ラオスの早期結婚・早期出産に立ち向かう 琉球大学の挑戦
2025.03.31
琉球大学は草の根技術協力事業「貧困僻地郡における女性のエンパワーメントによる母子保健強化プロジェクト」をラオス国サワンナケート県セポン郡で実施しています。今回、現地で行われている男女ペアによる「村落保健ボランティア」の活動や、小中学生に向けた早期結婚・早期出産を防ぐための活動にJICAラオス事務所から同行しました。
サワンナケート県セポン郡では、出産時等における母子の死亡率が依然高い状態にあります。この状況を改善するため、本プロジェクトでは、男女ペアの「村落保健ボランティア」が巡回活動し、母子を取り巻く保健環境の改善に取り組んでいます。ラオスでは一般的に女性が村落保健ボランティアになることが多いですが、セポン郡では、女性が十分な教育を受けられない環境があることから、ほとんどの村落保健ボランティアが男性です。しかし、文化的に男性が妊産婦に直接話しを聞いたりすることは難しく、これまで母子に対してボランティアが効果的に関わることは困難でした。本プロジェクトを通じて女性の村落保健ボランティアを育成することで、既存の男性ボランティアと男女ペアを作り、妊産婦との対話が円滑にできるようになりました。
今回は、セポン郡ケンペーニャイ村を訪問し、村落保健ボランティアのタプアンさんとアーミアンさんの活動に同行しました。2人のボランティアは、生後3か月の子どものいる夫婦を訪問して、アーミアンさんからイラストの入ったカード使いながら「少しでも具合が悪くなったらヘルスセンターなどに行きましょう」「授乳するまえに手を洗いましょう」「バランスの良い食事を心がけましょう」などの説明を行いました。また、タプアンさんからは夫に対して、妻と子どもをしっかりケアをして、何かあればすぐに病院に連れて行くように伝えました。男女のボランティアで訪問することで、夫婦両方に話を聞いてもらう環境が作れるようになっています。
タプアンさんは次のように話してくれました。
「村落保健ボランティアになって約15年になります。マラリアの予防や母子保健に関する活動を行ってきています。今回、琉球大学のプロジェクトが始まり女性であるアーミアンさんも村落保健ボランティアに任命をされ、一緒に活動をすることができるようになりました。女性ボランティアを通して、女性には以前よりも多くのことを伝えることができるようになりました。男女のペアで活動をすることにより、母子保健のより良い活動ができるようになったと考えています」
このように男女ペアで活動を行うことができるようになり、これまで男性の村落保健ボランティア自身がなかなか難しいと考えていた、女性への支援も行うことができるようになりました。
プロジェクトでは今後、成果をあげている女性村落保健ボランティアを生かして早期結婚や早期出産を防ぐための活動を行っていきます。ただし保健セクターだけで解決できる課題でないため、今回、保健関係者に加えてラオス国立大学やサワンナケート教員養成校、セポン郡教育事務所などの教育関係者も集まり、どのような活動ができるか話し合いを行いました。
サワンナケート県セポン郡では、地域によっては10歳で結婚、12歳で出産する女性もおり、多くの女性が15歳になると子どもがいます。低年齢での結婚は将来の進学・就職の機会を狭めることになるだけでなく、母子の健康にも影響を与えます。
このような問題に取り組むために小学校5年生と中等学校(注)の1年生から6年生、そして学校に行っていない若者を対象にワークショップ等をすることとし、対象の地域も決定しました。対象地域の中等学校に出向いてワークショップの説明を行い、プロジェクトへの参加を快諾いただいています。さらに現在ラオス政府が力をいれているインフォーマル教育(学校からドロップアウトした子供達への教育)や、地域ヘルスセンタースタッフと村落女性ボランティアからの教育、村落のなかでのピア教育など、様々なアプローチを融合させていく予定です。
(注)ラオスの中等学校は、日本の中学校と高校が一体になった、中高一貫校のような学校です
今後プロジェクトでは、今までラオス各地でバラバラに行われていた戦略をあわせた、少数民族の住む貧困僻地でのモデルケースを作っていきます。ラオスには、サワンナケート県セポン郡以外にも同じような問題を抱える地域は多くあります。琉球大学保健学研究科はラオス保健省熱帯公衆衛生研究所、サバナケット県とともにそのアプローチを科学的に評価し、村落女性ボランティアの育成の効果を中央政府に示すことで国の政策としてとりあげられるにいたっています。今後は児童婚対策についても、本プロジェクトの知見をラオスの他の地域にも広げられるアプローチとして政策提言することを狙います。
沖縄発の母子保健分野での協力が、ラオスの未来を明るくすることを願っています。
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