JICA沖縄で2週間のうりずんインターシップ受入を行いました!その3:沖縄から広がる平和協力の輪
2026.03.05
JICAは、沖縄県内の自治体や地域のNGO・企業・大学など様々な団体と共に、団体がこれまで培ってきた経験や技術を活かして開発途上国の課題解決に取り組む、「草の根技術協力事業」を行っています。
その中で今回は、カンボジアにおける平和博物館の人材育成プロジェクト「地雷対策を通した平和と人間の安全保障の啓発・普及のための博物館づくり」について取り上げます。プロジェクトを実施している特定非営利活動法人沖縄平和協力センター(OPAC)理事長の仲泊和枝さんと、長年沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)や平和祈念資料館の展示企画や文化財調査に携わってきた、沖縄県文化協会事務局長の園原謙さんにインターン生がお話を伺いました。
トゥールスレン虐殺博物館のニサイ館長と(右:仲泊さん、左:園原さん)
沖縄県のカンボジアでの博物館づくり協力は、プノンペンにあるトゥールスレン虐殺博物館から始まりました。同博物館はかつてポル・ポト政権下で数万の人々を収監し、拷問した建物をそのまま活用しており、沖縄県の協力が始まる前の展示は、展示資料の説明も十分でなかったり、主体的な展示活動や調査研究、また施設管理のビジョンがありませんでした。そこで沖縄がこれまで沖縄戦の実相を継承してきた経験や、平和祈念資料館設立に奔走した際の経験を活かし、カンボジアでどうカンボジアの人々に寄り添った平和発信をしていくべきか、資料の展示や保存方法、体験者の聞き取り調査や学校と連携した平和学習の取り組み方をはじめ、「平和博物館」としてのビジョンづくりについて指導しました。
その結果、博物館の施設拡充や資料の整備が進み、来館者からも「平和の大切さを実感した」という声が増えるなど、博物館としての発信力が高まりました。この成功が沖縄とカンボジアの間の信頼関係構築につながり、後のカンボジア地雷対策センター(Cambodia Mine Action Centre・CMAC)との平和博物館づくりプロジェクトへと発展していくことになります。
トゥールスレン虐殺博物館ではプロジェクトの成果として合同の企画展を開催
カンボジア地雷対策センター(CMAC)は、ポル・ポト政権下の内戦で国中に敷設された地雷を除去する専門機関として、1992年に設立されました。CMACは地雷除去の技術経験は豊富ですが、博物館展示や平和学習といった平和発信については、まだまだ課題を抱えています。
そこで平和祈念資料館をはじめとする沖縄県とOPACが、その経験と技術を活かし、2023年10月からJICAの支援を得て平和博物館づくりに取り組む草の根技術協力事業を開始しました。この沖縄とのプロジェクトを通じ、CMACは地雷をきっかけに「平和と人間の安全保障」について知り・考えてもらうことを目指しています。具体的には、地雷除去の成果を示すだけではなくカンボジア内戦の記憶や平和の大切さを伝えられるような平和博物館の設立・運営、平和博物館を拠点としてCMAC職員たちが平和学習を行えるようになることを目指します。平和博物館を通じた地域住民や子どもたちへの地雷脅威の伝達や平和教育の普及に、沖縄が培ってきた博物館づくりの経験が活かされています。
知念小学校(沖縄県南城市)ではCMAC職員たちが平和教育を実践
インターン生:
園原さんは平和祈記念資料館や沖縄県立博物館・美術館でのご経験を活かして、カンボジアの平和博物館にどのような技術指導を行っているのですか。
園原さん:
「私たちのプロジェクトが始まる前、CMACが設立した平和博物館には学芸員や展示発信の専門家が不在で、展示内容も武器をただ並べるなど軍事的視点に偏っていたため、内戦後地雷や不発弾に国土が汚染された人々の平和を願う主旨が伝わりにくい状況でした。そこで沖縄における住民視点での証言展示の手法を紹介するなど、カンボジアの人々が平和を願う想いを来館者に伝え・感じてもらうような手法を提案し、一緒に実践しました。また資料の保存技術といった学芸員が心得ておくべき技術の共有、さらに平和教育を普及させるための活動やユニバーサルスタンダードの「平和博物館」のあり方についても指導を行っています」
インターン生:
仲泊さんは、トゥールスレン博物館でのご経験を活かし、平和博物館づくりのプロジェクトにどのように関わっているのですか。
仲泊さん:
「私は主に沖縄県とCMACとの間の連絡や、平和博物館づくりのプロジェクトが計画通りに進むよう調整支援を行うことで、CMACが平和博物館全体として来館者にどう平和を伝えるのか、何を伝えたいのかという目標を常に明確化し、その想いを展示や活動に具現化していけるようサポートしています」
インターン生:
これまで国際協力を行う中で、苦労したことや、やりがいを感じたことはありますか。
園原さん:
「博物館の来訪者に平和を願う想いをいかに届けるべきか、展示構成の構想を練る中で、どうしても沖縄側とカンボジア側の視点の違いにぶつかることが多々ありました。その調整やすり合わせの作業は難しく、大きな苦労のひとつでした。例えば、武器の展示ひとつをとっても、沖縄では住民視点で沖縄戦を語る上で武器は軍隊の用具のため展示資料として不適切ですが、カンボジアでは命がけで地雷を処理し、再利用したり無力化した武器の展示は、『アンチ武器』を示すメッセージ性の強い資料になりえます。ただ、そのためには、その作り手の意図をしっかりと説明するキャプションの充実が不十分だと、観覧者には伝わりません」
仲泊さん:
「プロジェクトを通じて相手国との相互理解を深められたことが、まず大きなやりがいです。またプロジェクトで育成したトゥールスレン虐殺博物館のスタッフが、その後同館の館長に就任するなど、活動の成果が人材育成につながっていることにも手応えを感じます」
平和博物館スタッフと共に(左から3人目:仲泊さん、同5人目:園原さん)
国際協力と聞くと、橋の建設や井戸の掘削といったハードの支援が思い浮かびます。しかし今回のカンボジアでの協力は、博物館の展示方法や資料保存といった技術を人に伝えることを通じ、平和発信の手法を広める「人を育てる」プロジェクトです。パッと分かりやすいハードの支援とはまた異なる、一目には分かりにくいけれど持続的な国際協力の一例と感じました。今後も平和博物館を通じた沖縄とカンボジアでの平和発信の環が継続していく事を願っています。
(記事作成時期:2025年9月)