日ですか」「古紙回収とPTAの関係がわかりません」「整理券ってなんですか」云々といったような疑問は、行政や企業が特別に介入すべきことではなく、ご近所のつながりのなかで解消されていくものだという。また、「知らないことを知るって楽しい!へー、知らなかった!おもしろい!」と、多文化共生を面白いもの、楽しいものという気持ちを大切にしていきたい、と。
パキスタン人のアリ氏、ベトナム人のダン氏はそれぞれで、自分が暮らす町内で近所の人と関係を築いて来た。
アリ氏は富山に来たばかりの30年前は近所の人と今のように仲良かったわけではない。当時は、外国人が増えると犯罪も増えるのではないかと懸念する人がいれば、ゴミの出し方について指摘する人もいた。しかし、アリ氏は、地域住民としてともに防犯パトロールを行ったり、側溝の清掃に参加したり、新たにパキスタンから引っ越してきた人には対しては、ウルドゥ語でゴミの出し方を説明するチラシを作って町内会長と一緒に配りに行ったり、地道な積み重ねで「ご近所」の関係を紡いできた。今では町内で頼られる存在になったアリ氏は、外国人住民としての自治会長的な役割を担っている。ダン氏も近所の人を招いてホームパーティをしたり、学校の行事には積極的に参加したり、「ご近所」とのつながりをとても大切にしてきている。
太閤山地域振興会の森田氏は、会の柱に「多文化共生」を掲げている。でもそれは外国人との共生だけではなく、地域に住む障害者、高齢者、子どもたち、みんなひっくるめての多世代で多様な背景を持つ人たちとの共生なのだと。射水市の山崎氏は行政として、もっとやれることはないか、外国人キーパーソンの皆さんへの働きかけ、地域振興会への働きかけをこれからもっとやっていきたいと前向きな姿勢を持っている。射水市の未来に期待を持たせる存在だ。
外国人住民との間のコミュニケーションに限らず、なぜ、日本の地域社会は全体として不活性化しているのか。自治会は「外国人住民とは接点がない」云々や、行政機関は「外国人住民が増えることにより情報伝達が難しくなる」「コストや時間がかかる」等のことが各地で一様に報告されている。人の多様性に対応していくダイバーシティや多文化共生は、スローガンやキャッチコピーとしては、とてもわかりやすく、誰もが同意するところかと思う。しかしながら、いざ、実践となると、なかなか難しい場面も多く出てくるのも事実としてある。当たり前だからこそ難しい。しかしながら、今回登壇したパネラーからは、通り一辺倒ではない多くのヒントが内在している意見が相次いだ。これは、現に外国人住民が射水(富山)の地域内で活躍し、共生が進展してきている証左といえる。ひとりひとりが「この地域で支え合い、共に暮らす住民」として自ら実践されているのがとても印象的であった。
しかし、県内においても、そうでない地域もまだまだたくさんあり、日本人と外国人住民の間に見えない壁ができているという現状も残念ながらある。そこにどう踏み込んでいくのか。それには、やはり少しずつでもお互いを知ることから始める、という地道な方法が結局はいちばん早くて確実なのではないかと認識させられた。外国人住民が日本のルールや文化を知ることが大切というのはよく言われることではあるが、私たち日本人も外国人住民のことを知るのはとても大切だと思う。それは文化や習慣だけではない。例えば、富山県の2024年上半期の輸出総額は1,401億円。そのうち中古車の輸出額は435億円、全輸出額の3割を占める。その大半に関わっているのが射水に住む外国人住民である。つまり、それは彼らが富山経済に貢献し、多くの税金を納めているということである。いったい、我々富山県民のうち、どれほどの人がこの事実を知っているだろうか。このことは一例に過ぎないが、そうしたことも含めてお互いを知る、そして身近なご近所さんのつきあいから始める、それが地域社会に外国人住民が増えていく時のキーワードになるのではないかと思う。
今回のセミナーの第3部では、能登の被災地の炊き出しでも大好評だったパキスタンカレーを食べながら、来場した皆さんと一緒に意見交換会を行った。その場でも「富山に来てエジプトの人に初めて会いました!」「えー?そうなの?知らなかった!」「今度一緒に料理しましょう」等々さまざまな声が飛び交っていた。
「共創の未来とやま」の実行委員会や私が代表を務めるNGO「ダイバーシティとやま」が大切にすべきポイントは、互いを知る第一歩の潤滑油的役割を担うことではないかと思う。まず知ってもらう、そしてそこで気づいた「あれ?」やモヤモヤを話し合う場を提供する。今後とも、こうしたことを推進していきたい。
そして、前述の富大生の宮澤氏は、「知らないことを知るって楽しい!へー、知らなかった!おもしろい!」と、多文化共生を面白いもの、楽しいものという気持ちを大切にしていきたい、と。ややもすれば、ついつい保守的な人々が忘れがちなことを改めて考えさせられるパネルディスカッションとなった。「あ、そうだよね、出発点はそこだよね」という視点を思い出させてくれる有意義な時間となった。
NGOダイバーシティとやま代表理事 宮田妙子
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