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【草の根技術協力事業】実施団体の紹介&インタビュー「NPO法人ジョロナ編」

2022.03.14

草の根技術協力事業とは、日本のNGOや地方自治体、大学、民間企業等の団体が、これまでの活動を通じて得た知見や経験に基づいて国際協力活動を提案し、JICAと協力して実施する共同事業です。今回は、バングラデシュで草の根事業を実施しているNPO法人ジョロナ(所在地:北海道札幌市)についてご紹介します。

口腔衛生の改善を通した農園労働者と家族の健康増進を目指して

NPO法人ジョロナは、大学の歯学部の元准教授である滝波修一氏が2014年に立ち上げたNPO法人で、南アジアや東南アジアにおいて、口腔衛生の改善や健康維持に関する活動を行っています。草の根技術協力事業においては、バングラデシュの紅茶農園の労働者及びその家族を中心に、デンタルキャンプ(口腔検診、健康相談、歯磨き講座等)の実施支援や、地域の医療従事者を対象としたミニセミナー、現地の歯科医師を対象とした勉強会や実習支援を行ってきました。
2018年10月に事業を開始したものの、2020年11月からはコロナウイルスの感染拡大の影響を受け、プロジェクトは一時休止となりましたが、2021年10月より、活動内容を見直した上で、プロジェクトを再開しました。
本日は代表理事の滝波修一氏にお話をうかがいました。

お話をうかがった滝波氏と現地の歯科医師たち(窓側で立っているのが滝波氏)

草の根技術協力事業をどのようにして知りましたか。なぜ応募しようと思いましたか。

【第一段階】
当時勤務していた大学の研究科長からの紹介で、医局に来られたJICAスタッフとユネスコの学生交流事業の楽しかった事を話しました。その中で、元留学生であるダッカ歯科大学のAhmed教授が故郷で行っている「無料歯科診療」を見学した際に「バングラデシュで歯科関連の支援をするなら歯科治療面ではなく学童への口腔衛生指導、具体的には歯磨き指導が必要である」と感じた経験を伝えました。
翌々日、そのJICAスタッフが「草の根事業に応募しませんか?」と提案(?)され、事業提案や経費算出等の説明をしていただきました。
その頃、「冒険歯科」という課外活動の顧問をしていましたので、学生に海外活動を実体験させるのに良い機会になるのではと思い、応募する事にしました(「バングラデシュにおける健康増進のための予防歯科モデル事業」2009~2012)。

小学校で歯磨き指導を行う現地の歯科医

デンタルキャンプの様子(コロナ禍前)

【第二段階】
3年間の事業実施経験から「口腔衛生指導専門医育成」の必要性を実感したので2012年から2015年に前事業参加者からのボランティアに対して「育成方法の試行と体系化」を行い、新規の提案を行いました。(ダッカでのテロ事件のため、活動内容を修正。)

【第三段階】
事業活動の有効性の確認、事業実施人員の質・数の確保が出来たので、紅茶農園という小コミュニティ3カ所を対象に口腔衛生維持行動の定着と健康維持・増進を目的に事業を開始しました(「口腔衛生指導専門医による地域住民の健康増進事業」2018~2023)。同時に口腔衛生指導専門医の育成・質的向上のための活動も行いました。

草の根事業を実施して良かったことは何ですか。

何にもまして良かったのは、受益者・対象者となる人々の信頼を勝ち得た事です。コロナ禍で約2年現地を訪問できなかったにも拘わらず、「イヤー待っていたよ!」、「あんたは感染せずに元気だったかい?」と笑顔で迎えてくれたのは「良かった」より「嬉しかった」です(注:2022年1月に滝波氏は約2年ぶりにバングラデシュに渡航しました)。
また、ブランクの間にプロジェクト内容を見直し、コロナ禍でも活動できるよう「展開方法の改善」と「目標内容の充実*」を行ったため受益者に良く理解されるようになり、期待以上の協力姿勢がうかがわれ、事業への好感が感じられました。
(*:口腔衛生の向上により、目標として「健康寿命の延長」が含まれることが容易に理解できる活動を加えた。)

デンタルキャンプで整列をして順番を待つ子どもたち

草の根事業を実施する上で難しいことはありますか。また、2020年度から新型コロナウィルスの感染拡大のため活動を1年ほど休止されましたが、活動を再開するにあたり、どのような点を工夫しましたか。

事業開始当初の困惑は、日本人の感覚では理解できない「現地の慣習」の壁でした。留学生との交流や事業前の訪問などで「分かっていたつもり」は「何も知らなかった」のと同じでした(例えば、事業実施先の保健所では、関係者とのお茶とお菓子を交えた世間話に30分、ご馳走された昼食に2時間はかかることが当たり前、セミナーも参加者が参加費を支払うのではなく、主催者側が「筆記具、茶菓、昼食、参加費」を提供することが当たり前でした)。

コロナ禍による活動休止後の再開にあたっては、密になるデンタルキャンプを控え、「同じ事をするにしても、活動に将来を見据えた何か」を加えなければならないと考えました。私達の活動の大本は生活習慣の改善なので、「日々の生活の改善は将来を見据えたものでなければ継続が難しい」と考えて「健康寿命の延長」を意識させ、「そのための具体的行動」を明示することにしました。
そこで、フレイルの概念を教え、口腔衛生管理の悪化はフレイルを悪化させる要因となることをベンガル語のパンフレットにしました。そして口の機能維持体操もパンフレットに盛り込みました。ついでにロコモ防止体操も加えました(こちらの方がウケましたが・・・)。

デンタルキャンプの問診をする現地の歯科医

コロナ禍での必需品

*フレイル:高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態, 死亡などの転帰に陥りやすい状態で,筋力の低下により転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念(『北海道歯学雑誌41』: 110-115、2021)

草の根事業に関心がある方へのメッセージ

自分が一番楽しむ!

デンタルキャンプで歯磨きの指導をする現地の歯科医

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