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【民間連携事業×矢田工業】福島からベトナムへ。丈夫で低コスト型の橋梁建設技術でベトナムの暮らしを支えたい

2025.07.18

矢田工業株式会社は、橋梁工事を主事業とする福島県郡山市の橋梁建設会社です。ベトナムでの低コスト型短橋梁建設技術の導入を目指し、2020年から中小企業・SDGsビジネス支援事業案件化調査(以下、案件化調査)を活用されました。その取り組みと成果、今後の展望について、同社専務の成田英樹さんと常務の成田祐樹さんにお話を伺いました。

■応募のきっかけ|日本国内での需要減少を見据え、ベトナム進出を目指す

矢田工業は、将来の日本国内公共工事減少を見据え、ベトナムへの進出を本格検討。「製作工場を現地に展開した上で、ベトナムで公共工事を受注していこうという目標を立てました。そのためには現地の政府関係者のコネクションの構築が不可欠と考え、JICA制度を活用しました」と、常務の成田さんが当時のねらいを語ります。

2017年に初めて案件化調査に応募し、採択されたのは3回目となる2019年。調査実施期間は、2020年10年から2023年12月までの3年3ヶ月です。ベトナムは河川の多い国ですが、人やモノの自由な移動を可能にする経済インフラとして重要な役割を果たす橋梁が整備されていないところが多く、特に、地方や農村地域では、予算不足が原因で橋梁の整備には遅れがちで、地方・農村部の経済発展、生活水準の向上の阻害要因となっています。

そこで矢田工業が提案するのは、低コスト短橋梁建設技術「イージーラーメン橋」(以下ERB)。この技術を用いれば、5~25m程度の短橋梁を鋼構造とコンクリート構造を組み合わせ低コストで建設することが可能です。ベトナムでの特許もすでに取得済みであり、ベトナムで主流のコンクリート製の橋よりも耐久性が高く、維持管理コストの低減を期待できます。

■案件化調査の成果|現地での人脈が構築され、独自技術への期待と信頼を獲得

「3年3ヶ月の調査期間を経て、多くのベトナム政府関係者と直接お話をさせていただくことができました。私たちが手がけた橋梁や本社、製作工場を来日して見学していただくなど、私たちの持つ橋梁の建設技術、会社としての取り組みに一定の信頼を得ることができたと感じています。また、調査ではベトナムでは公共工事において建設コストを最重要視するということが判明し、いかに低コストでの技術提供できるかが最重要課題と認識できました。現地でビジネス展開を目指す中での、フェーズ1は予定通り達成できたと思っています」

ベトナム政府関係者や橋梁関連研究者が来日し、ERB施工現場を視察(川崎市)

ベトナム政府関係者や橋梁関連研究者が来日し、ERB施工現場を視察(川崎市)

構築できたコネクションとは現在さらにその関係性を深めています。ベトナム交通運輸省(当時)科学技術研究所(以下:ITST)とは、2026年から共同研究を始めることとなり準備が進んでいます。また、ERBに強い関心を示してくれた交通運輸大学の教授は、2024年秋にERBについて「ベトナムの新技術として期待できる」という趣旨の論文を発表されました。

一方で、調査中にベトナムで実施したERBの現地建設見積もりでは、日本製の鋼材を現地で使用すると事前想定よりも建設費としてかなり高価になることがわかりました。それはベトナムでの鋼材の入手コスト、さらに規格に合わせるための加工コストの高騰によるものです。外国製鋼材を使用するなど材料や工法の工夫が必要です。

現地関係者との打合せ

現地関係者との打合せ

■活用後の取り組み|現地法人の基盤づくり、営業活動や人材育成に注力

調査終了後の2024年、ベトナムの現地法人には経験豊富な日本人駐在員をハノイ支店長として迎え、事務、営業と合わせ3名の方が常時出勤する体制を整えました。これから竣工する予定の工場の準備、現地でのリサーチや営業活動のかたわら、採用活動も積極的に行っています。

「弊社には現在ベトナム出身の人材が3名おりますが、全員が交通運輸大学の卒業生で、現地法人のあるタインホア省出身です。彼らは自分の生まれた地域をより良くしたいと、野心をもって活動する優れた人材であり、私たちの夢に共感してくれています。いずれ彼らにベトナムでの事業に従事してもらう予定です。能力と意識の高い外国人材を積極的に採用し、会社としての飛躍を支える存在となることを期待しています」と常務の成田さん。

成田祐樹常務と矢田工業に就職して8年目のグェン・ヒュウ・ツオンさん

成田祐樹常務と矢田工業に就職して8年目のグェン・ヒュウ・ツオンさん

当初JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業のビジネス化実証事業の制度を活用して現地での事業展開のステップアップを予定していましたが、ちょうど制度改編期にあたり、以前はJICAの支援経費で機材購入ができていたものが、機材損料のみ経費計上可能と制度が変わったこともあり、現行制度は活用せず自社での展開を模索しているところです。

※JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業(新制度)
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/activities/index.html

■JICA制度活用のメリット|現地政府関係者とのコネクションが築きやすい

「JICAのプロジェクトというと友好的に対応してもらえるため、アポが取りやすく、現地ではとても動きやすかったですね。政府関係者だけでなく民間の方にも、私たちが依頼や想定している以上の場を設けてもらえました」と成田さんは振り返ります。

「政府関係者や大学・研究機関の先生方に、期待を持って対応していただいたことは、大変励みになり、ぜひ現地でのERB建設を実現させたいと意欲を新たにしました。ベトナムには中国や韓国企業も多く進出しており、競争の厳しい現実も知りましたが、高い目標にやりがいを感じています」と胸を張ります。

■今後の目標|鋼材の低コスト化を実現し、優れた橋梁技術を世界へ提供

低コスト提供のネックとなっている鋼材のサイズ変更がどれほどなら許容できるかなど、設計担当の日本のパートナー企業と協議を進めています。鋼材の加工や建設施工ができる現地の企業との関係づくりを進めるとともに、ベトナムの公共事業の多くがその予算の半分を国が、残りは投資家やファンドが担っているという現実があるため、投資家関係者との関係づくりも同時に進めています。

案件化調査で明確になった課題を精査し、課題ひとつずつに対して解決策や打開案を探っている同社。JICA制度を活用したことで生まれた友好的な人脈を活かし、現地での企業活動の基盤作りに努め、ERBの現地採用を目指して着々と準備を進めています。

現地法人の工場全景

現地法人の工場全景

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