畑を若返らせ持続的なコーヒー作りを

2023.09.12

東ティモール民主共和国でJICA草の根技術協力事業により実施している「コーヒー畑の改善事業」についてご紹介します。

老朽化する東ティモールのコーヒー畑

東ティモールは21世紀最初の独立国、アジアで最も若い国です。特定非営利法人パルシックはインドネシアからの独立直後の2002年より、天然資源以外の9割を占める重要な輸出産品であるコーヒーを通じた取り組みを開始しました。アイナロ県マウベシ郡を活動地として選びコーヒー生産者協同組合を組織することに協力し、良質のコーヒーのフェアトレードでの販売を促進することでコーヒー農家の経済的自立への足がかりにしようという取り組みをしてきました。
しかし、東ティモールのコーヒーは木の老朽化や近年の気候変動により収量が年々不安定になってきており、その結果、コーヒーで生計を立てることに希望を見いだせず首都や国外に仕事を求めて出て行ってしまう若者が増えてきています。この課題を解決するために、2019年11月より「コーヒー畑の改善事業」を開始しました。「コーヒー畑の改善事業」では、各集落から畑の改善に意欲のある農家を募り、老朽化した木の植え替えや、台切り、土壌改良、木の手入れを専門家の指導のもとで実践し、得た知識や技術を若い人材にも伝えていきます。

集落ごとに研修を実施し専門家から学んだ技術を実践(写真は苗床づくりに使うたい肥を用意する様子)

地域を巻き込んだコーヒー畑の改善

コーヒー畑を改善するためには、コーヒーの木を根から引き抜く「抜根」、木を根元から30㎝ほどのところで切る「台切り」の主にふたつの作業を行います。抜根した場合は新しい木を植え、台切りの場合は切り株から新しい苗が生えてくるのを待つことで畑の若返りを図ります。木を根っこから引き抜く作業も、直径10㎝から20㎝ほどの木の幹を切る作業も大きな労力を伴います。加えて次の木が育つまでの数年間は、その木からコーヒーの実を収穫することはできません。
2019年の事業開始当初は、一時的にコーヒーの収穫量が減少するこの活動に懐疑的な組合員も多かったため、実際に効果を見せながら理解を広めていくことが重要と考え、初年度は約600世帯の中から16集落31世帯にモデル農家となってもらい活動を開始しました。
事業が進むにつれて活動が地域に浸透していき、事業4年目に入った今年までに全体の半数弱の28集落287世帯がこの事業を通してコーヒー畑の改善に取り組んでいます。コーヒーの木は植え替えてから成木になり収穫ができるようになるまで3~5年かかると言われています。初年度から事業に参加したモデル農家の畑では、植え替えや台切りをした後も施肥や剪定などの手入れを進め、以前と比べて多くのコーヒーの実を確認できるようになりました。さらに一部の集落では、集落ごとに設置した畑の改善を主導する農家が中心となり、協働しながら主体的に活動が進められるようになってきました。

当事業により収穫量の改善されたモデル農家の畑

持続的なコーヒー生産のために

今年は昨年と比べ早くに乾季に入り収穫期が始まりましたが、季節外れの雨による収穫の遅れやコーヒーの乾燥が遅れるなどの問題が生じています。抜根や台切りという大変な作業を経て長い年月をかけて大切に育てたコーヒーの木も、収穫期の気候次第で出荷できなくなってしまうこともあります。畑の老朽化に加えて気候変動による天候予測も年々困難になり、農家を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。このような環境の中でも集落を訪問すると組合員は難しい現実について訴えつつもこれまで一緒に歩んできた私たちを笑顔で受け入れてくれ、これまでの経験から得た知識を活かして品質の高いコーヒーを用意しようと努力を続けてくれています。
自立的に畑の改善に取り組める集落が増えてきたことで、マウベシ地域での畑の改善活動はより広がりつつあります。しかし、全ての集落が自立的に活動を実施できているわけではないため、集落ごとのリーダーや若手の育成が必要です。世代を超えた持続可能な畑の改善に向けたサポートを強化し、誇りを持って自立的かつ持続的なコーヒー生産を行えるような環境づくりを組合員と共に進めていきます。

収穫後に加工したコーヒーパーチメントを見せてくれる生産者協同組合のメンバー

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