【地域理解プログラム】仙台市:音楽・スポーツを通じた地域経済活性の取り組みを学ぶ
2026.11.05
JICA東北では、東北大・秋田大・山形大などに在学中のJICA留学生に対し、日本各地の文化や地域開発事例について知ってもらうことを目的とした「地域理解プログラム」を実施しています。2026年9月10日~12日には「音楽・スポーツで地域経済を活性化する取り組みを学ぶ」と題し、応募のあった20名の留学生に宮城県での事例を学んでもらいました。
音楽やスポーツという全世界共通で関心の高いテーマを、いかに地域の活性化につなげるか。帰国後は母国で行政の担当者として地域開発に取り組む留学生たちに、日本のモデルケースを知ってもらうことで、将来の活動に役立ててもらいたいという狙いがあります。
今回の研修を宮城県で実施したのには、特に宮城県仙台市が、地域社会全体で音楽・スポーツによる活性化の有効なモデルを築いているという背景があります。
仙台市には人気のプロスポーツチームが拠点を置いていて、地元で活動する音楽家や演奏団体も数多く存在します。そのうえで、行政・教育機関・民間企業・ボランティア団体などが連携して様々な取り組みを進めているのが特徴です。
その多くは収益を生むビジネスに紐付いており、行政単体の施策よりも持続しやすい仕組みとなっています。
そうした取り組みのメリットを感じてもらうため、研修に参加した留学生には、行政の担当者だけでなく、銀行や大学、ボランティア団体の関係者など様々な立場の方々による講義を聴講してもらいました。またスポーツチームの拠点を実際に見学したり、イベントに参加したりといったプログラムも盛り込み、地域活性化の効果を肌で感じてもらうことができました。
一日目は講義が中心で、宮城県スポーツ振興課や経済産業省の東北経済産業局の担当者による、スポーツに関連した地域開発の施策が紹介されました。
それに加えて、仙台ジャズフェス実行委員会の方からのイベントの概要説明もありました。研修の最終日である9月12日には、留学生たちもジャズフェスティバルで合唱をすることになっており、自分たちが実際に参加するイベントの意義について、熱心に耳を傾けていました。
また、留学生たちのうち研修期間中にホテルに宿泊していたメンバーは、朝にロビーで集まって合唱の練習をするなど、イベント参加を非常に楽しみにしている様子も伺えました。
二日目には地元の七十七銀行、宮城学院女子大学、女子サッカーの「マイナビ仙台レディース」を順番に訪問し、それぞれの取り組みについて、担当者の方からお話を聞くことができました。
七十七銀行には野球部・陸上部・バドミントン部があり、所属選手は従業員として働きながら、銀行のサポートを受けて練習に取り組み、試合に臨んでいます。民間の企業がそのような形で地域のスポーツ振興に貢献するというのは、留学生たちにとっては新鮮な驚きであり、母国での取り組みで新しい着想を得られることが期待できそうです。
また、七十七銀行の方からも、「今回の講義は、自分たちの活動内容を棚卸しする機会になった。銀行内に運動部を設ける意義を改めて見つめ直すことができた」と、前向きな感想をいただきました。
その後に訪問した宮城学院女子大学では、副学長による、音楽を通じた地域社会のつながりと経済活性についての講義がありました。
宮城学院大学は、音楽家である卒業生たちを行政や民間のイベントなどに派遣する事業に取り組んでいます。同大学が運営する「音楽リエゾンセンター」は、キャリア形成に悩む卒業生たちと、もっと音楽を活用していきたいと考える地域社会とを結びつけるプラットフォームとして機能しています。
副学長の講義の後には卒業生の音楽家による生演奏もあり、留学生たちは忙しい研修スケジュールの合間の、癒しの時間を楽しみました。
二日目の最後には、マイナビ仙台レディースのスタジアムを見学し、スポーツビジネスと地域活性化の関連について担当者から説明を受けました。チームが震災からの復興において果たした役割などについても話を聞き、災害時にはプロスポーツチームも地域社会の一員として支援に回るという話に、留学生たちは関心を寄せていました。
また、マイナビ仙台レディースと地元・石巻市の高校生ボランティアが協同し、試合会場で回収した布で布製ナプキンを作り、アフリカのウガンダに送ったという事例も紹介されました。ウガンダでは経済的な理由で使い捨てナプキンを購入することが難しい女子生徒も多く、再利用可能な布ナプキンのサンプルを送ることで、地域課題の解決策の提案ができればという狙いがあります。
この布ナプキンの寄贈は、プロスポーツチームと高校生ボランティアが連携した事例であり、地域社会のつながりが国外の課題解決にも結びつくという可能性を示しています。
<参考>
若者が紡ぐ、スポーツと友情の絆 ―女子サッカー大会と日・ウガンダ交流会― | 海外での取り組み - JICA
三日目も、午前中はプロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」の本拠地である楽天モバイル 最強パーク宮城を訪問。同じくプロスポーツチームの地域活性における役割について説明を受けつつ、この日は特にビジネスの観点から効果的な施策を学ぶことができました。
収益につなげるために地元のファンにどのように働きかけるかという講義を受けた後、実際に球場内のVIP用観覧席を見学。留学生たちは食べ放題・飲み放題付きで年間120万円というVIP席に感嘆し、「いつか自分もこのシートを購入したい」と話すメンバーもいました。
そして研修の最終プログラムでは、留学生たちが練習の成果を発揮するべく定禅寺のストリートジャズフェスに参加。当日、ショッピングモールの一角に設置されていたストリートピアノの伴奏で、息の合った合唱を披露しました。
留学生の中には人前で歌うのが初めてというメンバーもいて、「仲間と合唱できたことは忘れられない経験だった」「音楽でつながり合えたことが嬉しかった」と言った、喜びの声が上がりました。音楽で共同体の間に一体感が生まれるということを実際に経験し、講義では得られない学びの機会となりました。
今回の三日間の研修では、「地域活性化」の問題に対してスポーツや音楽という新しい切り口でのアプローチがあると、JICA留学生たちに伝えることができました。
行政・民間企業・大学・ボランティア団体といった、地域社会を構成するあらゆる機関が連携して取り組むこと。何よりも、収益につなげることで、施策が形骸化することなく持続的に成果を生むということを、宮城県のモデルケースで示すことができたと考えています。
留学生たちの母国も、災害や紛争など様々な問題を抱えています。震災に遭った宮城県でプロスポーツチームが復興に大きく貢献したように、音楽やスポーツも課題解決に役立つという視点で、彼らは今後それぞれの国の問題に取り組んでくれることでしょう。
今回の地域理解プログラムは非常に好評だったため、JICAでは今後もこうした日本の地域活性のモデルケースや開発の歴史を留学生たちに紹介する活動を随時企画していく予定です。
以上