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【課題別研修】「ジェンダーと多様性からの災害リスク削減と気候変動」コースに参加した研修員のその後(現地フォローアップ調査報告)

2026.05.22

JICA東北では2016年より課題別研修「ジェンダーと多様性からの災害リスク削減と気候変動」コースを実施してきました。これまで25カ国から防災・気候変動担当官、ジェンダー担当官、防災・気候変動やジェンダーに関する市民団体職員を集め、参加者数は累計203名に及びます。帰国した研修員が日本での学びを各国の現場でどのように活かしているのか、また実際にどのような課題に直面しているのかを確認する目的で、2026年3月にメキシコとチリを訪問しました。

女性や多様な人々の視点を防災の現場へ(メキシコ)

初めに訪問したのはメキシコ国立防災センター(CENAPRED)に所属する3名の帰国研修員でした。CENAPREDはメキシコにおける防災行政の中枢を担っており、防災に関する技術指導や様々な災害リスクに対応する調査・研究・警報を行うほか、防災に関する政策立案を行う国の機関です。帰国研修員は、CENAPREDにおいて地域コミュニティのレジリエンスを高めるための防災委員会設立のためのガイドラインを作成していました。研修員たちは、日本での研修中に女性や多様な人びとが意思決定過程に参画する重要性を学んだことから、防災委員会にこうした人びとが参画できる仕組みが必要と考え、ガイドラインに反映していました。一方、具体的な活動を推進するのは容易ではないようで、女性、子ども、障害者、高齢者の4つの視点からの防災に関する優良事例や知見を共有することを目的としたフォーラムを企画していたものの、所属先の予算が90%も削減されるという大変厳しい状況に直面。そのため、対面でのイベントからオンラインへ切り替えるなど、やりかたを工夫しながら防災意識啓発の普及活動を推進していました。

クリスさん(2024年参加)。仙台市男女共同参画センターからいただいたDVの啓発ポスターを所属先の目立つところに掲示していました。職場で暴力を容認しない文化を醸成することの重要性を日本で学び掲載することにしたとのこと。

クリスさん(2024年参加)。仙台市男女共同参画センターからいただいたDVの啓発ポスターを所属先の目立つところに掲示していました。職場で暴力を容認しない文化を醸成することの重要性を日本で学び掲載することにしたとのこと。

左からクリスさん、カラさん(2020年参加)、ディアナさん(2018年参加)

左からクリスさん、カラさん(2020年参加)、ディアナさん(2018年参加)

女性の地域防災参画の促進(メキシコ)

ベラクルス州の防災局からハラパ市の防災局の局長に2026年1月新たに就任したアルマさん(2022年参加)。市消防団への女性隊員の登用、災害対応の大型車両を女性が運転できるように働きかけるなど、防災現場での女性の参画を促す活動を展開していました。市防災審議会の設立、ジェンダーと多様性に配慮した地域防災体制の構築などにも尽力。特に、災害のリスクマッピングでDVや子ども・高齢者への暴力といった家庭の問題も、災害時はコミュニティ全体のリスクと捉え、ジェンダーの視点に立ったリスクマッピングを実施していました。これらの活動は、市女性局や大学研究者とも連携して、ツールの開発や活動の評価を実施し政策につなげようとしていました。女性が防災局長という意思決定権限を持つ高い立場に就くことで、防災の対象や優先課題がより多様な住民の視点を反映したものへと広がり、現場の対応や地域防災のあり方そのものが大きく変化し得ることを体現してくださっていました。

「誰も無駄に死んではいけません」とアルマさん

「誰も無駄に死んではいけません」とアルマさん

暴力リスクを信号機の緑黄赤に分けたツールを用いて議論することで参加者も発言しやすくなる効果があるそうです

暴力リスクを信号機の緑黄赤に分けたツールを用いて議論することで参加者も発言しやすくなる効果があるそうです

マヤコミュニティでの防災活動(メキシコ)

マリアさん(2025年参加)は、メキシコのマヤ先住民族のコミュニティに対しアグロフォレストリーの活動を支援するNGOのウヨル・チェの代表です。日々の活動の中で、気候変動の影響で大きなサイクロンが増え、マヤの人たちの防災意識の向上の停滞を課題に感じていました。帰国後、マリアさんはプロジェクト実施地域で災害・気候変動に関する課題分析を住民と一緒に行い、そこで、ジェンダーの視点にたった避難所がないことや、マヤの女性たちが防災活動へ参画していないことを課題として認識したそうです。一方、十分な活動予算がなく、自前で活動を実施するのは難しいため、女性局が女性への暴力を廃止するためのワークショップを実施する際に、防災に関する啓発活動をさせてもらうなど、関係機関と連携して活動をしていました。さらに活動を拡大したいマリアさんは、資金調達活動にも力を入れており、世界銀行の小規模寄付プロジェクトや州にも資金支援の申請し、無事に活動資金を得ることができたと報告がありました。今後のさらなる活動が期待されます。

マリアさん所属のNGOウヨル・チェ(マヤ語で芽吹きを意味する)関係者のみなさんと調査団。

マリアさん所属のNGOウヨル・チェ(マヤ語で芽吹きを意味する)関係者のみなさんと調査団。

気候変動リスクに対応するため在来種の保存にも取り組んでいる

気候変動リスクに対応するため在来種の保存にも取り組んでいる

メキシコ訪問の後、我々はチリに向かい、4名の帰国研修員の現在の状況を確認しました。このうち2名の活動の様子をお伝えします。

農村女性への防災研修の活動(チリ)

チリ国農業省の職員であるパロマさん(2024年参加)は帰国後、「農村女性は災害リスクに対して脆弱な立場に置かれやすく、気候変動に伴う災害に直面した際には、生活基盤や生計手段に深刻な影響を受ける可能性が高い」と考え、農村女性を対象とした防災研修を実施することを企画しました。ちょうど我々調査団の訪問中に、この防災研修が実施され、活動の様子を見ることができました。農村女性グループ約40名を対象に、パロマさんは近年の災害の実態を説明し、災害が発生した際の基本行動など、コミュニティにおける防災行動について、防災庁と連携して指導を行っていました。パロマさんの講義では、神奈川県の女性防災クラブ平塚パワーズの皆さんから学んだ身近にあるものでできる防災グッズづくり(段ボールトイレ、非常持ち出し袋)が紹介されたり、宮城県南三陸町で地元の中高生と実施したジェンダーの視点に立った避難所運営ワークショップの教材を活用して参加者全員で議論をするなど、日本で学んだことを現地での研修の中にうまく入れ込んだ充実した内容でした。研修の実施に当たっては、州政府のジェンダー委員会、防災庁や女性グループと連携し、災害の際に関連する、防災庁、警察、消防団の方々もこのワークショップに参加してもらうなど、他組織を巻き込んだ活動を行っていることも確認することができました。パロマさんは帰国後にすでに7回の研修を実施していることもわかり、日本での研修が彼女の意欲を高めることに繋がりました。研修も大変好評で、今後更に州内30の女性グループに展開することを目指しているそうです。

日本で学んだ防災グッズを紹介するパロマさん

日本で学んだ防災グッズを紹介するパロマさん

避難所運営の課題について話し合うワークショップ参加者たち

避難所運営の課題について話し合うワークショップ参加者たち

様々な関係者と防災知見を共有(チリ)

次に紹介するアリーンさん(2025年参加)はチリの女性省の防災部門で働いています。具体的には避難所運営に関わる方々の能力強化を担当しており、そのため日本での研修中には、ジェンダーと多様性の視点に立った避難所運営に関する現地研修を実施するとした帰国後の活動計画を策定しました。実際の現地研修にあたっては、避難所運営に関わる人は災害とジェンダーとの関連、特に、発災後、女性や女児への暴力リスクが高まることを理解していないことが多いため、統計データや事例をもって説明し、多様な視点での災害リスク管理、ジェンダー視点を適用するための運用チェックリストなど、日本で学んだ内容を盛り込んだ研修を実施したそうです。研修は好評で、今後対象地域を増やしていくとのことでした。次に掲げる活動は、防災庁が作成した避難所運営マニュアルの改善。このマニュアルは概念的なことばかりで、現場で実践できる内容が少ないと感じていたため、仙台の男女共同参画センターが作成した「みんなのための避難所づくり」教材を参考にしながら、現場で活用しやすいマニュアルにできるように取り組んでいるところとのことで、日本で学んだことをチリの現場に合わせ、それを発展させていく取組を確認することができました。

また調査訪問滞在中、アリーンさん主催で防災に携わる国際・国家・学術・地域といった様々なレベルを横断する人材交流イベントが企画されました。このイベントにはパロマさんとアイリーンさんに加えて同じく帰国研修員であるクローディアさんとマカレナさんの4名の他、女性省、チリ大学、区防災担当官、防災省、チリ国際協力庁の職員ら25名が参加し、平時からの備えや女性のリーダーシップ育成、ジェンダーの視点に立った災害リスク削減の重要性について共通理解を深める機会となりました。

左からアリーンさん、パロマさん、クローディアさん(2023年参加)、マカレナさん(2023年参加)

左からアリーンさん、パロマさん、クローディアさん(2023年参加)、マカレナさん(2023年参加)

交流イベントにて各参加者から防災において、ジェンダーの視点に立つ重要性に関する発表が行われました。

交流イベントにて各参加者から防災において、ジェンダーの視点に立つ重要性に関する発表が行われました。

帰国した研修員たちは、活動資金を如何に調達するかの問題や政権交代による環境の変化など共通した課題をもっていましたが、関係機関と連携したり、オンラインを活用したりと工夫を重ねながら活動を続けていることが確認できました。その姿からは、研修を通じて築かれた知識やネットワークが、多様な人々に配慮した防災活動を進める確かな力になっていることが感じられました。また本調査で、国を越えて研修員同士が情報交換を行い、また日本で学んだ防災の考え方や取り組みを、それぞれの国の文化や状況に合わせて活かしている点が確認できたのは大きな成果でした。

JICA東北では、今回の調査結果を今後の研修内容の改善や支援の充実につなげ、ジェンダーと多様性の視点での防災をより強くより包摂的なものとするために、国内外の関係者を繋げていきたいと考えています。

関連リンク

ジェンダー・多様性の視点で防災分野の知見を共有する|JICA MAGAZINE | 広報誌 JICAマガジン

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