【JICA海外協力隊事業】楽しむ力で地域が変わる/陸前高田ほんまる株式会社とグローカルプログラムの歩み
2024.09.19
『JICA海外協力隊グローカルプログラム』は、派遣前の隊員が約2カ月半にわたり日本国内で地域活性化や地方創生に取り組む地域密着型実習です。プログラムでの学びを派遣国での活動に生かし、その経験を再び日本の地域活性に役立てることを期待するもので、東北では岩手・秋田の4自治体の企業や団体が実習生を受け入れています。岩手県陸前高田市の『陸前高田ほんまる株式会社』もその一つ。今回は同社の種坂奈保子さんに、自治体、住民、実習生など、さまざまな人が関わり合いながら取り組むまちづくりの魅力についてお話を伺いました。
「陸前高田のまちづくりのエンジンになる」を目標に、エリアマネジメントや視察研修などの事業を展開する陸前高田ほんまる株式会社(以下、『ほんまる』)では、グローカルプログラム(以下、GP)が始まった2022年から実習生を受け入れてきました。当時は認知度ゼロだったGPですが、「初めから受け入れは大歓迎でした」と種坂さん。「それまであまり受け入れ経験がなかった社会人のインターン、しかも“海外に飛び出して何かをやってやろう”という志を持つ海外協力隊員(候補生)ということで、面白そうな人が来る予感がプンプンしたんです」と笑います。
愛知県出身の種坂さんは、復興まちづくりに取り組むため東日本大震災後に陸前高田へ移り住んだ移住組。GPがもたらす“よそ者視点”の重要性を強く感じていました。「まちづくりにはいろいろな人が関わるべきだと考えています。移住から13年以上たつ私も含め、普段から住んでいる人たちだけだと同じアイデアしか出てこなくなったりするんですよね。短期間でも新しいスパイスを入れていくのはすごく大切なことだと思っています」
種坂さん(左)と陸前高田市のマスコットキャラクター・たかたのゆめちゃん
そんな期待どおり、これまで受け入れたGP実習生たちは、一人ひとりが『ほんまる』や陸前高田のまちに新たな風を吹かせてくれたと言います。例えば、教員として長年のキャリアを持つ60代の実習生は、『ほんまる』社内や地域コミュニティーで若手とベテランの橋渡し役になり、異なる世代間に新しい接点を作ってくれました。またある実習生は、初のイベント企画で集客に大苦戦するも、何とか人を集めたいと雪が降る中チラシ配りを敢行。種坂さんはその熱意に「時にはこれくらいやらなくちゃ駄目だなと、日々の仕事の原点に立ち返るような刺激を受けた」と振り返ります。
三津野さん(左写真中央上) 中里さん(右)のGP中の写真
GP生の活動の様子。(左)地元の皆さんと楽しく一杯(右)産直の生産者さんにインタビュー
こうしてさまざまな活動が展開される中、2024年7月には、新旧の実習生による海を越えた文化交流イベントも実現しました。発案者の太田裕子さんは『ほんまる』での実習中、市街地にある数十店舗の飲食店を全てまわり尽くすなど、ずば抜けたコミュニケーション力を発揮した元GP生です。そこで培ったつながりを生かし、海外協力隊としてジョージアに赴任中、オンラインで陸前高田の人たちにジョージア料理をレクチャーするイベントを企画。当時の現役GP生・加賀澤ひかるさんが陸前高田側の会場運営を担当し、見事開催に至ったのです。
当日は20名近い参加者が異国の見知らぬ料理に挑戦し、「これで合ってる!?」「こんなにバターを入れるの!?」とワーワー言いながら、おいしいハチャプリとシュクメルリを完成させたそう。イベントについて種坂さんは「GP生同士が海外と日本をつないでくれたことで、“現地から直接料理を学ぶ”という体験型の魅力的なイベントを開催できました。これから海外に行く実習生には、現地での活動をイメージする機会にもなったのではないでしょうか。JICAがGPに何を期待しているのかも感じられた気がします」と話します。
さらにこのイベント、加賀澤さんにとってはとりわけ大きな挑戦だったとか。「実は加賀澤さんは料理が大の苦手。相当プレッシャーだったようで、イベント終了後には安堵から号泣するほどでしたが、苦手なことにも臆せず挑戦する姿は、常に周囲のモチベーションに良い影響を与えてくれました」と種坂さん。世界と東北をつないだイベントには、まちづくりのヒントや実習生の成長など、GPの多様な可能性が詰まっていました。
シュクメルリ作りに挑戦する皆さん(一番右は加賀澤さん)
それぞれの持ち味を生かし、地域の“新しいスパイス”となって活動した実習生たち。その背景には、成功も失敗も受け止める『ほんまる』の温かさがありました。失敗からの学びや、やりたいことを形にする難しさを感じるのも実習の醍醐味。そうした考えから「活動の結果は、大成功じゃなくてもいいと思っているんです」と話す種坂さん。それはまちづくりにとっても大切なことだと言います。「GP生は何も言わなくても前向きに頑張る方ばかりなので、成果を上げなければ!と気負いすぎるのではなく、“とにかく楽しんでほしい”と伝えてきました。私自身、移住前は“辛くてもやるのが仕事”と考えていたのですが、地方で働き始めてからは、“毎日やっても苦にならないほど楽しいこと、やりがいがあることを仕事にするという手もあるんだな”と思うようになりました。楽しいと思えることを突き詰めると、それがまちの魅力になることもあるんですよね。ですから、GP生にも楽しむことをなにより大事にしてほしいと思っています」
最後に「属性も年代も多様な人たちが町に関わるきっかけになるGPは、大好きなプログラム。みんな陸前高田に来てほしいので、受け入れ自治体を増やしてほしくないくらい(笑)」と話してくれた種坂さん。受け入れを重ねるごとに感じるというGPの意義について、こんな思いも語ってくれました。「自分のアクション一つで地域が目に見えて変わっていく、というのがローカルで働く面白さです。ローカルであればあるほど、地域を支える一人ひとりの影響力は大きくなります。海外協力隊の活動でも、一つの行動が予想以上に大きく広がっていく経験がきっとあるはず。GPの2カ月半だけでその面白さに達するのは難しいかもしれませんが、海外でたくさんの挑戦をして、1年後でも2年後でも、“『ほんまる』でのあの経験、面白かったな”とじわじわ感じてくれたらいいなと思います。そして帰国後にまた地域での仕事に関わってくれたらうれしいですね。これからも、新しい視点でまちをかき混ぜてくれるような実習生がどんどん来てくれるのを楽しみにしています」
『ほんまる』の愉快なメンバーがGP生をお待ちしています!
本事業の概要:JICA海外協力隊グローカルプログラム(派遣前型) | JICA海外協力隊
世界と東北をつなぐJICA海外協力隊経験者:日本も元気にするJICA海外協力隊(東北編)
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