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東北・東松島市×インドネシア バンダ・アチェ市/相互復興の歩みと描く未来

2025.04.15

2024年12月、2004年12月26日のインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波災害の発災から20年を迎えました。2011年の東日本大震災以降、JICA東北では、草の根技術協力事業や開発教育支援事業などを通じて、多世代にわたるアクターとともにインドネシア アチェ州への事業を実施。特に東松島市とバンダ・アチェ市においては、自治体間で国際協力のための合意文書が締結されるなど、強く連携し『相互復興』を遂げてきた同志ともいえます。

プロジェクトサイトの一つ、アル・デア・テウンゴ村の共同農園にて

インド洋津波から20年の節目に、復興を遂げたアチェ州へ。

2024年12月23日〜29日、アチェ州と関わりの強い東北のキーパーソンや教育関係者が、20周年式典が開催されるインドネシアに渡り、現地の復興活動の成果や協働事業のその後について確認調査を行いました。これは震災当時と現在を比較の上、住民協働の地域づくりや教育現場への還元、さらに次世代への継承をめざし、アチェ州と東北のコミュニティ・教育現場交流の共創プログラムとして企画されたものです。今回この共創プログラムに参加した東松島市の相互復興のキーパーソンの3名の方々に話を聞きました。

川口貴史さん|東松島市教育委員会教育部生涯学習課 文化財係 係長
       当時:草の根技術協力事業 プロジェクトマネージャー
山縣嘉恵さん|防災士、市民プロジェクトSAY’S 東松島代表
       当時:草の根技術協力事業 業務従事者
宮崎一朗さん|東松島市復興政策部復興政策課 企画調整・統計係 係長

プロジェクトサイトの一つ、ランブン村の元村長ザイディさんと東松島市のプロジェクトマネージャーだった川口さん

みなさん、アチェ州とはどんな関わりをお持ちでしょうか。

川口さん:初めてアチェ州のバンダ・アチェ市を訪れたのは東日本大震災翌年の2012年です。その後、2013〜19年まで6年にわたり、東松島市がバンダ・アチェ市との相互復興を目指して実施した ※1 草の根技術協力事業でプロジェクトマネージャー等としてずっと関わってきましたので、切っても切れない縁を感じています。復興事業ではさまざまな縁が生まれ、その時だけで終わってしまった縁も多くある中で、今も続く貴重な縁だと思います。

山縣さん:津波で傷ついたまち同士だからこそわかりあえる気持ちがあって、いつも安心感や癒しをいただいています。生きていく中で大切な“心の友”だと思っています。

宮崎さん:東松島市は震災後にJICAを通してバンダ・アチェ市との交流がスタートし、連携事業や交流も盛んに行ってきました。当時私はバンダ・アチェ市との関わりが薄い部署におりましたのでプロジェクトの詳細までは知りませんでした。3年前に現在の復興政策課に着任したことで、改めてさまざまな取り組みに触れる機会をいただいています。

※1東松島市による草の根技術協力事業は、『東松島みらいとし機構 HOPE』を指定団体として 2 回実施。

今回の渡航が数年ぶりの方もいたと思いますが、渡航前の期待や意気込みなどはありましたか?

川口さん:ちょうど一年前に個人的にアチェを6年ぶりに訪れていたので、過度な期待を抑えることができ、冷静でいられたかなと思います。昨年の個人渡航が「もしかしたら最後かも」と思っていたところにありがたくもお声がけいただき、「もしかしたら、またアチェとの関わりが再開して、新たな交流フェーズに入っていくのかも」とボジティブに受け止めていました。

山縣さん:自然体で心の優しいアチェの皆さんに再会できることが嬉しくて。それをモチベーションに渡航前の準備と日常の活動の両立を頑張りました。過去2回の渡航では気づけなかったまちの様子をもっと感じてきたいと思っていました。

宮崎さん:私は2014年〜20年の間締結されていたバンダ・アチェ市との連携協定の再締結に向け、先方の意向を確認することを今回の渡航の目的に組み入れました。また、バンダ・アチェ市において東松島市との連携事業の中からスタートした地域防災や、コミュニティビジネスなどの取り組みが今も現地で行われているのではあれば、ぜひ直接みてみたいと思っていました。

アルデアテウンゴ村に掲示されているプロジェクト実施当時の写真の前で共同農園兼クリーニングリーダーのヌフスさんと川口さん、山縣さん

今回の渡航の感想を教えていただけますか。

川口さん:今回、草の根プロジェクトの対象になっていた3つの村を再訪することができ、プロジェクト終了後の状況を改めて知ることができました。モデルアクションが、その時だけの一過性のものではなく、地域の方々がしっかりと価値を見出して継続していることを確認できてとてもうれしかったです。ゴミの分別回収やコンポスト活用、共同農園の運営といった草の根プロジェクトを機に動き出した取り組みも、地域の皆さんがその活動にしっかりと意義を見出しているからこそ今も続いているのだと思いますし、創意工夫を重ねて発展していることもわかりました。まさに“草の根”のように根付いていることが実感できました。

アル・デア・テウンゴ村で継続されているゴミの分別について話を聞く東松島市の宮崎さん

ゴミの分別回収ポスターは東松島市のものを参考にしたそうだ。

きれいにゴミが分別されている様子。取り組みが継続されている。

山縣さん:アチェの震災から20年という節目に渡航させていただき、過去2度の渡航では知ることのなかったさまざまエピソードが聞けて、何度も胸が熱くなりました。ランブン村の元村長のザイディさんが「津波被害で子どもを亡くし、生きるのが辛かったけれど、みんなで頑張って復興を目指したことが自分を奮い立たせてくれた。世界中のたくさん方々に助けてもらったのに当時しっかりとお礼が言えなかったことが心苦しい。東松島市とのプロジェクトで学んだゴミの分別は、今も村で続いている。小さな取り組みかもしれないが住民レベルでひとつひとつ出来ることを地道に行っていきたい」と話してくれました。「20年経って話せることがある」という、時間がもたらす癒しにも、コツコツとできること地道に続ける習慣の尊さにも共感して胸がいっぱいになり、涙が止まらなくなりました。この渡航では、現地の方々とじっくりと対話できたので、心温まる時間を共有でき、他では得られないたくさんの贈りものをいただきました。

宮崎さん:「東松島市から来ました」と言うと、現地の方は皆さんとても温かく迎えてくださり、これまでの取り組みを通じて私たちのまちが信頼されていると感じることが何度もありました。東松島市と連携してプロジェクトに取り組んでこられた方々とも直接お会いでき、改めて当時取り組んできた様々な持続可能なまちづくりに対する連携の素晴らしさを感じることができました。また、2013年にバンダ・アチェ市役所から東松島市役所へ研修生として来ていた職員の方と、市役所サッカー部でよく一緒にプレーしていたのですが、今回彼と久しぶりに再会できたことが個人的な思い出となりました。

今回の派遣で印象に残ったことを教えてください。

川口さん:ムラクサ地区にあるウレ・チョという漁港で、草の根プロジェクトにおいて東松島で研修したこともあるハフナンさんという漁師さんが新しい船を作る作業をしていたのです。船を新調できるということは、漁師の仕事がうまくいっているのでしょうし、楽しそうに仕事している姿を見られてこちらも嬉しくなりました(漁師コミュニティの所得向上を図るというのもプロジェクトの一環でした)。そういえば、以前プロジェクト実施中にも彼らの元気な姿から、私たちも元気を分けてもらっていたな、ということを思い出しました。

漁師のハフナンさんが新しい船を作る作業をしていたウレ・チョ漁港

山縣さん:小・中学校でのインタビューでは、震災を知らない子ども達に「親から津波について聞いたことがあるか」と質問したところ3分の2くらいの手が挙がり、「怖いこと、つらい悲しいこと、高いところに逃げなければいけないと言われた、一人でも逃げなさいと言われた」と教えられていること分かりました。また、高台に集団移転した住民の方に、「震災を経験していない子どもたちに津波の話を聞かせているか」と聞いたところ「大きな地震の後には必ず津波が来るから、高いところに逃げることが大事だと伝えている」と言っていて、『 ※2 津波てんでんこ』のような教訓が現地にも根付きつつあることを知りました。JICAのプログラムに参加した現地の子ども達には、「学校で学んだ防災教育をお家の人に伝えることで実際に命が助かった事例があるから、ここで学んだことはお家でも積極的に話してほしい」と伝えたところ、キラキラした目で「ヤー(はいっ)」と元気にお返事してくれたことが印象に残っています。

第48小学校で震災を知らない子ども達に語りかける山縣さん

宮崎さん:イリザ市長の自宅を訪問した際、「バンダ・アチェ市は様々な国やまちと繋がりを持ってきたが、私たちは東松島市との関係をとても大事にしている。私たちと東松島市はともに未曾有の被害を受けたまちとして、兄弟のような関係であり、引き続き協力していきたい」との言葉をいただきました。今回の調査に参画した目的が達成できたと感じた瞬間でした。

※2 津波被害の多い三陸地方に伝わる古くからの言い伝えで、「津波が来たら家族が一緒でなく気にせずに、各自ばらばらでもすぐに高台に逃げろ」という意味。

今後、アチェ州との関わりで期待することはどんなことでしょうか。

川口さん:東松島市とバンダ・アチェ市との連携覚書が更新されれば、連携協力の関係は続いていくことになります。もはや復興というよりは、よりよい未来をめざし、お互いの共通点や相違点、強みと弱みなどを比較して、お互いの利益につながるような関係が今後も展開できることを期待しています。

山縣さん:今回の派遣にも同行された草の根プロジェクト従事者の伊東和希子さんは、インドネシア語が流暢なのでSNSで繋がっているアチェの方々の近況を、日本語に訳して教えてくれます。これからも「わこさんアチェほっとライン」でアチェの近況を聞けたら嬉しいです。距離は離れていても、日常でほっこり、クスッと笑えるようなエピソードを共有すれば、お互いに頑張れる、そんな身近な関わりが出来ると信じています。
宮崎さん:東松島市では震災の記憶や記録と伝えるための震災復興伝承館を運営していますが、この派遣中にアチェの津波博物館を見学したことがきっかけとなって、アチェの震災を伝える ※3 企画展を本市の伝承館で行うことにしました。津波博物館で改めて感じた津波の凄まじさや復興までの様子を伝えるため、津波博物館に協力をいただき、動画や画像を借りて展示を行います。一般的な博物館とは違って震災伝承館では次々に色々な企画展を行えるわけではありませんが、常設展示だけでマンネリ化しないように、川口さんや山縣さんにも協力いただき、多くの人に訪れてもらえるような企画展を開催していきたいと思います。

アチェ津波博物館スタッフと展示の協働について意見交換し合う、東松島市職員の宮崎さんたち

※3 東松島市震災復興伝承館にて4月30日まで開催予定。

アチェ州との関わりは、東北や宮城の復興においてどんな役割を持つと思いますか。

川口さん:アチェと東北・宮城には、津波被災とそこからの復興という共通の経験があります。経験者だからこそ説得力を持って伝えられることがあり、それを連携して発信していくときに互いが重要なパートナーであると思います。被災したひとつの国や場所だけではなく、複数の国が連携して伝えている、という姿に力があります。これから復興を進めていこうとしている被災地域にとって、私たちの共通の知見は復興への大きな後押しになるのではないでしょうか。被災直後は、大小さまざまな課題が次から次と発生し、「ここでやり方を間違ったら大変なことになるだろう」という予感もあって整理がつかず途方に暮れてしまい、ものすごく混乱します。そのようなとき、先達がいることで、とりあえずの進むべき方向性が見出せたり、道しるべとなったり、足がかりになったりするのではないかと思います。いろいろな復興の仕方がありますが、その国の実情に合うベターな選択をして、 ※4 BUILD BACK BETTERを目指してもらいたいですね。私たちなりの恩返しができれば思っています。

山縣さん:アチェ州とは、東北・宮城とともに、震災からの学び、防災教育の体験学習の場として、互いに学び合い、魅力を伝え合う役割が担えるのではないでしょうか。アチェ州の美しい海や美味しい果物、素晴らしい文化や歴史を多くの方々に知っていただき、例えばアチェの博物館と協力して災害伝承を進め、協力する役割を互いに担うこともできる可能性が大いにあるのではないかと思います。

宮崎さん:東日本大震災以降、アチェ州とは東松島市だけではなく、東北の複数の自治体と防災や文化面で連携が図られているほか、特に教育面では次世代への津波防災教育に大きく寄与しているのではないかと思います。今後もできるだけこういった取り組みをJICAには続けていただけたらと思っています。また、東松島市は今回の渡航で今年就任したバンダ・アチェ市のイリザ市長の意向が確認できましたが、再度連携協定が結ばれることで、防災面や文化面でさらなる連携が図れると期待しています。バンダ・アチェ市とは、お互いの良いところを伸ばしていけるような関係性であり続けたいですし、人的な交流にも期待したいです。

バンダ・アチェ市長イリザ氏と長年親交が深いプロジェクトメンバーの伊東さん。被災跡地活用ハーブ園のレモングラスティーをお土産に渡しました。

※4 仙台防災枠組(2015-30)で示された「災害による被害が繰り返されないよう、復興では以前よりも一歩進んだ安全性を備えたまちづくりをする」という考え方。

震災以降、長い時間をかけて実施した各プロジェクトを経て、東松島市とバンダ・アチェ市にしっかりと息づいた相互復興の意識が生まれました。津波被害という同じ悲しみから立ち上がった両市の貴重なアセットを活かし、震災を知らない次世代にも、さらなる共創が生み出されることを期待しています。

・20 Years of JICA Cooperation in Aceh after the 2004 Indian Ocean Earthquake and Tsunami
https://www.youtube.com/watch?v=RUYUBBTcUhQ

・世界とつながり地域を元気に−東松島市とJICAの協力−
https://www.jica.go.jp/Resource/tohoku/office/ku57pq000005nrt3-att/brochure_Higashi-Matsushima_ja.pdf

・【スマトラ沖大地震から20年】インドネシアと東北の学び合い 震災の記憶と教訓を次世代へ
https://www.jica.go.jp/information/topics/2024/p20241209_01.html

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