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コロナ新時代のJICA東京の研修とは?~研修事業総括の伊藤次長、和田次長対談~ 

2020.09.30

「研修員受入」はJICA事業の柱の一つです。開発途上国からの研修員が日本で得た見聞等を母国の社会開発に役立てています。JICAの研修は、JICA東京を含む全国15カ所の国内拠点で行われてきました。今、この研修が新型コロナウイルスの世界中の感染拡大が止まないなか、変化を余儀なくされています。JICA東京で研修事業を総括する伊藤賢一次長、和田康彦次長が、コロナ新時代の研修について、今後の可能性も含め熱く語りました。

【和田康彦次長(左)と伊藤賢一次長(右)】

まずJICA東京における研修の特徴を教えてください。

伊藤:
JICAは120カ国以上の開発途上国から年間約1万人の研修員を受け入れていますが、そのうち4000人がJICA東京で研修を受けています。国内最大規模の研修実施機関として、180を超える日本の関係機関からの協力を得て、保健医療、インフラ整備、環境、産業開発、公共政策等の分野において年間約500コースの研修を実施しています。例年9月から11月は研修員が多く来日していますが、今年は来日が難しい状況の中で、何ができるかを皆で力を合わせて検討し、新たな試みを実現し始めています。

和田:
そうですか。JICA東京には4月に異動してきたのですが、ずっとコロナが収まらないので、研修員だけでなく研修を実施する企業や団体等の関係者ともなかなか会えずとても残念ですね。日本国内で研修事業に関わるのは初めてですが、これまで3カ国での勤務経験の中では、帰国研修員が日本から持ち帰った経験等を職場で生かし、がんばっている姿を目の当たりにしてきました。それからJICA東京は首都にあるため、日本の中央省庁・関係機関と連携しての研修が多いのも特徴の一つですね。

伊藤:
研修は、途上国の人々を対等なパートナーとして共に学び新たな価値を創造する「知識共創」の考え方に基づき、講義、視察、実習、意見交換などで構成されています。JICA東京では、個々の研修でActive Learningという手法を導入し、研修員の主体的な学びと共創を促進する工夫を行っています。JICAは、開発協力大綱に定められた「人間の安全保障」と「質の高い成長」の実現を組織のミッションとしていますが、研修事業はこのミッションに直接貢献すると思います。

例えばどのような研修がありますか?

伊藤:
課題別研修「海図作成技術」は約50年の歴史があり、内容を時代に合わせて変えながら、40カ国を超える400名以上の人材を輩出しました。半年間の研修を終えると国際水路機関(IHO)認定の水路測量国際認定資格B級が得られ、帰国研修員の多くが各国の水路業務のリーダーとして活躍しています。課題別研修「UHC時代の結核制圧と薬剤耐性」も50年を超える歴史があり、帰国研修員が活躍中ですが、最近の話題として複数の帰国研修員が新型コロナウイルスの検査に従事していると報告し励まし合い、研修で得た技術を生かし研修員ネットワークで世界的難局に立ち向かう例として、広報を行いました。同じ検査の分野では、30年を超える歴史のある課題別研修「臨床検査技術」でも多くの帰国研修員が活躍していますが、今年はPCR検査も内容に含めて来日を前提とした研修員の募集をしていました。

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和田:
「刑事司法」、「警察幹部組織運営」、「国際テロ対策」、「人事行政」、「税関行政」、「国際税務行政」、「金融政策・中央銀行業務」、「公的債務とリスク管理」、「持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリングのための公的統計の理論と実務」、「地方自治」、「議会運営・選挙管理」、「民主国家におけるメディアの役割」、「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」、「観光振興とマーケティング」、「エネルギー政策」など挙げればきりがありませんが、法の支配の下で民主主義国家を成り立たせていくための根幹となる様々な仕組みづくりを支援する研修や、質の高い成長への貢献を図る研修など、実に多くの研修があります。

現在のコロナの状況において、社会の様々な面で変化が生じています。研修についてはいかがでしょう?

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和田:
コロナも含まれますが、先進国、途上国を問わず、世界共通の課題がたくさんあります。日本が一方的に知識や技術を伝えるのではなく、双方で対話等を積み重ねながら、世界共通の課題に立ち向かう必要があると思っています。

伊藤:
そうですね。この状況下で、研修員が来日することは難しいため、JICA東京でも遠隔での研修やセミナーを積極的に検討してきました。例えば、7月に課題別研修「高齢化対策」でオンラインセミナーや見学ライブの試行をして遠隔研修の本番に向け準備を行ったり、9月に入り課題別研修「都市公共交通」の帰国研修員を対象にしたオンラインセミナーを実施したり、9月下旬からは課題別研修「サイバー攻撃防御演習」を実際に本格的な遠隔研修として実施したりしています。

和田:
すべてがオンラインになり、日本での研修が完全になくなってしまうとは思いませんが、この現状を日本社会全体のデジタル化や新たな研修事業の価値創造のむしろチャンスととらえることもできますね。忘れてならないのは、研修事業を支える様々な組織で研修を実施する人たちや通訳などを担う研修監理員など多くの人の存在です。特に研修員の様々なサポートも行う研修監理員は親しみを感じている帰国研修員も多く、7月にJICA東京のFacebookに研修受入中断の現状と研修監理員へのメッセージを呼びかける記事を掲載したところ、800を超えるいいねの反響がありました。それからJICA東京管内だけで現在もおよそ250名のJICA長期研修員(留学生)が、こうした状況にあっても各大学で学びを続けていることも皆さんに知っていただきたいですね。

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伊藤:
来日する場合は、航空賃などもかかるため、研修を受けられる人数をきちんと決める必要がありますが、オンラインであれば、無制限・無条件ではないものの、多くの人が研修を受けることが可能になります。今、時差や途上国のネット環境など様々な点を考慮しながら、JICA東京一丸となってみんなで試行錯誤を重ねています。一方で、実際に見聞できる来日研修の価値は揺らがないと思います。コロナをきっかけに温故知新の精神で、知識共創を生む研修の新たな地平を切り拓いていきたいです。
(*役職は座談会実施日、2020年9月15日時点のものです。)

【プロフィール】
伊藤賢一(青森県弘前市出身)
東京大学医学部健康科学・看護学科卒。「人間とは何か?人間の身体について知らなければ、人間の心理や社会も理解できないのではないか?」と学生時代にふと思い立ち、保健学・看護学を専攻。1997年、国際協力事業団入団後、保健医療分野の部署での勤務が多く、海外ではタイ事務所に勤務。JICA東京は2度目の勤務。

JICA東京で行われた研修の閉講式にて

南スーダン事務所時代の和田次長

【プロフィール】
和田康彦 (長野県長野市出身)
慶應義塾大学法学部政治学科卒。南北問題、アパルトヘイトなどアフリカの政治に関心があり、卒業旅行先のアフリカでネルソン・マンデラの釈放の報に接したり、強盗被害に遭ったり。1990年、国際協力事業団入団後、国内では総務部、公共政策部など、在外ではサウジアラビア、エジプト、南スーダン事務所に勤務。

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